堀本 麻由子 (文学部 教育学科) 教授
① リカレント教育の背景
代表者は、2016年から外部研究資金を通して、女性リーダー育成をめぐる学習課題の解明に取り組んできた。その研究成果として、企業、公的機関等で実施されている能力開発プログラムは女性のライフイベントに配慮しつつも、伝統的な性別役割分業意識への対応を検討する啓発的リーダー育成にとどまり、講座の学習課題や教育方法は、所属組織の要請にいかにリーダーとして適応するかをねらいとした学習課題、および教育方法が中心であることを明らかにした(Nakamura & Horimoto, 2017)。
一方、成人教育・生涯学習のこれまでの先行研究においても、働く女性のための学習実践・研究は少なく、働く女性の増加とワークライフバランス(WLB)に関する社会的要請から非正規雇用などの社会的弱者への視点に基づく研究活動が要請される。そのため、代表者が参加した日本社会教育学会研究プロジェクト「WLB時代における社会教育」(2020)では、オルタナティブな学習主体の研究から生活と仕事の分断を乗り越えるための学習プロセス、すなわち仕事と生活が密接に重なる学習機会とその学習支援がWLB社会の実現のために求められていることを明らかにしている。加えて、職場や地域で女性がリーダーとして成長する過程においては、社会(生活)から期待される役割と組織(仕事やコミュニティ)に求められるリーダーとしての役割との葛藤におけるジレンマを省察する学習機会(省察的実践)が (Klepper & Nakamura, 2017)必要とされていることも明らかになった。
省察的実践の学習過程とは、組織への適応を目的とした学習活動ではなく、女性(人間)のあらゆる活動領域(生活と仕事)を一体的にとらえた生涯発達を保障する学習活動である。その学習活動は女性たちが自分自身の人生を歩むためのリーダーシップと他者へのリーダーシップを獲得する契機となり、再チャレンジへの自信(自己認識、自己効力感など)をもつことにつながると考えている
② リカレント教育の目的
本プロジェクトで実装を目指す「フレッシュ・スタート」講座では、女性たちが再チャレンジするためのリーダーシップを獲得するために、一歩を踏み出すための自信を得ることを目的とする。女性のライフイベントに寄り添いつつ、女性たちの新たなチャレンジである「フレッシュ・スタート」を援助するための職業と生活の狭間を架橋するリーダーシップ養成を目指したい。本教育プログラムの受講が、受講者一人ひとりの再チャレンジ(たとえば、就職、転職、地域活動への参画、大学院進学など)を促すきっかけとなる。
なお、「フレッシュ・スタート」とは、1960代から70年代にかけて英国で行われたリベラル成人教育を起源にもつ女性のための再出発を援助するプログラムの呼称である(池田, 2004)。本プロジェクトでは、すでに職業経験、地域での活動経験をもつ女性がライフイベントに応じて、再チャレンジするためのリーダーシップを獲得していく過程を援助する学習機会を意味する。
③リカレント教育を進めることで予想される結果と成果
女性の再就職や就労を直接目的とするリカレント講座ではなく、人生の再チャレンジを援助する汎用的なリーダー、リーダーシップ養成を目指す。女性の活動領域(生活と仕事)を一体的にとらえる生涯発達を保障する講座は日本の高等教育機関の先駆的な取り組みとなる。また、東洋大学卒業生(特に女性)向けのリカレント教育プログラムとしても位置づけることで、卒業生の生涯にわたる学びを保障する東洋大学ブランド構築にも寄与できると考えている。
2024年度
本プロジェクトで実装を目指す「フレッシュ・スタート」講座は、女性たちが再チャレンジするためのリーダーシップを獲得するために、一歩を踏み出すための自信を得ることを目的とする。女性のライフイベントに寄り添いつつ、女性たちの新たなチャレンジである「フレッシュ・スタート」を援助するための職業と生活の狭間を架橋し、自身の生涯においてリーダーシップを養成する学習機会を構想することを目的としている。そこで、本年度は、講座の受講が、受講者一人ひとりの再チャレンジ(たとえば、就職、転職、地域活動への参画、大学院進学など)を促すきっかけとなることを目指し、日本の女性の再チャレンジを支えるリーダーシップの学習過程を明らかにするためのインタビューを中心に活動をすすめた。女性起業家2名へのインタビューにおいては、日本の女性に向けられた社会文化的な役割とリーダーシップを養成する上でのサポートシステムを明らかにすることを目指した。海外在住日本女性(韓国)2名への対面インタビューでは、海外において女性がリーダーシップを獲得していく学習過程のためのフォーマルな学習機会のあり方を検討することができた。女性起業家2名へのインタビュー結果については、2025年2月21日にワシントンDCで行われるAcademy of Human Resource Developmentアメリカ大会で、タイトル「Shaping Leadership: The Identity Development of Japanese Women Entrepreneurs」で発表を行った。大会参加者からは、女性の起業を通した生涯の発達を支えるシステムの獲得については、日本のみならずアメリカ、アジア各国でも必要とされていることであるとの知見を得ることができた。2024年11月に行った海外在住女性2名へのインタビュー結果については分析途中であり、2025年9月に日本社会教育学会研究大会(鹿児島大学)で発表予定である。さらに2025年3月~4月には、本学校友会のOG3名に対してインタビューを実施予定である。2025年6月~7月には上述のインタビュー結果を踏まえ、東洋大学フィロソフィアアカデミーにおいてパイロット講座「ダイバーシティマネジメント―リーダーシップのあり方とはー」を実施する予定である。