特別講演

 

 

青井 議輝(広島大学)

難培養微生物とは何か?
なぜ培養できないのか?

微生物のほとんどは培養困難であることが知られており、未解明・未利用のまま広大なフロンティアが残されている。近年の培養非依存的な網羅的解析手法の著しい進展により広大な未知領域の存在が明らかになったが、「鍵」となる微生物が培養できないため本質的な理解(因果関係など)や利用拡大に制限がかけられている状況とも言える。

そこで、多くの微生物は培養困難な普遍的な理由やメカニズムを解明できれば、現状では有効技術のない難培養性の未知微生物を培養化するための画期的な新戦略を導き出せるかもしれない。しかし,難培養性を説明可能な普遍的な理由は全く明らかになっていない。また、通常の培養法で容易に獲得(分離培養)できる微生物を解析しても「なぜ培養できないのか」という問いに対する答えには到達しないというジレンマが存在する。

なぜ多くの微生物はなぜ培養できないのか?そもそも普遍的な要因が存在するかどうかも定かではない。つまり、常識的には、多くの微生物が培養できない理由は「培地組成など培養条件が適合しない」こと(だけ)が原因ではないかと考えられる傾向にある。しかし私は、このような「培養条件の不適合性」以外に、まだ十分に検討されていない普遍的な要因があり得ると仮定して、新規分離培養手法を開発してその有効性を実証しつつ、さらにそれらの手法を通じて得られた難培養性微生物を用いて未知なる増殖制御機構の解明に取り組んでいる(そのつもりです)。

本講演では、新規培養手法を開発し、新規未培養微生物を獲得して得られた結果について紹介しつつ、難培養性微生物の本質について議論したいと考えている。

 

 

中根 大介(電気通信大学)

細菌の動きを追いかけて20年
~マニアックすぎる研究の失敗と挑戦~

あなたは顕微鏡で細菌を見たことがありますか?1ミリの1/1,000の小さな生命体であっても、自由自在に動き回ることができます。細菌の世界には美しさと驚異が共存しています。私は約20年間、細菌の動きに夢中になり、学部生からこれまで楽しく研究を続けてきました。しかし、このマニアックな研究を進めるには、たくさんの失敗とちょっとした偶然が必要でした。

本講演では、私がこのマニアックな領域に足を踏み入れたきっかけや経緯、歯学部や物理学科での苦労や挑戦、そしてそこそこの学術雑誌に掲載されるための試行錯誤についてお話しします。私は15年前、第2回細菌学若手コロッセウムに初めて参加しました。それは偶然のことでしたが、その後の私のキャリアにとって重要な出来事となりました。少し泥臭く恥ずかしいのですが、研究をはじめたばかりの大学院生や新しい分野に参入されるかたに向けて、私のこれまでの経験・エピソードを共有します。

私の講演時間の1/3程度で、私のラボの具体的な研究内容やビジョンについてもご紹介します。私たちは共同研究プロジェクトを進め、異分野の研究者と協力して、細菌・微生物が動く意味を統一的に理解するために、マイクロ・ナノスケールでの「かたち」と「うごき」のイメージングに挑戦しています。自然環境中での細菌の姿を少しずつ明らかにすることで、私たちの研究がどのように未来の医療や生命科学に貢献できるかを考えています。