栄養学分野は、栄養素や機能性食品成分が生体に及ぼす役割とその作用機構の解明を目的として教育と研究を行っています。
ビタミンの新規機能の解明として、組織内活性型ビタミンK(メナキノン‐4「MK‐4」)、ビオチン、ビタミンB6の抗老化作用(抗炎症作用、性ホルモン産生増強作用、抗サルコペニア作用、認知機能改善効果など)の解析
食品中の核内受容体結合成分の生理機能解析
食品中に含まれる機能性物質の探索とその作用機構の解明
ビタミンの新規機能
1)ビオチンによる男性ホルモン(テストステロン)産生促進作用
ビオチンは4種のカルボキシラーゼの補酵素として機能し、糖質、脂質、アミノ酸代謝と密接に関連している。一方、我々は薬理量のビオチンの投与によって糖尿病(インスリン分泌の促進、インスリン抵抗性の改善、糖新生酵素の発現抑制)や高血圧症が改善することを示してきた。さらなるビオチンの作用を検索して、精巣におけるテストステロン合成を増加させることを発見した。マウスにビオチンを単回投与したところ、血液、および精巣中のテストステロン濃度が増加した。下垂体由来の黄体形成ホルモンの血中濃度は変化していなかったことから、ビオチンは直接精巣に作用して、テストステロンを増加させると推定された。続いて、精巣でテストステロンの合成に関わっているライディッヒ細胞を用いて、ビオチンの作用機構を解析した。ビオチンの処理によってライディッヒ細胞内のcAMP量が増加すること、cAMP合成酵素(ADCY)の阻害剤によってビオチンの作用が消失することから、ビオチンはADCYを活性化して、cAMP量を上昇させ、テストステロン合成を上昇させると推定された(図1、Shiozawa K, Nutrients, 2022, 14: 4761)。
2)ビタミンKの側鎖類縁体によるミクログリア細胞の抗炎症作用機序の解明
脳内のミクログリア細胞における持続的な炎症反応は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患と強く関連していることが知られている。我々は近年、マウスミクログリア培養細胞を用いてビタミンK2のひとつであるメナキノン-4がリポ多糖(LPS)やTNF-αに誘導される炎症性サイトカインの発現上昇を抑制し、この機序には転写因子NF-κBのリン酸化(活性化)と核移行抑制を介することを明らかとした(Saputra WD, Int J Mol Sci, 2019, 20: 2317)。メナキノン-4の側鎖と類似の構造を持つゲラニルゲラニオール(GGOH)は植物由来のイソプレノイドであり、いくつかの動物モデルで炎症状態を改善することが示されている。そこで我々は、GGOHがメナキノン-4と同様にミクログリア細胞に対する抗炎症効果を有するかについて、マウスミクログリア培養細胞であるMG6細胞を用いて解析を行った。LPS処理により誘導されるIl-1β、Tnf-α、Il-6、およびCox-2 mRNAの発現上昇をGGOHは用量依存的に抑制した。さらに、GGOHはLPS処理により誘導されるTAK1、IKKα/β、およびNF-κB p65サブユニットのリン酸化、ならびにNF-κBの核移行を阻害した。以上の結果から、GGOHはメナキノン-4と同様に、NF-κBシグナル伝達経路を標的とすることによりLPSにより誘導されるミクログリアの炎症を軽減する可能性が示唆された(図2、Saputra WD, Int J Mol Sci, 2021 22: 10543)。
食品中に含まれる機能性物質
1)米糠発酵物に含まれる機能性成分の解析
我々は独自に開発した発酵米糠(FRB)の投与がマウスにおいてデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)に誘導される大腸炎を予防・改善すること(Islam J, Nutrients, 2017, 9: 747; Agista AZ, Nutrients, 2021, 13: 1869; Islam J, J. Nutr Biochem, 2022, 99: 108855)、ラットにおいて糖尿病性の筋萎縮を抑制すること(Rusbana TB, Nutrients, 2020, 12: 2409)を明らかとしたが、FRBに含まれる機能性成分については未解明のままであった。そこでFRBに含まれる抗炎症成分の分離・同定を行った。マウス由来マクロファージ様細胞であるRAW264.7細胞をLPSで刺激した際の炎症性サイトカインのmRNA量変化を指標として、FRB中の抗炎症成分を検索した。FRB、およびFRBの熱水抽出物はLPSによって増加する炎症性サイトカインのmRNA量を低下させた。熱水抽出物を固相抽出によって再分画して、トリプトファンの微生物代謝物であるトリプタミンが抗炎症作用を示すことを明らかにした。さらにトリプタミンはアリール炭化水素受容体(AHR)に結合して炎症性サイトカインのmRNA量を低下させることを、AHR欠損マウス由来マクロファージを用いた試験によって示した(Agista AZ, Int J Mol Sci, 2022, 23: 11209)。
2)豆乳由来ペプチドによる血圧低下作用
大豆はタンパク質含量が高い食品であり、発酵や酵素処理によって様々な生理活性を示すペプチドが生成することが知られている。我々は、市販豆乳をタンパク質分解酵素で処理して、血圧上昇に関わるアンジオテンシン変換酵素(ACE)の阻害活性をもつ4種のペプチド(FFYY、FVP、LEPP、VNP)を単離した。これらのペプチドについて、in silico解析(毒性予測、薬物様性評価、分子ドッキング)と高血圧自然発症ラット(SHR)を用いたin vivo試験によって、血圧低下作用の検証を行った。4種のペプチドのうち、FFYYペプチドがACEに対して、最も強い結合親和性と高い阻害活性を示し、毒性も低いと推定された。また、FFYYをSHRへ単回、および反復経口投与(3週間)した場合(80 µg/kg体重/日)、収縮期血圧、および拡張期血圧の有意な低下が観察され、血中のACE阻害活性も顕著に高かった。さらに、血中の一酸化窒素(NO)濃度も有意に増加したことから、FFYYはACE阻害に加えて、NOを介した血管拡張作用を有すると考えられた。以上のことから、豆乳由来のFFYYペプチドは安全の高い、高血圧症予防を目的とした機能性食品素材であることが判明し、今後その応用化が期待できると考えられた(Alauddin M, Peptides, 2024, 175: 171170)。