金 賢珠 (食環境科学部 健康栄養学科) 教授
① リカレント教育の背景
疾病を予防し、健康の維持 ・ 増進を図る、あるいは重症化を予防するためには栄養学的アプローチが重要であることが認識されて久しい。しかしながら、 栄養 マネジメント に関する実践的研究の本邦での発表 や報告 は多くない のが現状であり、 栄養介入効果を示すエビデンスの不足が問題 となっている。栄養 マネジメント の効果を科学的に明らかとするには、実践分野に身を置く管理栄養士からの研究報告が欠かせない が 、 多くの管理栄養士 養成校では国家試験を目の前に、卒業研究に は 十分 に 力を 注ぐ ことができない の が 現状である 。その 結果、 多くの管理栄養士が系統立てて データ を分析 、 発表・論文化する能力に乏しく、 仕事の 現場で大量にデータが蓄積されているにもかかわらず、 エビデンスのもととなる研究発表が十分になされていないことが予想される。 また 、実務を行っている管理栄養士 が研究発表や 情報発信の スキルアップ に 、 どのようなニーズを持っているかについての情報収集も不十分である。 一方 、健康栄養学科では、 2 022 2 023 年度の教育力強化特別予算において『健康栄養学科のブランド力向上のためのキャリア支援プログラム』が採択され、その一環として 健康栄養学科の同窓会である「健栄会」を立ち上げた 。また、 メールマガジン 「 健栄会のメルマガ No.1 」を配信し、 2023 年 1 1 月 4 日 土 には 「 健栄会 」 発足記念イベントとして 第一線 で活躍 している 卒業生をパネリスト で 迎え 、「板倉の思い出から今後の健康栄養学科の在り方」 の パネルディスカッションを開催するなど、卒業生との連携による教育力の強化を図ってきた 。
② リカレント教育の目的
本プロジェクトでは、 臨床現場や多 職種 で働く本学健康栄養学科卒業生を対象として、 研究報告や情報発信能力 の向上により キャリアアップ につなげると同時に 社会 貢献 ができる人材を養成することを目指す。学部時代に学び足りなかった科目の学びなおし、データ整理および疫学的・統計学的解析方法の実践、論文の作成などを中心としたリカレント教育を 構築・ 実施 する。また、本 プロジェクト により整備されたモデルコース(健栄会リカレント教育コース) を進展させ 、 本学卒業生以外の管理栄養士や他の医療資格を持った社会人に 広くリカレント教育の門戸開く ことも目指している。
③リカレント教育を進めることで予想される結果と成果
本プロジェクトを進めることにより、本邦における栄養学実践報告の集積につながり、今後の栄養学研究の発 展に寄与することができる。このことは健康寿命の延伸につながる栄養マネジメントの洗練につながり、SDGs の目標 3「すべての人に健康と福祉を」の達成に貢献できると考えられる。また、本学の卒業生が業績を重ねることにより、社会的地位の向上、また学位取得への道を開くと同時に、これを間口として大学院への社会人入学に結び付けられるものと考える。
2024年度
今年度はまず初めに、卒業生のニーズを集約するアンケートを実施した。アンケートの内容は①学びなおしたいこと(基礎系、臨床・応用系、社会学・統計学系、国家試験対策、研究成果のまとめ方や報告スキル、その他)、②学びなおしの内容(学部科目の再受講、学部で学びきれなかった発展的内容、現在の業務に即したオムニバス、その他)、③学びなおしの方法(対面・週1回程度の連続講義、対面・夏休み等の集中講義、オンデマンドのみ、オンデマンド+数回のスクーリング、オンライン双方向)、④学びなおしに必要なサポート(託児所、大学のID、事務手続き、家事代行サービス、その他)、⑤学びなおしに対する期待(現在の職場でのステップアップ、現在の職場での業績作り、転職・キャリアアップ、大学院進学、その他)、などであった。キャンパス移転に関連する業務もあり、全体の進捗が想定よりやや遅れた。卒業生を対象としたアンケートは2025年1月末現在10件の回答を得たのみであるため、有効な解析が難しかった。このため、業務委託により、一般の管理栄養士および栄養士を対象として同様のアンケート調査を行った。その結果、429件の回答から、①基礎系および臨床・応用系の学びなおしの需要が多い、②連続講義、集中講義、オンデマンド形式の希望が同程度で、その他は少ない、③事務手続きのサポートをより多く希望する、⑤転職・キャリアアップと現在の職場でのステップアップを希望する人が多い、などが分かった。さらに詳細に解析すると、管理栄養士で希望が多い項目は①臨床・応用系、②有意差なし、③オムニバス、④ID発行、託児所、⑤ステップアップ、であった。一方、栄養士で希望が多い項目は①国家試験対策、②学部科目の再受講、③~⑤有意差なし、であった。これらのことから、(A)管理栄養士・栄養士に共通して開設する場合は基礎系、臨床・応用系などの科目を用意し、オンデマンドまたは通学が選べるコース設定をする、(B)管理栄養士向けとしては臨床・応用系の科目の対面授業の開設と並行して、オンデマンドでの受講を可能とする。対面授業の受講の場合は、託児所利用を支援する、(C)栄養士向けには管理栄養士取得を目指したコース設定(想定としては学部の実践科目の受講)がリカレント教育コースとしてニーズが高いことが示された。また、栄養士の方が大学院進学を希望している割合が高い傾向がみられたことから、栄養士を対象とした管理栄養士取得オプションとする学院進学コースの設置も有効であると考えられた。来年度以降は、今年度得られたアンケート結果を基に、リカレント教育プログラムのコースを構築し、トライアル運営を検討している。