私たちは、シロイヌナズナecotype C24がキュウリモザイクウイルス黄斑系統[CMV(Y)]に対する抵抗性遺伝子をもっていることを明らかにし、その遺伝子をRCY1と名づけました。RCY1の遺伝子産物はCC-NB-LRR型Rタンパク質で、CMV(Y)のCPを直接または間接的に認識して細胞死を伴う抵抗性反応(HR: hypersensitive response)を誘導し、ウイルスの全身感染を防ぎます。これまでに、RCY1によるCMV(Y)抵抗性にはサリチル酸を介したシグナル伝達経路とエチレンを介したシグナル伝達経路が寄与することを明らかにしたほか、RCY1の過剰発現によりウイルス増殖が単細胞レベルで抑えられる高度抵抗性(ER: extreme resistance)を付与できること、RCY1と相互作用する転写因子WRKY70がCMV(Y)に対する抵抗性に重要な寄与をしていること、RCY1の効率的な翻訳にはイントロンの存在が重要であることなどを明らかにしてきました。現在、RCY1によるCMV(Y)CP認識の分子機序やRCY1発現量調節の機構について研究を行っています。
近年の研究から、自然界のさまざまな植物の中には、ゲノム上にウイルスゲノムと相同の塩基配列を保有したり、ウイルスが潜在・不顕性感染しているものが存在することが明らかになってきました。しかし、地球生態系に生息する約30万種の植物の生命活動におけるこれらの内在性ウイルスエレメントや潜在・不顕性感染ウイルスの役割は、全く未知です。私たちの研究では、病原体としてのウイルスという発想を転換し、自然界の野生植物や栽培作物に明瞭な病徴を示さずに感染しているウイルスに焦点をあて、宿主植物、ウイルス、内生菌・根圏生息菌群集を包括して超植物体として捉え、植物の生命活動を制御するウイルスのはたらきとその具体的な分子基盤を解明します。
ウイルスは変異率が高いため常に多様な変異体が集団内に共存します。この多様なウイルスの集団が宿主体内においてヒトの集団のような社会的挙動を示す可能性が、私たちの研究により明らかとなってきました。すなわち、協力・裏切り・ルールの形成といった社会的挙動です。ウイルスが社会的挙動を示す部分は非常に絶妙な調整がなされており、それがゆえに人為的な介入の効果がでやすいと期待されます。そこで私たちは植物ウイルスの社会システムとその分子レベルでの動作原理を明らかにするとともに、社会システムの弱点を標的とする革新的な植物ウイルス防除技術の確立を目指しています。実験と数理モデリングを組み合わせた研究手法を用い、社会システムの分析と人為的介入の効果予測・検証を一体的に進めています。
東北大学工学研究科金子研究室との共同研究で、大気圧プラズマガスおよびそれを水に溶かしたプラズマ水を使って植物病害を防除する研究を行っています。
東北大学PICS(地球共生型新有機性資源循環システムの構築)に参画し、コンポスト由来のジャンボファージを利用して植物病原細菌を防除する研究を行っています。この研究では、コンポストの有用性の科学的解明と、活用方法の提案を目指します。