【本拠点共催】ワークショップ「イスラームをめぐるテクスチュアリティとマテリアリティ」(上智大学)
2025年6月29日(日)
【本拠点共催】ワークショップ「イスラームをめぐるテクスチュアリティとマテリアリティ」(上智大学)
本拠点は、上智大学イスラーム地域研究所と共同で、新しいイスラームの人類学研究会主催のワークショップ「イスラームをめぐるテクスチュアリティとマテリアリティ」を共催いたしました。
発表:
①平山草太(独立行政法人日本学術振興会 特別研究員PD/東京大学)
「書物と供物:ムスハフの液化における/としての「間隔化の力学」」
要旨:本発表では、クルアーンの液化と飲用の実践を、書物と人間の一致に力点を置いて解釈するニーバーらの先行研究を「憑依モデル」として批判したうえで、ユベール=モースの供犠論を援用し、より優れた解釈の可能性として「供犠モデル」を提示する。発表者のフィールドにおける観察事例では、文字を水に溶かして飲むという実践には、きわめて多様な素材の利用や、プリンターや判子による大量複製など、誰がどの素材で書くかということに様々な工夫が施されていた。また、「誤記」を液化して飲用する事例や、液化されたムスハフを動物に投与する事例など、クルアーンの意味内容と人間の一致がその過程に含まれない実践も見られる。先行研究の憑依モデルは媒介の抹消への志向性と心身二元論を前提とするため、こうした物質的工夫や媒介者の権威が介在する意義を説明できない。対して供犠モデルは、ムスハフを聖化し、液化=破壊して飲用=消失させる過程こそが聖俗を「切りつつ繋ぐ」遠隔コミュニケーションとして機能していると解釈することで、物質的媒介のエージェンシーを理論的に位置づけることができる。したがって文字の液化と飲用とは、聖典を犠牲として扱う普遍的儀礼の一変種であり、物質宗教研究の「現前性の問題」に新たな視座を与えると言える。
②近藤文哉(独立行政法人日本学術振興会 特別研究員PD/明治大学、東洋大学アジ文化研究所客員研究員)
「タラル・アサドの言説伝統における「創設テキスト」の布置」
要旨:本発表は、タラル・アサドの言説伝統における「創設テキスト(founding text)」の位置づけを再考した。言説伝統を援用した議論では、クルアーンやハディースなどの「創設テキスト」は、しばしば言説伝統の中核と規定される。それに対して本発表では、拙論「タラル・アサドの「言説伝統」をめぐる連続と断絶の問題:1970年代後半~2000年代の著作から」(『宗教と社会』第31巻、31–45頁)を踏まえつつ、アサドのテキストにおいて「創設テキスト」それ自体への言及が少ないため、その位置づけは多義的に解釈可能であると示した。
企画/司会:
山口匠(人間文化研究機構人間文化創発センター・研究員/東洋大学アジア文化研究所・研究助手)
主催:
新しいイスラームの人類学研究会
共催:
上智大学イスラーム地域研究所
人間文化研究機構グローバル地域研究推進事業グローバル地中海地域研究東洋大学アジア文化研究所拠点
June 29, 2025 (Sunday)
Co-organization of Workshop "Textuality and Materiality in/of Islam" at Sophia University
Global Mediterranean at ACRI co-organized the workshop "Textuality and Materiality in/of Islam" organized by Workshop for New Anthropology of Islam, in partnership with Institute of Islamic Area Studies, Sophia University.
Presenters:
Sota Hirayama (The University of Tokyo)
Fumiya Kondo (Meiji University)
Moderator:
Takumi Yamaguchi (Toyo University)