Q&A: 講演者に対する質問とその回答
有明海シンポ当日の質問票とその回答について
有明海シンポでは、総合討論での論点の絞込みのために参加者のみなさまのご関心の所在を把握することと、当日の討議時間が不足することが予想されたため質問票を用意しました。会場で配布したところ、32通にわたる質問をいただきました。
沿環連では、当日の討議で取り上げられなかった部分も可能な限り、講演者の先生方のご協力を得ながら、HPなどを通じてご回答する方法を検討してまいりました。その結果、シンポから5ヶ月が経ってしまいましたが、質問票の電子化や回答を講演者から頂戴する作業を進め、順次公開の段階に漕ぎ着けました。講演者の方々にはご多忙のところご回答をいただきました(一部の先生からは今後、ご回答いただける予定もいただいております)。
質問者のお名前や所属の公開については、連絡先がないため全員の方にご了承をいただくことができないなどがあり、暫定的に質問内容のみを掲載とさせていただきました。
シンポを開催するだけでなく、今後も議論や現実問題の解決への対応の場を進化させたいというビジョンがあるのですが、具体的にどのようなシステムにするのかは、まだ試行段階です。現実には、現時点での沿環連が種々の質問に全部対応できる状況ではないのも確かです。ともかく第一歩を踏み出すことにしました。そのためいろいろ至らぬ点があるかと存じますのでご意見などいただけますと幸いです。しかし可能な限り対応していきたいと思っておりますし、さまざまなネットワークを通じて、沿岸環境の問題に研究的にも社会的にも対応できる枠組づくりを目指してまいりたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
対応者:清野 聡子 (東京大学大学院 総合文化研究科 広域システム科学科)
沿環連有明シンポ質問票関連 専用アドレス ariake@icataquo.jp
電子化対応チーム:大崎 博之(SAP)、青島 雄亮(SAP)
1.佐々木先生に対する質問とその回答
<質問票 1>
☆対象 ○個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ◎全体
☆内容
1980年以降、諫早干拓が注目されていますが、有明湾沿岸およびそこへの流入河川などでは(大きなEVENTではない)小規模であるが無数の工事や地形改変が起きた。それらが累積的に重なって影響が出ているとすれば、問題の核心は不明のままとなるだろう。それらの現象は今後も続くので、全体的トレンドとしてはジリ貧にならざるを得ないが(どれほど研究したとしても)。
原因特定できず→対策打てず→このまま続く→?
↓ (破たん願望とrealityは違う)
2001年5月
<回答:佐々木>
現在の認識は小規模工事の累積ではなく、筑後川河口堰、熊本新港及び諫早干拓が問題と考えられていて、これらと有明海環境変化との関係解明がメインな課題と認識している。
<質問票 2>
☆対象 ○個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ◎全体
☆内容
農業では、単一の作物を同じ畑で作ると生産量が減るのはよく知られています。同様に限られた有明海(海水交換率も悪い)で現在のノリの生産量の維持は可能なのでしょうか?一年間にノリが消費する栄養量と有明海が発生する栄養量のバランスは研究されているのでしょうか?畑のように閉鎖された環境と違い海は、外海、河川からの補助があるために影響がでることが遅いと思いますし、回復にも時間がかかるのではないでしょうか?
<回答:佐々木>
農地では肥料や該当作物の影響が残り、輪作障害などが生じるが海では常に海水変換が行なわれているので、このことを心配する必要はない。ノリ消費と栄養塩供給のバランスは十分研究されていないが、毎年ノリが生産されているのを見ると栄養塩は、今年のように赤潮が発生しなければ、十分と考えられる。
<質問票 3>
☆対象 ○個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ◎全体
☆内容
1.問題の解決を目指すのであれば、陸上(農地)の研究者・行政を含めたシンポでなければならない。そうでなければ"犬の遠吠え"になる。
2.この際「学」は研究を進めることになろうが、現地の水産業関係者は負債がたまっており研究者が研究し、論文を書いている間にも破産する人が多い、その時「学」は状況を「利用している」に過ぎないのではないか。
3.現に潮受け堤防はほぼ完成している、これを考慮すると、次の3案が考えられるであろうか。
①このままとする。漁師の苦境は続く。→破たんへ、農地はOK
②開放する。漁師はいささかよくなるか?農地行政は破たん
③妥協案。切半。 痛み分け案
例)潮受け堤防は存置。干拓予定一部中止 一部の漁師は破たん
↑
行政から支援(金)
4.陸小の流入、三池炭鉱のユウドウの掘削による海底地盤沈下、ノリ養殖における網にぬる酸の利用、これらを総合的に検討しなければ問題の解決はむつかしい。「海だけのシンポ」の限界。
<回答:佐々木>
諫早干拓が農地のためと考えている人は、本当のところほとんどいない。残された大義名分は防災であるが、調整池方式である必要がなく農業か漁業かという対立軸は実際には存在しない。
<質問票 4>
☆対象 ○個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ◎全体
☆内容
5.有明海における漁業生産量はlong-termで変化してきている(数十年スパン)。これに対し、こと短期間のデ-タをもとに予測を行う手法には疑問される。特に生態がらみの点について。
6「ノリ養殖」→「陸のタンポ」と同じ.過剰な養殖があった可能性はどうか。網の維持(フジツボは着防止)のため薬剤利用のeffectはどうか
↓
これが正しいとすると痛み分け案になるしかない
<回答:佐々木>
Long termの調査、予測は必要であるが、現在問題になっているのは、近年急速に悪化した有明海の環境悪化である。ノリ養殖が過剰であった可能性はあるが、それが環境悪化の要因とは考えられない。薬剤の効果の可能性は考えられていて調査する必要はあるか個人的には重要でないと考えている。
<質問票 5>
☆対象 ○個々の発表 ◎変遷と現状 ○再生に向けて ○全体
アサリ 堤先生あて
☆内容
・韓国産のアサリがパーキンサスに感染しているようですが、アサリの蓄養の処理水等からの影響があると思われます。今後、輸入.蓄養の規則等は考えているのですか。
<回答:佐々木>
アサリ輸入により日本のアサリのある部分がパーキンサスに感染しているという情報はあるが、これが有明海アサリ減少の要因とは考えにくい。
・砂まきの効果が2,3年という事でしたがその原因は?
<回答:佐々木>
提さんの講演では不明であるが、アサリ稚貝への有害物質の存在の可能性が考えられている。
・高密度が稚貝の死因と考えられないか。
<回答:佐々木>
有明海のアサリは高密度ではない。
<質問票 9>
☆対象 ◎個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ○全体
☆内容
「有明海はにごってあたりまえ、との発言がありましたが諫早湾排水門の開放では「浮泥のまき上げ外洋への流出が漁業に悪影響を与える」という声もあります。はたしてそれが本当か「浮泥のまき上げ」は特に悪影響がないのではないか、教えてください。
<回答:佐々木>
通常の有明海浮泥によるにごりは、栄養塩濃度の調節、ベントス餌料確保その他で有明海生産が寄与していると考えられている。しかし調整池の泥はN2量が多すぎること(堆積して底生物へ悪影響)、過多に栄養塩を含み富栄養化の原因ともなる。しかし、長期的に考えれば、一時の悪影響をがまんして干潟の再生を実現した方が良いと考えている。
<質問票 11>
☆対象 ○個々の発表 ◎変遷と現状 ○再生に向けて ○全体
☆内容
物理要因として潮汐や潮流の振幅、流速の減少が云々されているが量的により大きく作用しているものとしては海面の上昇が特に最近数年間異常に高まっていることの方が干潟の減少に大きく作用していると思います。また有明海における最近の水温の異常な上昇も大きな影響があると思はれますがこちらの方への観点薄いと思われます。(海面上昇はほぼ全体的な現象)
<回答:佐々木>
このことは物理関係者は気づいていて検討課題のひとつとしている。
<質問票 12>
☆対象 ○個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ○全体
☆内容
問題となる現象が起きてから研究が始まることをどなたも指摘されると思いますが、沿岸環境の長期モニタリングステーションを設けている動きはないでしょうか?森林生態学の分野では行われているようですが
<回答:佐々木>
おっしゃる通りで、とくに有明海の環境研究はほとんどがノリのためのもので、有明海全体の海洋生態系を把握するモニタリングはほとんどありませんでした、今回のことを契機にモニタリングが継続することを期待します。
<質問票 13>
☆対象 ○個々の発表 ○変遷と現状 ◎再生に向けて ○全体
☆内容
物質循環の上からは二枚貝による有機物の分析、再生が最重要テーマと考えられるがそのための改善、施策についてご意見をいただきたい。覆砂の有効性、その規模、稚貝の放流等々
<回答:佐々木>
覆砂の有効性、稚貝の放流の前に、何故アサリ、タイラギなどの漁獲がなくなったのかの原因解明が必要です。
<質問票 14>
☆対象 ○個々の発表 ○変遷と現状 ◎再生に向けて ○全体
☆内容
第三者委員会では水門を閉め切って調査を最近でも1年行うとしています。
①調査を行えば「有明海異変の原因」を特定するデータが本当に取れるのでししょうか?
②「根拠を調査している間に(水門を閉め切って)有明海が助かるものも助からなくなるのでは?
緊急性と重視していないならば、原因を特定する事が出来ない。調査を続けるよりも、諫早干潟を再生させる手段をとる(水門を空ける)ことが必要ではないでしょうか?一般市民はそう考えています。
<回答:佐々木>
水門を開ける前の状態を把握するということだと思います。しかしこの調査は早急に行って、干潟を再生すべきだと考えています。
<質問票 15>
☆対象 ◎個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ○全体
アサリの繁殖戦略、初期減耗を見込んで膨大な受精卵を放出しているのではないでしょうか?
☆内容
「漁業-アサリ」
アサリ個体群の体長組成で熊本有明地区干潟産とされる10mm前後の個体数が減少しているのですか。稚貝が少ないとしたら、アサリ採捕の禁止地域を設けるなど貴重な親貝を大量に残すべきです。
<回答:佐々木>
堤氏の報告ではアサリ幼生はそこそこ存在しているのに着底稚貝が少ない、すなわち親貝が不足しているのではなく、稚貝の成長を阻害しているものがあるということでした。そうならば親貝を大量に残しても効果は小さいと考えます。
<質問票 16>
☆対象 ○個々の発表 ○変遷と現状 ◎再生に向けて ○全体
☆内容
①かつては、諫早湾内でかん流していたがセキ止によって湾の奥行きが浅くなった。でかん流が有明海全体の流れに取り込まれてしまったこと。毎日セキ堤の両端から内部に閉じ込まれた汚染海水が毎日放流されていると聞くがこれが本当なら有明海の水産業の壊滅は時間の問題ではないのか。
<回答:佐々木>
簡単には結論づけることはできない
②有明海のノリ不作対策問題で第3者委員会を作る際、水産庁関係者を除外したとのことだが、このため20年?前に南西海区水研資源部長が有明海全域に亘る一斉調査を指摘した青山恒雄博士等が除外されているのは納得が行きません。
<回答:佐々木>
個人的には私はそう思います
<質問票 17>
☆対象 ◎個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ○全体
☆内容
干潟の浄化機能について、環境条件によってもちろん差はあるか、砂質干潟と比べ泥質干潟の方が浄化機能が高いように見受け荒れるが、フィールド調査からみて、そのように考えてよいか。そのことは泥質干潟の生物学特性と関係しているように思うが、そう考えてよろしいか。
<回答:佐々木>
砂質干潟の浄化機能はある程度解明されている。泥質干潟についてはほとんど研究されていないので、今回に泥質干潟の浄化機能の研究を精力的に行なうべきだと考えています。
<質問票 18>
☆対象 ○個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ◎全体
☆内容
干潟は天然の浄水(化)場といわれていますが、諫早湾干潟の干拓により、それだけ有明海、特に諫早周辺の浄化能力が低下したことは否めません。夏期の海水成層期には前以前に低層で嫌気層が発達し、それがベントスの存在に影響を与えている事は明白です。ノリはアンモニアを非常に嫌います。秋口に底層形成されたアンモニアが充分硝化しないうちに、ノリ養殖期になり(アンモニアに対しノリより強いと思われる)ケイ藻が先にN源を横取りし、ノリの生育期にはN不足になったとも考えられます。東京湾では昔、夏に台風がくると、その年のノリは豊作といわれてきました。これはアンモニアの硝化が底層までの攪拌で促進された結果でしょう。水産と有明海の生物との関係をもっと研究する事が必要ではないでしょうか。
<回答:佐々木>
ノリがアンモニアを嫌うということはないと思います、ただアンモニアは高濃度になると毒性があります。有明海で有毒になるほどアンモニア濃度が高いのかどうか調べる必要があります。
<質問票 21>
☆対象 ○個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ◎全体
☆内容
参考になる多数のお話しを有難うございました。複合的な要因によってさまざまな問題が発生しています。解決した様に思えても逃げ水のように次々から問題が発生するだろうと予測します。そこで英知をつくしたこの学会の意識として具体的改善の仮説を打ち出し何らかの検証を重ね,経験則をダイナミックに打ち出してみませんか?例え間違えても最高の改善が出来ると思います。
<回答:佐々木>
海洋学会環境問題委員会では原因についての仮説を発表していますが改善の仮説を出すに至っていませんので、検討してみます。
<質問票 21>
☆対象 ○個々の発表 ◎変遷と現状 ○再生に向けて ○全体
☆内容
サロマ湖のような管理漁業をやっていたらどうだったのでしょうか。
<回答:佐々木>
重要な視点だと思います、そのためには有明海全体を物質循環、生物、漁業とこれを支える流れなどを把握する必要があり、今日を契機にそのように発展することを希望します。
<質問票 24>
☆対象 ○個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ◎全体
☆内容
今回はノリ養殖不作の原因となった珪藻Rhizocscleniaが、何故卓越したのか?日照等、通常の植物プランクトンに共通した作用する要因での説明は説得力がない。もっとも増殖の強い種は別に沢山いる。捕食者(二枚貝、動物プランクトン、小型魚類)といった生物的制御者について、もっと情報を集め研究を進める必要がある。あと濁りの位置づけが必要。
<回答:佐々木>
難しいが正しい指摘だと思います。
<質問票 25>
☆対象 ○個々の発表 ○変遷と現状 ◎再生に向けて ○全体
☆内容
これまでの議論を通じて、有明海の干潟の減少による浄化機能は低下が今日の不作の一因という印章を受けました。滝川先生の報告の中に各干潟の浄化能の表がありましたがこの計算に従った場合、かつての諫早干潟の浄化能はどの程度あったと推測されますか?よく一色干潟の例が出されますが砂干潟泥干潟の違いをどのように計算すればよいのでしょうか?さらに諫早湾干潟の再生を目指す場合現在干陸化している西工区の復元が重要ですが、この可能性はどの程度あるのでしょうか?(現在西工区は干陵化し陸生の雑草がおい茂っています)諫早だけでなく有明海全体で失われた干潟再生の可能性をお示しください。
<回答:佐々木>
泥質干潟の浄化能はまだ未知です、滝川先生の示した脱窒能はあまりに大きいと思います。有明海調査で泥質干潟の浄化能の解明を最重点課題のひとつとしてもらいたい。
<質問票 26>
☆対象 磯部先生、松田先生 ○個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ○全体
☆内容
潮汐及び平均水面が変わると干潟面積などが変わるという話があったが、河川流入の形状や分析がどのような変化するのが河川と海(特に流れ)の関係はどのように変化するのだろうか
<回答:佐々木>
岩波の科学7月号 宇野木論文に述べられている。
<質問票 21>
☆対象 ◎個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ○全体
赤潮
☆内容
1)Rhizosclenia inbricataについて諫早湾周辺の漁師の話だと、今年の1~3月親指ほどの大きさの塊が諫早湾内、特に潮受堤防付近で多く見られたそうです。これはRhizosolenia inbricataのマットだったのでしょうか?情報を持っていたら教えてください。
<回答:佐々木>
今年は伊勢湾でもリゾソレンア赤潮でノリが不作とのこと、しかし有明海では何故大被害となったのかが重要だと思います。
2)夏の赤潮発生のメカニズムとして、底泥の濁流→底層の嫌気化→(栄養塩の回帰増)、ということが一般的にいわれていますが、この事はまさに諫早湾内の現状と良くあてはまるのではないでしょうか?
<回答:佐々木>
可能性は大きいと思います。
<質問票 28>
☆対象 ○個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ◎全体
流域の下水道整備と下水処理場の数、規模、処理方法
☆内容
相模川口の下水処理場。排水口付近の水質を簡易キットを使って調査しているが、極端に大腸菌の数が少ない、塩素処理が影響を推測できるか?そういう視点じゃ研究はされているのですか
<回答:佐々木>
塩素処理が沿岸生態系へ及ぼす影響の調査はないと思います。海にはNaClの型で多量にCl(塩素)があるので。
<質問票 30>
☆対象 ◎個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ○全体
☆内容
滝川
↑
・基礎的な物理量(水温・塩分・00分布等(経時変化))を示してほしい。
・潮汐周期より長いスケールの流水はどうなっているか
・のり生産量がアサリの生産量に影響を及ぼすことはないのか
(のりはアサリの天敵?) ↓
ツツミ タキガワ両方
<回答:佐々木>
生態学的にはない(両立している干潟が沢山ある)。ただ両方が一緒にできないので、場所の取り合いはある。
2.古谷先生に対する質問とその回答
<質問票 29>
☆対象 ○個々の発表 ○変遷と現状 ◎再生に向けて ○全体
☆内容
古谷さんのコメントに関してメカニズムが解明する前に答えを出す3つの条件
①説明責任②柔軟性(仮説)③モニタリングということですか
柔軟性の確保についてどのようにすればよいかお考えを!
<回答:古谷>
柔軟性は、説明責任(公開性)やモニタリングと密接にリンクすることによって確保します。アセスメントなどにおける判断は、その時に得られている情報の量と質および科学のレベルで決まる予測に依存するわけです。その予測には常にある程度の不確実性がどうしても伴うため、現状把握(モニタリング)によってその不確実な点を絶えず修正してかなければなりません。場合によっては再判断が必要になるでしょう。公開性によってそれを広く共通の認識につなげていくことになります。その過程で過去の判断に誤りがあれば、それが誤りであったことが共通の認識になるわけです。異なる利害の立場が対立する場合の合意形成には出来るだけこの部分を透明にしていくことが不可欠です。これが柔軟性を確保することになります。おそらくこれ以外にはないと思います。利害から離れた第3者委員会がどのような判断をするにしても、科学的議論が不透明、あるいは明確な科学的議論がなされているにもかかわらずそれが共通の認識になっていないと、利害に関わるそれぞれの立場に立った主張がぶつかり合うだけになってしまうのではないでしょうか。これまでの関連事例を見ていくと、この点が最も柔軟性を損なうことになっていると思います。
3.菊池先生に対する質問とその回答
<質問票 6>
☆対象 堤 裕昭先生 ◎個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ○全体
☆内容
アサリ・ハマグリなどの生産について
1968年ごろから急に生産量が上昇していますがこれは貝をとる人口が増えのですか?アサリを食べている生きものがふえているとかいうことはないのですか?
<回答者 菊地泰二>
1960年代までは、生きた水産物の長距離輸送手段がなく、有明海のアサリは採っても沿岸町村からせいぜい福岡市までが流通圏で、多量に採ると値崩れするだけだった。利用も、味噌汁の身など日常の和食のおかずに限られていた。高速道が伸び冷蔵トラックによる長距離輸送が可能になったため遠隔地の都市圏まで販途が拡がり、また洋食の食材として季節を問わず需要ができたため、多量出荷しても値崩れしなくなったのが多くの漁民の採貝漁業への参加をもたらしたと考えています。全国的にアサリの市場単価は70年代以後高水準を保っています。年8万トンという最盛期の漁獲量は採りすぎとしても、毎年の新規加入が順調に育てば2~3万トンの漁獲量は維持できるように思うが、減少はとまらず、貝に依存する漁民の数が激減しても資源は回復しない、最盛期20以上あった養殖業者も今は2つだけ、中国産の輸入アサリの蓄養、出荷が主な仕事である。ハマグリは天然物はほとんどなく区画漁業権での養殖が大部分を占めている。
貝類捕食者は影響していないかという御質問だが、1980年代にはアサリに穿孔して捕食するタマガイ科の巻貝を調べたり、スナモグリやアナジャコの急増が地盤をゆるめて二枚貝の生存を妨げるのではないかとその生態や密度の研究が熊本県水産センターで行われた。局地的には関連がうかがえる場所もあったが、資源の減少はそれらの他種の存在しないところも含め広汎な地域で起こっており、底生肉食者はあまり棲息できないのが現状である。渡り鳥ではオナガガモがアサリの中・小型貝を1羽で1日数十個食べることが、狩猟で殺された数個体の胃内容で確認されているが量的推定は難しい。諫早湾北岸のアサリ養殖場ではアカエイの食害もあり、熊本県でもアサリ漁場の上にロープを低く張り食害を防いでいるところがある。捕食者が近年増加した事実はありません。アサリ漁場が少なくなったので、そこに集中しているかどうかは不明。
<質問票 9>
☆対象 ◎個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ○全体
☆内容
「有明海はにごってあたりまえ、との発言がありましたが、諫早湾排水門の開放では「浮泥のまき上げ外洋への流出が漁業に悪影響を与える」という声もあります。はたしてそれが本当か「浮泥のまき上げ」は特に悪影響がないのではないか、教えてください。
<回答者 菊池泰二>
私は有明海の干潟、極浅海域に関しては大きな潮汐流に伴う底表微細泥の再懸濁、最沈殿は常時あって当然で、これが止まれば干潟の浄化機能の著しく低下すると考えています。有明海奥部の平均粒子径数ミクロンの干潟をヘドロだと思う砂干潟しか見慣れていない人の意見は間違っています。現在潮受け堤防の外側に泥が堆積しつつありますが、これも極めて正常な現象だと思います。砂底と泥底では住む生物に相違があるので、水産資源やその餌としての価値評価は別ですが。それと諫早湾締め切り提開放に伴う濁水の問題はまた別のことです。現在堤防内の遊水池は水の動きのないところへ河川からかなり汚れた水が流入し、N,Pの濃度が高いだけでなく、内部の泥には重金属やいろいろな汚染物質も溜まっているようです。また、樋門を開けた場合、そのすぐ外側の泥底が水流の勢いで洗掘され、濁水がまとまって流れれば北部樋門外側の小長井漁協が心配しているような漁業被害も起きる恐れはあります。水質の差は常時開放すれば平均化すると思いますが、内部の干拓地を全部海に戻すのではない限り、また、一度干陸化した元干潟に何年で海の生物が戻り浄化機能が回復するか、その過程での樋門隣接域の漁民の生活への護衛は必要かも知れません、洗掘による泥の流出(これは干潟上の再懸濁とは質が違う)は、工学的手法で防ぐ必要があるかと思います。些細なことですが、ご質問のなかに「浮泥のまきあげの外洋への流出」とありましたが、これは諫早湾外の誤りと思います。島原市以南の有明海は外海水の流入で透明度もよく有明海奥部の懸濁流の影響はありません。養殖ワカメなどは泥粒子が付着すればマイナスの影響がるかもしれません。いわゆる外洋は、有明海を出外れてその外側の千々石湾を通った外側の天草洋まででなければなりません。
<質問票 20>
☆対象 松田先生 ◎個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ○全体
☆内容
物質循環、特に還元の問題については、生態系のはたす役割が重要だと、私も思います。そこで質問なのですが、ppbの単位で生態系に影響を与えているいわゆる環境ホルモンについて(その影響のメカニズム等も明らかではありませんが)先生のご専門の環境循環系制御学では、現時点でどのように考えておられるでしょうか。ご教授いただければ幸いです。
<回答者 菊池泰二>
平成12年8月、大牟田川中流域でのダイオキシン濃度が350pg、と環境基準の350倍あることが福岡県の検査で判明、これはダイオキシンを含むことがわかって使用禁止になった農薬CNPを三井化学(株)が大牟田工場に保管していたものが洩れたもの。平成11年環境庁調査でも柳川市沖合で2.4pgのダイオキシンを検出、平成12年大牟田市は河川のダイオキシン濃度がコンクリート壁の継ぎ目補修によって1.2pgにさがったこと、海産の魚介類では基準を下まわったことから食品としての安全宣言を出した。九大農学部水産環境科学の本城教授の研究室では平成10年から福岡有明沖の5地点で海水、低泥、タイラギなど貝類のTBTを調査、10年には海水1リットル当り平均38.7ng、底泥では平均39.4ng乾泥が検出されている、大牟田沖ではインポセックスのイボニシも発見されている。平成11年は海水で2.67ngに減少、ところがタイラギの生殖腺から1gから30.4ng、アサリの固体から最高89ngのTBTを検出している。TBTは全国漁業連合会が1987年に使用を禁止、環境庁は1990年TBTの1種トリブチルオキシドの製造、輸入を禁止、ほかのTBT化合物も行政指導で製造を禁止している。紫外線下では自然分解が進行し1,2年中に消滅しなければならないはずなので、使用禁止後もなおどこかに温存され使用されているのか不明である。
<質問票 25>
☆対象 ○個々の発表 ○変遷と現状 ◎再生に向けて ○全体
☆内容
これまでの議論を通じて、有明海の干潟の減少による浄化機能は低下が今日の不作の一因という印章を受けました。滝川先生の報告の中に各干潟の浄化能の表がありましたがこの計算に従った場合、かつての諫早干潟の浄化能はどの程度あったと推測されますか?よく一色干潟の例が出されますが砂干潟泥干潟の違いをどのように計算すればよいのでしょうか?さらに諫早湾干潟の再生を目指す場合現在干陸化している西工区の復元が重要ですが、この可能性はどの程度あるのでしょうか?(現在西工区は干陵化し陸生の雑草がおい茂っています)諫早だけでなく有明海全体で失われた干潟再生の可能性をお示しください。
<回答者 菊池泰二>
諫早湾の生産力や水質浄化能については、シンポジウム当日は述べる材料を持ち合わせませんでしたが、その後佐々木克之氏が岩波書店から出ている雑誌「科学」七月号(諫早湾、長良川河口堰特集号)に、私が以前書いた諫早湾干潟のハイガイの現存量推定を用いた二次洗浄化能を、滝川氏が当日発表された脱窒速度推定値をもちいて二次浄化の齲を推定し、結論として、それは諫早湾への流入負荷全部処理するのに十分なのどの浄化機能があっただろうそ推定します。一般には砂干潟のほうが浄化機能は大きいとされています。砂干潟は粒子間隙がより大きいため干出時に地下水位が下がり、そこまで空気か表面水が入るので好気性細菌による有機物分解に有利な為です。泥干潟は干出しても底質粒子がこまかすぎて土中水分は毛細管現象で保持され入れ替わりが乏しいので、酸素供給が無く嫌気性細菌による分解がおこなわれがちで、硫化水素臭のある黒色泥になりがちです。しかし、有明海の場合、締め切り禅の諫早湾を初め各地の泥干潟は泥中の硫化物濃度は非常に低かった(1988年諫早湾干潟の岸から1kmまでの範囲の数十地点を調査したところ、硫化物濃度は本明川口を除き0.02-0.03mg/g乾泥。)これは、高密度にすむマクロベントス(大型底生動物)の生物撹拌作用と大きな干満が止まった1ヶ月後諫早湾の泥は黒変し、硫化物濃度が急増しました。この再懸濁作用を加味した浄化能の推定法は世界的にも完成していないと思います。新聞情報では、長崎県は、今度干潟浄化機能推定に実績ある愛知水試の人(鈴木輝明氏か?)に泥干潟の浄化機能の評価を委嘱する由です。西工区はすでに干陸化し周囲を頑丈な内部堤防で囲まれています。地盤も地上から輸入土や遊水地底からの浚渫土で大分嵩上げされているようです。干潟の機能を取り戻すには、内部堤防を全部壊し、現在のグラウンドレベルを以前の干潟面に戻し、海水準の干満、潮の動きを以前のように戻すことが必要です。有明海全体についても、すでに、二、三十年前に干拓ができてしまった場所を全部干潟にもどすことは難しくても、現在する干潟をかつてのようにアサリを始め干潟ベントスの質量両面の回復をめざすことですが、アサリの減少原因もまだ突き止められずにおります。
<質問票 31>
☆対象 ◎個々の発表 ○変遷と現状 ○再生に向けて ◎全体
☆内容
☆①<菊地先生> 底生生物相
長崎大学の先生が発表された諫早干拓堤防閉切り後、ベントスが激減したという報告を否定されるような発言をされるような気がしますが、意味がよくわからなかったので補足の説明をして頂きたいと思います。
②<漁業>先日水産庁が有明海の2000年(昨年)の漁獲量統計を入手しました。
1972年から漁獲量の平均を、諫早干拓の潮受堤防工事の開始と、その閉切りに目をつけて
(1)1972年~1989年 (2)1990年~1996年 (3)1997年~2000年
(工事が始まるまで) (工事が始まって閉切るまで) (閉切って後)と分けると、
その平均漁獲量は(1)>(2)>(3)となり(1)と(3)の数値には著しい差があります。
昨年の漁獲量が最盛期の16%にまで激滅していますが、潮受堤防の工事と決定的要因だと考えています。干拓工事と漁獲量の激滅についてどうお考えかコメントを頂ければ有難いです。
<回答者 菊地泰二>
長崎大の東教授らの研究は、諫早湾口から有明海の中部、奥部にかけて数十地点で定量調査を経年変化を追って行った貴重なもので私も高く評価しております。ただ、1999年11月の資料が、その前後の6月調査時の生物個体数に比べ二〇分の一以下であるということについて、通常の季節変化ではこんなには減らない、夏の酸欠の影響ではないかと推察するという点について疑義を申したのです。内湾の泥底や砂泥底に棲む小型二枚貝やヨコエビ類のような小型短命な動物では、正常な環境でも年間の最高と最低の密度の変動は、4~6月が最高、11月~1月が最低となり、最小値は最大値の数十分の一になることも珍しくないからです。赤潮の有無に関わらず、流れの変化、低層水酸欠の度合いとその期間のデータを把握する必要があるでしょう。あのシンポジウムののち、雑誌「科学」の有明海、長良川河口堰特集号に東氏らの調査結果の詳細が公表されたのを拝見し私の発言は撤回してもよいと思っています。今年8月の調査でも有明海内の3箇所を中心にかなり溶存酸素の低い水域が確認されたようです。近日中に環境庁と農水省ほか4省庁の委員会で結果報告を聞く予定です。
漁業との関連は私は当然関連あるものと考えています。少なくとも諫早湾口周辺のタイラギの不漁、養殖アサリを死滅させた2000年及び2001年夏の有毒鞭毛藻の赤潮は扉門からの放流水と関連あるものと思います。熊本県側の干潟アサリ資源長期低落はまったく別の原因でしょうし、同じタイラギの死滅にしても福岡有明の筑後川河口沖の分については人為的影響ではあっても諫早湾締め切りと関連があるかどうかわかりません。低層貧酸欠化の原因は諫早湾だけでなく、大牟田川の排水や炭鉱陥没による底質の有機泥堆積などの可能性もあります。