第35回埼玉県作業療法学会趣意書
本学会のテーマは、「作業療法の魅力 ~広めよう、伝えよう、私たちの仕事~」です。作業療法士の有資格者は、2025年2月1日現在118,471人と10万人をはるかに超えています。世界作業療法士連盟の加盟国のうち、国別で日本はアメリカに次いで第2位の組織メンバー数であることも、作業療法士協会の会員であれば周知の事実であります。しかし、白濱ら1)が調査した高校生の医療福祉職の知名度は、1位医師、2位看護師、3位歯科医師、4位保育士、5位薬剤師であり、理学療法士が13位、作業療法士は14位という結果でありました。また、作業療法士免許を取得後職場に入職しても、数年で退職して違う職種に就く人が一定数認められることもよく聞く話です。このような現状は、私たち作業療法士自身にとって明るい将来を描くことができない要因になりますが、作業療法を必要とするクライエントにとっても嘆かわしい現実であると言えます。
このような認知度の低さ、退職の現状を打ち破るためには、「作業療法の魅力」を広く伝えることが必要ではないでしょうか。作業療法を日々提供している会員の皆様は、目の前のクライエントから感謝されたり、笑顔をいただいたりすることでやりがいを感じていることでしょう。でも、そのやりがいを言葉にして、これから作業療法士を目指そうとする若い人たちや作業療法士に成りたての人たちに伝えることが必要です。私自身は、1990年に奈良県身体障碍者リハビリテーションセンターに入職し、小児の作業療法を実践した時には、脳性麻痺のお子さんとどのように接すればよいか分からない母親に接し方を教えていくことで感謝され、ともに生きていく力をもらいましたと言われたことが印象に残っています。また、1992年には大阪大学医学部附属病院で勤務が始まりましたが、片麻痺を呈した高校教師のクライエントから復職できたのは先生のおかげだと強く感謝され、阪神淡路大震災で末梢神経麻痺を呈した寿司職人さんからは麻痺の回復後握っていただいた寿司を笑顔で振るまっていただいたことが記憶に残っています。その後、1996年から市立吹田市民病院で23年間臨床を継続しましたが、腫瘍の骨転移で起き上がりがままならないクライエントにコルセットのつけ方や起き上がり方を指導し、看護師にも介助方法を徹底することで療養が快適になったと涙を流して感謝されたことなど数多くのやりがいをいただきました。2019年から大学の教員になりましたが、現在は「先生のような作業療法士を目指します」と言ってくれる卒業生の存在が私のやりがいになっています。
この学会の開催を機に、作業療法の魅力が埼玉県作業療法士の会員間で共有できること、そしてその魅力が埼玉県ならびに近隣の高校生をはじめとした未来の担い手に伝わること、作業療法を必要とするクライエントに広まり、作業療法の発展に寄与することを願います。どうか埼玉県における今後の作業療法の発展に一助いただく関係機関の皆様方のご協力とご参加を切にお願い申し上げます。
第35回埼玉県作業療法学会
学会長 花房謙一
1)白濱勲二、安田大典:神奈川県内高校生の医療福祉職の認知度、職業選択、作業療法のイメージに関する実態調査.神奈川県立保健福祉大学誌 第17巻第1号p71-81.2020.