東海体育学会 会長 挨拶
石垣 享(愛知県立芸術大学)
東海体育学会第71回大会を開催します
会員または非会員の皆様、本年も東海体育学会大会を2024年11月9日(土)にウインクあいち(愛知県産業労働センター)で開催します。今年度発刊の機関誌(46巻)の挨拶の中でも述べたように、2019年度から学会大会の講演またはシンポジウムを企画委員会が企画しておりましたが、今年度から、学会大会委員会で企画を行うようになりました。そこで、本年度の学会大会のシンポジウムは、「超高齢社会の今だから考える 中高年に向けた運動・スポーツのプログラム」というテーマで開催されます。近年の本学会の講演およびシンポジウムが学校教育現場についての話題が連続しておりましたので、本大会は、これまでとは大きく方向が変わった内容に取り組む第一歩になると考えております。なお、これまで継続してきた学校教育における部活動問題については、企画委員会によって本年の8月7日(水)に名城大学天白キャンパスでシンポジウムを行なっております。
現在、日本は世界トップレベルの長寿を維持し続けております。国民の平均寿命の延伸には、乳幼児死亡率の低減と寿命の延伸の2面がありますが、日本は両者において成功しています。このことは、国民に対して健康的な生活を送れる社会が実現されていることに間違いはないと考えます。ある意味、日本人は、世界で最も死に難い国民であるとも考えられます。これを可能としているのは、経済力、公衆衛生、高度医療、国民皆保険制度、介護保険制度等の社会環境の影響が大きいのではないでしょうか。しかし、この社会制度の維持の為のコストを労働生産性のある国民が負担しているのですが、当然のことながら、彼らの負担度が年々増加します。現在の日本の問題は、出生数が少なく、老人が増えるばかりであり、2023年に高齢化率が30%を超え、世界の主要国の中ではトップの高齢化率であることです。総務省(統計局人口推計)の発表では、2023年1月1日時点での日本の人口は1億2242万人余りで、昨年よりおよそ80万人減少し、14年連続の減少となり、これは昭和43年の調査開始以来、最大の減少数・減少率であって、特徴的なことは、初めて全47都道府県で人口減少が発生しています。よって、これからの日本は、急激に国民の数が減り、労働生産性の無い高齢者の数が増える状態となっております。このような状況を反映してなのか、日本の高齢者の就業率は、主要国の中でも高い水準であり、近年の高齢者就業者数も毎年過去最多を更新しております(労働力調査、OECD.Stat)。この現象は、年金では生活費を満たすことができない状況であるかもしれませんが、定年後でも働くことができる体力がある高齢者が多いことであるとも考えられます。個人、特に老人が健康であることは、社会保障制度の維持に大きく貢献します。なぜなら、新型コロナウィルス感染症が蔓延する直前である2019年度の日本の医療費の総額は43.6兆円でありますが、その内、後期高齢者(75歳以上)の医療給付分は約4割となっています。来年は、団塊の世代の全てが後期高齢者となる2025年ですが、国民の3分の1が65歳以上となり、5分の1が75歳以上という超高齢化社会を迎え、医療費が54兆円に、介護費が20兆円に達すると推定されています(社会保障給付費の推移等,内閣府,2019)。来年の状況を2025年問題と名付けていますが、ここでの問題は、社会保障費の不足をどうするのかが問題です。しかし、その先の2040年問題では、社会保障制度の持続可能性(例として、厚生年金および国民年金の積立金が枯渇する可能性)、日本という国家が維持できるのかという問題に直面します。また、現状でも介護の負担における公助は十分とは言えず、この負担により、これまで犯罪とは無縁であった子が親を殺す介護殺人も増えており、殺伐とした社会になる可能性も示唆されます。これからの我々は、長寿のための健康ではなく、どの様に生き、そして、どのようにして死を迎えるのかの為の健康を常に考えておく必要があります。
健康の維持は、疾病予防のみならず自らの意思で自律的な生活が行えることを可能とすることで、人生の質(QOL)を担保する側面もあります。そして、日々の運動は、関節障害等が無ければ副作用も無く、社会的負担の少ない最も手軽で且つ効果的な疾病予防方法であり、健康寿命延伸方法であることに疑いはありません。今回のシンポジウムは、これから老齢期に入る人達にとって運動やスポーツについての意義や実践について解説していただきます。シンポジウムの座長には、学会大会委員長の簗瀬教授(朝日大学)に務めていただき、演者には竹島教授(朝日大学)、坂井教授(名古屋学院大学)、渡辺クラブマネージャー(一般社団法人スポーツリンク白川)の皆様に最新の話題をお話しいただけるものと期待しております。このシンポジウムに多くの方々にご参加いただき、活発な意見交換を行いながら、今後の自身の健康や日本の社会のこれからについて考えていただくことを望みます。