講習会プログラム

(8月16日、17日のオンライン座学講習会の内容)

講演プログラム(オンライン、第1日目~第2日目)

各講演内容は、専用サイトのオンデマンド配信動画でも8月下旬~10月までご視聴可能となる予定です。

日程は開催概要・日程をご覧ください。

Wet Lab(実技講習会、第3日目)の詳細はWet Labをご覧ください。

講演1

生体分子と細胞・組織の基礎 (江原鮎香、獨協医科大学)

 ヒトの身体を構成する分子として、水・タンパク質・糖質・核酸・脂質があげられる。これらの『生体分子』は、生命の基本単位である『細胞』の構造と機能を担う。さらに細胞は、構造的・機能的に合目的な集合体として『組織』を形成する。この組織は上皮組織・結合組織・筋組織・神経組織に大別され、それぞれの組織が組み合わさることで『器官(臓器)』を形成する。様々な器官が関わり協調することで、生命活動は維持されている。細胞・組織を用いた研究において、『組織細胞化学は、生体内でどのような物質が、何処に、どれくらい存在するかを知る手法』である。本講演では、この手法を学ぶ上で基礎となる『生体分子・細胞・組織』について概説する。

講演2

組織の取り扱いと固定方法の基礎 ~組織細胞化学の極意に至る第一歩~ (宮崎龍彦、岐阜大学)

 組織・細胞の観察に適切な組織の処理と固定が必要不可欠である。固定の理想は生体活動がそのまま不溶化、不動化されることであり、組織、細胞の構造を正確に観察するために分子の迅速、厳密な不動化を行うことと、その機能を捉えるために、それらの生理活性をできる限り元のまま保存するという矛盾する2つの要件をバランスよく満たすことが重要である。本講演では、まず組織の取り扱いの基礎を概説したのち、化学固定と物理固定という固定の原理と固定剤の種類,固定の条件および標準的なプロトコール、固定をよくするための工夫について詳細に述べ、その後、実験動物の固定に理想的と目される灌流固定のについて実例とともに解説する。

講演3

組織細胞化学のための試料作製法の基本 (藤原研、神奈川大学)

 組織切片を顕微鏡で解析するには、HE染色法を含む様々な組織染色法、標的分子を検出するin situ hybridization法や免疫組織化学、遺伝子改変動物組織での蛍光タンパク質や酵素を観察するなど、多様なアプリケーションがあります。それらは、広く生命科学の諸分野で用いられる実験技術の一つであります。実験の工程はそれぞれで異なりますが、「臓器・組織を固定し、組織切片を作る」という試料作製の過程がスタートです。良い試料を作ることは、良い結果につながります。本講演では、組織細胞化学のための試料作製の基本を説明し、試料作製でのキーポイントや、組織細胞化学の様々なアプリケーションで使用する際の注意点も解説します。

講演4

免疫組織化学の原理、基本、応用 (石井寛高、日本医科大学)

 免疫組織化学法は、特異的な抗原抗体反応を用いることで、組織切片中に存在する特定の物質を顕微鏡下で可視化する免疫学的測定法であり、生命科学・医学分野では標的分子の発現・局在を解析するための非常に有用な研究手法となっている。この免疫組織化学法について、その手法の基盤である抗原抗体反応の原理、および実際の手法適用時に重要となるポイント、特に「抗体」、「固定」、「可視化」を中心に実践的な基礎について出来るだけ分かり易く説明し、その上で免疫組織化学法の拡がりや応用的手法について紹介する。

講演5

蛍光抗体法の基礎と実践 (松崎利行、群馬大学)

 蛍光抗体法は、今日のライフサイエンス分野ではルーチーンに用いられる手法の一つである。簡単な手法ではあるが、ちょっとした工夫でクオリティーの高い結果が得られたり、逆に思いもかけないことが原因で、良好な結果が得られなかったりするのも事実である。本講演では動物組織の凍結切片やパラフィン切片、さらに培養細胞からの蛍光抗体法について、基礎的な知識、および実際の手順と工夫点・注意点について解説する。初心者の皆様にはもちろんだが、実際に蛍光抗体法を始めてみたものの、うまくいかない、もう少し良い結果が得られないか、といった悩みをお持ちの皆様にも参考になるよう、演者の経験を踏まえて解説する。

講演6

抗原性賦活化法の基礎と実際 (増田しのぶ、日本大学)

 免疫組織化学における抗原性賦活化法の開発は、一つの重要な契機であった。抗原性賦活化により、微量蛋白の可視化が可能となり、固定条件による染色性の不安定性が軽減され、染色結果の評価に再現性がもたらさせるようになった。その結果、研究分野においては免疫染色の応用可能性が広がり、さらに、実診療の現場においても応用可能な技術的進歩を遂げた。本講演においては、抗原性賦活化の理論と実践について解説する。抗原性賦活化法の留意点と今後の発展性についても触れ、より実践的な内容となるよう解説する。

講演7

画像データの処理・解析の基礎 (宮東昭彦、杏林大学)

 美しい顕微鏡写真は実験データの提示法として説得力がありますが、画像の取り扱い方を間違えるとその信頼性が低下してしまいます。主要な学術誌の画像処理についてのガイドラインを参照しながら、適切な処理の範囲について説明します。また、画像解析の手法を用いると、陽性細胞数や面積比率、染色強度、共局在の有無といった、画像のもつ特徴情報を数値化して定量的に評価したり、多数の画像を対象として統計学的に検討したりすることが可能となります。無料で利用できる画像解析ソフト ImageJ を利用して、画像解析の考え方やよく使われるテクニックなどについて、主として未経験の方向けに画像解析の基礎について概観します。

講演8

組織化学における抗体作成と神経科学で特に有効な染色法 (渡辺雅彦、北海道大学)

 抗体を用いる免疫組織化学の根本は、特異性のある一次抗体を用いることと、その分子検出に適した組織化学法を適用することにつきる。「カタログに載っている抗体を買って、ラボのプロトコールで染めてみる」という姿勢では、きっといつか大きな火傷を負う。講演では、1)特異性の高い抗体を作成するための「全鎖か短鎖の戦略」と「有用抗体釣り上げ戦略」を紹介することで他の分子とクロスしない特異抗体を得ることがどれほど困難なことであるかについて、2)シナプスのような分子密度の高い領域ではしばしば抗体の組織浸透や抗原到達が阻害される実態とその克服法について、理解が深まることを期待する。

講演9

組織透明化技術の利用法 (日置寛之、順天堂大学)

 組織透明化技術は、生体組織に起因する光散乱の低減化を図ることで、生体試料の深部まで観察することを可能にする技術である。本技術を用いることで、大規模な三次元構造解析が容易になり、形態解析にブレイクスルーをもたらすことが期待される。これまでに多くの透明化技術が開発されており、それぞれの特徴を「透明化能力」「構造保持能力」という観点から概説する。そして、筆者らが開発した透明化技術ScaleS法を例に、透明化処理の基本からイメージング法までを解説する。ScaleS法は電子顕微鏡観察にも対応しており、マクロレベルからナノレベルまでをカバーするマルチスケールイメージングについても紹介する。

講演10

電子顕微鏡 試料作製の基礎、観察法から最新応用まで (太田啓介、久留米大学)

 電子顕微鏡は少し古い解析手法という印象があるかもしれないが、いまだに超解像光学顕微鏡でも到達できない圧倒的な空間分解能を持っている。組織化学的可視化技術の進歩によりタンパクの詳細な挙動が可視化できる現在、電子顕微鏡による超微形態学的裏付けも重要になってきている。しかし実際にトライを始めると、分解能の差から試料の固定が適切でなかったり、TEMやSEMなどどの装置が適切か迷ったり、また画像が得られたとしてもその評価で困るなど、適切な結果を得られるまでいくつもの壁にぶつかることが多い。今回は電子顕微鏡の基礎、特に試料作製の「かんどころ」から光顕-電顕相関顕微鏡法や三次元再構築などの最新応用までを解説する。

講演11

免疫電子顕微鏡の実践 (坂本浩隆、岡山大学)

 電子顕微鏡を用いて行う免疫組織化学を免疫電子顕微鏡(免疫電顕)と呼ぶ。免疫電顕では、光学顕微鏡レベルでは不可能なナノレベルでのタンパク質の細胞内局在を解析することができる。免疫電顕と聞くと初心者にはハードルが高いように思われがちではあるが、手技自体はそれほど難しくはない。免疫電顕には免疫反応を樹脂包埋する前に行うか、後に行うかによって包埋前染色法(pre-embedding method)と包埋後染色法(post-embedding method)とに分類される。本講演では、これら二者の特徴と具体的な使用例を交えて紹介し、免疫電顕を効率よく実践する上で重要な点を、主に初心者に向けて概説する。

講演12

生体機能を反映させた組織細胞形態解析:凍結固定法と関連技術 (寺田信生、信州大学)

 生体において臓器・組織・細胞・分子は、構造や位置を変えてダイナミックに機能しています。この様子を組織切片上で可視化するために、凍結技法は標的とする細胞組織試料をなるべく生に近い状態で凍結させる方法であり,究極的な生体における機能的形態解析を目指す生きた動物臓器への生体内凍結技法も開発されています。この講演では、それらの凍結固定法を種々の顕微鏡標本作製技術と組み合わせた解析手順について概説します。

講演13

Immunoblotting法の基礎と応用 (多胡憲治、自治医科大学)

 Immunoblotting法は、ニトロセルロース膜やPVDF膜などのメンブレンに固定した抗原を抗体の特異的結合性により検出する実験手法である。電気泳動を用いて分離したタンパク質をメンブレンに転写し、抗体と反応させることにより、タンパク質の発現量だけでなく、分子量の情報も得られる。また、特異的抗体の開発に伴い、標的タンパク質のリン酸化やアセチル化などの翻訳後修飾も検出することが可能になった。さらに、適切な実験条件を設定することにより、転写因子などのタンパク質の活性を指標とした検出法や、遺伝子クローニングに利用できる応用的な手法も開発された。今回は、Immunoblotting法の原理および基本的手技に加えて、その応用例について解説する。

講演14

In situ hybridization法の基礎 (菱川善隆、宮崎大学)

 In situ hybridization (ISH)法は細胞・組織切片上で特定の遺伝子を同定する方法です。この方法は、細胞レベルで遺伝子を視覚化できるだけでなく、タンパク質に翻訳されないnon-coding RNA検出や、免疫組織化学で判別しにくい相動性の高いタンパク質のmRNA発現の判別、分泌タンパク質の産生細胞の同定等に関して、PCR等の他の遺伝子検出法に比べて有用な解析法です。しかし、実際の操作と結果の評価については、ある程度の「熟練」と「的確な対照実験」が必須です。実験器具の準備、試料の固定・薄切等の注意点を含め、初心者にも扱いやすいオリゴDNAプローブを用いたISH法の基本的手技と共に蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用した高感度検出法について具体的に解説します。

講演15

トランスクリプトーム解析入門 (郷康広、自然科学研究機構 生命創成探究センター)

 ゲノムDNAには生命活動に必要な設計図である遺伝子が備わっているが、細胞の機能単位は遺伝子から転写されるRNAである。ゲノムDNAは基本的にどの細胞でも同じ情報を持つが、RNAは組織や細胞、また発生や老化などの生理条件によって、転写されるRNAが異なる。RNAが「いつ・どこで・どの程度」存在するのかを網羅的に同定・定量化する手法をトランスクリプトーム解析と呼ぶ。トランスクリプトーム解析により、疾患や薬剤投与の有無など様々な条件間での遺伝子発現状態を比較し、表現型の差を生み出す分子メカニズムを同定することが可能となる。本講演では、トランスクリプトーム解析の実験手法とデータ解析手法を概説する。

講演16

ステロイドホルモン研究における組織学的アプローチ (鈴木貴 、東北大学)

 ステロイドホルモンの動態や病態生理を正しく理解するためには、生化学的解析とともに組織学的な視点が欠かせない。ステロイドホルモンは血中や組織液中を移動するため、組織学的な解析は容易ではない。しかし目的に則して形態学的解析を工夫し、それに生化学的手法を組み合わせることで、ステロイドホルモンの本質がより深く見えてくる。そこで本セミナーではステロイドホルモンを組織学的に解析する際の基本的な考え方や、代表的な解析法を説明する。このような組織学的アプローチが、他の領域の研究においても何らかのヒントになれば幸いである。

講演17

レーザーマイクロダイセクション法の基礎とがん診療における組織細胞化学 (中西陽子、日本大学)

 レーザーマイクロダイセクション法は、解析対象としたい組織や細胞を顕微鏡で同定しながらレーザーで切り取り、回収する方法です。特に、様々な細胞が混在する臨床検体では、その後の網羅的解析などの有効性を高めるためにも重要です。近年、発展を遂げているがんゲノム医療では、実際に患者の病理組織から網羅的な遺伝子解析を行い、治療につながる情報を探索します。患者の病理組織を用いた組織細胞化学的検索は、がんの効果的な治療方針を決定する上で、必須となっています。本報ではレーザーマイクロダイセクション法の基礎を中心として、病理組織検体の取扱いと、がん診療における病理組織を用いた組織細胞化学の概観を解説します。

講演18

病理診断領域におけるAIによる画像解析 (吉澤明彦、京都大学)

 組織細胞化学は,特定の分子の局在や発現状態について、形態学を基盤に解析する研究手法である。従来,顕微鏡によって可視化された組織・細胞は様々な手法で数値化され,その意味合いを統計学的に処理することで,仮説の証明に用いてきた。昨今では対象となる顕微鏡像をデジタル化しコンピュータを用い解析することが多い。近年は人工知能を用いた解析法が出現してきている。人工知能,特に深層学習にはその技術を開発する側面と,既にある技術を利用する側面があり,多くの生物学者は後者の立場となると考えられる。本講演では,組織細胞化学を学ぶ者にとって必要となる画像解析の基礎知識とその応用について人工知能の技術をあわせ概説する。