研究テーマについて

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ディジタルシステムの研究

現在我々が関わるほとんどのシステムに何らかの意味で ディジタル要素が採り入れられています.この際の大きな特徴は そこで信号が,標本化(時間的に離散化される; サンプリングとも言う),量子化(空間的に離散化される)ことで, そのために情報の欠落を生じます.

目的とする仕事(例えば CD における音楽信号の伝送)のために

    • どのようなサンプル周期を取れば良いか

    • どのように信号復元をすれば良いか

に答えるのが例えば Shannon のサンプリング定理ですが, それで与えられる解答は,

    • 得られたフィルタが因果律をみたさない

    • フィルタ特性が理想的に働かないときの性能保証ができない

などの問題点を有しています.

近年これらの問題に対して制御理論の分野で革新的な 成果が得られ,応用を含めて注目を集めています. ロバストサンプル値制御理論というのがそれですが, この分野ではわが国の貢献が世界的に重要な 役割を果たしています.この研究室で生まれた 関数空間モデル(リフティング;メインページ参照) もその一つですが,現在の研究テーマは

    • この理論を用いることによって連続時間実特性を保証するフィルタが設計できる

    • ロバストな性能保証が行える

ことを主眼にして,ディジタル信号処理への応用を目指しています. この分野はウェーブレット,マルチレート信号処理,画像処理など 多くのテーマと関係があり,これから非常に有望な分野です. 意欲的な若い人たちの挑戦を期待します.

学習と知能

ほとんどの知能的な作業には,逐次的に動作を改善する 学習過程が必要となります.ニューラルネットワークや 繰返し制御,学習制御などはこの代表例ですが,探索型 知識処理(エキスパートシステムなど)にも学習パラメータの 変更という形で多く取り入れられています.

これらの学習過程はほとんどの場合

    • 逐次型変化のダイナミクス

    • ダイナミクスの変更を司るパラメータの変更

という形で定式化できます.これにより 一般的なシステム(例えば自律分散システム)などの学習則を 論じることもできます.

さらに進んで

    • 学習が完了した,あるいは知識を獲得したというのはどういう状態か

というような質問を数理的に 提出することが可能です.これは 制御の問題とも深い関連があり,これから力を入れて研究していきたいと 思っています.

無限次元システムの研究

‘無限次元’というとひどく難しいようですが,これが意外に 大切な働きをします.例えば一定時間信号をためておき,それを 時間差を持って出力するようなシステムを考えましょう. これはむだ時間と呼ばれ,制御系の設計では厄介者扱いされたり するのですが,一方ロボットのマニピュレータの軌道制御などでは その軌跡を蓄えておいて次回改善するという時になくてはならない ものです.

このようなシステムのロバスト制御は古典制御理論ではお目にかかれない 興味深く,また有用な様々な性質を持っています.上に述べた 学習制御や繰返し制御もその一つですし,それらの設計法を確立するのは 数学的にも,またプログラム的にも非常に興味深い問題です. このような無限次元システムのモデリングや制御系設計を 研究しています.

オブジェクト指向 CAD の開発

なぜ制御系設計 CAD にオブジェクト指向が必要かと思われる 向きがあるかも知れませんが,制御系の一般化プラントは 非常に多くのパラメータを持ち,それらを引数として 独立に渡すよりも基本オブジェクト(例えば一般化プラントと 言われるようなもの)を単位として扱った方がはるかに 見通し良くプログラミングでき,かつ使い勝手も良くなるのです.

このようなアプローチの一環として, サンプル値制御,ディジタル制御系の設計 CAD システムの開発を 行っています.すでに東工大と当研究室の共同開発で作られた, Hsys という MATRIXx (制御系解析用プログラム)プラットフォーム 上でのアプリケーションが存在しますが,今年からは新たに リリースされる MATLAB Ver 5 上に おけるより進歩したオブジェクト指向対応のソフトに発展させる 予定です.

またこのような CAD 環境を分散システムにおいて動作させ, 計算機資源の負担の軽減やより自律的な動作をさせることも 目標としています.