関口:学校にとってかゆいところに手を届かせてくれるシステムですね。理想の図書館像を描き、行政がサポートしてくれる。学校にとって力強い味方です。「葛飾方式」と呼ばれる、さらに手厚いサポートがあると伺いました。詳しく教えてください。
入山:葛飾区では、学習センター機能の充実を図る中で、配備する新聞の数を増やしてほしいとの声が現場から上がっていました。22年度までは、新聞を配備している学校は全体の6割、複数紙を配備できているのは2割でした。各学校で新聞購読を契約しており、学校の事務職員が2か月ごとに契約書類や支払伝票の処理を繰り返す必要があるため、業務負担が大きくなっていました。教委の側でも、区全体(対象73校)で年間1030以上の支出伝票の審査が生じるほか、販売店側も個々の学校と契約しなければならず、支払いや契約の手続きに遅れが生じることもありました。
国が策定した第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」の目標達成の観点からも、また新聞が欲しいという現場の声に応える観点からも、新聞を増やしつつ事務負担を減らすことが命題になっていたのが昨年度です。議会からも第6次5か年計画に基づいて新聞を配備すべきとの声が上がっていました。その中で生まれたのが「葛飾方式」です。枯れた技術、行政ではある意味使い古された「一括契約」「一括調達」という方法を、新聞購読の契約に使いたいと発案しました。新聞の購読契約を葛飾区教委の学務課がまとめ、個別の販売店ではなく新聞社と一括で契約し、支払いもまとめて行います。新聞社に確認したところ、民間企業との契約では同様のケースがあるとのことで、各新聞社と話し合いを進めました。銘柄については、各小中学校から取りたい新聞の希望を調査し、それをリストにして新聞社に提出します。23年度は朝日新聞、読売新聞、毎日新聞の3社と個別に契約を結び、24年度からは、産経新聞と東京新聞も加え5社から新聞を選ぶことができる体制を築きました。新聞社からはリストを基に販売店に配達の指示を出していただき、各学校に新聞が届きます。
新しい方法は、関係者全員にメリットがありました。学校側は希望調査に回答するだけで事務作業の負担が減り、学校図書館が充実することで新聞を活用した授業がしやすくなり、児童・生徒の学力向上、リテラシー向上につながります。新聞社も小中学生の新聞への接触機会が増えることで、読者数の増加、新聞離れを防ぐことが期待できます。販売店も契約の煩雑さが減り、売り上げの向上につながります。教委では新たに契約事務が発生しましたが、一方で1000件を超える各校の支出伝票の審査が減り、仕事量も減少しました。何より、第6次5か年計画の新聞配備目標を達成できたのは大きなメリットです。
関口:まさに発想の転換で全体にメリットが生まれますね。他の自治体にもこの良さを理解してもらいたいと感じました。働き方改革に直接結びつくのは非常に有効ですね。
続いて、副島さんが校長として取り組んでこられた学校図書館経営について具体的に教えてください。
副島:横浜市立緑園東小学校の校長時代(13~22年度)は、学校経営の基盤に学校図書館を置きました。学校の教育目標実現のための学校図書館、NIEについてお話しします。
緑園東小は、33年間の歴史を経て22年度をもって閉校となりました。現在は小中一貫の緑園義務教育学校として、司書教諭が緑園東小から引き続き着任し、素晴らしい学校図書館に生まれ変わっています。
着任当時は、中学受験を目指した塾通いの児童が多く、知識偏重、効率主義、指示待ち、何よりも児童間の格差が大きく、競争意識が強い状況でした。先生方は課題を感じながらも、具体的な改革意識を持てていないようでした。そこで、学校教育目標の一つに「自分の思いをもち、自分の力で積極的に学び続ける子」と掲げました。また、「よりよい自分、よりよい仲間づくり」のために、誰かと誰かと競争し合うのではなく自分を高めていく、周りにいる友達は競争相手ではなくお互いを高め合う仲間であることを強く訴えました。先生方にもチームとして子供を育てていくことを意識してもらいました。その中心に置いたのが、学校図書館です。塾で与えられる知識ではなく、学校図書館を活用し、自分の思いを持って自ら課題を解決していくことを子供たちに実感・体得してほしいと思いました。教育目標を実現するため、全ての教科に通じる汎用的能力である「情報活用力」を身につけられるよう、子供たちには学びのプロセスをしっかりと意識させながら、課題解決学習に取り組むようにしていました。
ちょうど横浜市の第一期学校司書配置の時期だったため、学校司書を機能させ、学校図書館を学びの中心に位置づけました。また、どの子にも図書館を身近に感じてもらう環境を整えるため、図書館の三つの機能を整備するとともに、学校図書館活用、学校司書連携を取り入れた授業改善に取り組みました。自ら課題を解決する探求型授業への転換です。さらに、新しい情報はまず図書館から発信し、学校図書館が子供たちの生活に浸透するようにしました。全校朝礼で話した内容に関わるもの、地域からの寄贈物、写真や実物等、全ての情報を図書館に置きました。新聞も情報の一部として児童に活用してもらいたかったので、複数紙を配備できるよう、新聞協会のNIE実践指定校に応募しました。
図書委員会の子供自らが学校図書館を作る試み、英語コーナーの設置、子供たちの作品の展示など、様々な工夫を凝らしました。教室ではなく、学校図書館で授業するなど、学びの場としての環境も整えました。
コロナによる休校の際には、児童全員に2~3冊の本を貸し出しました。休校中でも本さえあれば学び続けることができます。新聞については、図書館に新聞閲覧コーナーを設置しました。他にも、学校司書と担任が連携して授業したり、司書による新聞紹介コーナーを設置したりしました。中でも、本と合わせて新聞を掲示することは、子供にとって新聞が身近になる有効な手段だったと思います。
学校司書の方には、新聞をスクラップし、情報ファイルを作ってもらいました。担任が授業内容に即した新聞記事を見つけるのは難しいですが、司書のおかげで、各教科の授業内容に沿って記事を提供することができました。子供新聞も活用しました。子供が興味を持ちやすく、レイアウトも見やすいと感じています。長年にわたって学校図書館を軸にした経営を進められたのは、常に司書教諭がリーダーシップを取って、学校司書と連携を図ってくれたからです。校長退任後、司書教諭は3回交代していますが、その役割は引き継がれています。
関口:学校司書と司書教諭の連携、それを動かす校長の手腕が大きいと感じます。特に、図書館が学びのプロセスを保障することは大切です。今はChatGPTなどの生成AIで簡単に結果を求めることもできますが、結果にたどり着くプロセスこそが学びであるということが、とても大事だと思っています。学ぶ過程で学校図書館を活用し、真の学びにしていくということが、学習センターとしての在り方だと思います。次は稲井さん、大正大学の図書館の特徴やコンセプトなどをお聞かせください。
稲井:学校図書館や大学図書館は、日々の学びのプロセスを作る場です。今の学生たちはコスパやタイパ重視で、ICT活用もお手のものです。その中で、図書館の利用者数は伸びています。コロナ禍のオンライン授業を経験した学生たちは、対面できるリアルな場の大切さというのをすごく実感しているんですね。
簡単に館内を紹介すると、1階は金の星社や全国学校図書館協議会に協力いただいて、児童書を置いています。昨年は近隣の小学6年生を対象としたキャリア教育の一環として、大学図書館職員が授業を行いました。2階は、資格の本や小中高の教科書、新聞の縮刷版が置いてあり、思い思いに過ごせるようにしています。3階はオープンスペースで、多くの学生が自然にグループ学習を行っています。「図書館では静かに」ということではなく、2、3階は話してもよい場所にしています。学生は、場があればお互いに語り合いながら学んでいきます。また、3階には、各学部・学科を超えて横断的に対応しなくてはならない課題に対応するために、SDGsを中心に様々な分野の本を展示しています。大正大学がある東京都豊島区は、アニメの聖地として関連分野に力を入れています。大学にも表現学部があり、漫画を文化・芸術・学問としてとらえ、英語コミックや、今の学生が知らないような故・白戸三平さんの漫画も置いています。3階から4階に向けては、各学科の本をまずは入門書から並べ、徐々に難しい専門書に行けるようにして、学問の内容がイメージできるようになっています。4階は、静かに思索する場として、学生が卒論作成にいそしんでいます。社会人にも開放しています。
本館の大きな特徴は「学びのコミュニティ」という独自講座です。コロナ禍でオンラインからスタートし、対面開催もするようになりました。「対面コミュニケーション」「人口減少社会」「福祉」「キャッシュレス社会」「宮沢賢治に学ぶ『利他』」「ジブリさんぽ」など様々なテーマで開催しました。このほか、近世怪異文学をテーマにした夜の図書館講座、前橋文学館と連携した講座、豊島区と共催で「にぎやかな図書館祭(フェス)」なども実施しました。