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夫婦心経

興行名:SM WORLD FINAL伝説

出演日:平成18年3月14日、15日(各2ステージ)

場 所:新宿DX歌舞伎町

この舞台が私にとって本当の意味での出発点となるだろう。私が持つ世界をそのまま顕すことの出来た舞台だった。

日本の心中物を素材として舞台を構成してみようと思った。もってきたものは“新内明烏(しんないあけがらす)”。春日屋の若旦那時次郎が山名屋の遊女浦里に惚れこみ通う内二人は深い仲となる。借金までしてこしらえた金も尽き二人の逢瀬に終止符が打たれようとしていた。二人はこの世で結ばれないなら、あの世でと心中を決意する。

舞台は拍子木が鳴ったあと浄瑠璃から始まる。

「そなたも共にと云いたいが、愛しそなたを手にかけて、どうなるものぞ存えて、わが亡きあとで一遍の回向を頼むさらばやと、云いすて立つを取りついて あんまり酷い情なや、今宵はなれてこなさんの健で居さんす其身なら又逢うことのあろうかと楽しむこともあるべきが、死のうと覚悟さんした身を如何な気強い女子じゃとて、どうして放しやらりょうぞ、かねて二人が取交す、起請誓紙はみんな仇どうで死なんす覚悟なら三途の川もコレ此ように二人手を取り諸共と何故に云うては下さんせぬ

私ゃやりはせぬ放しはせぬ殺しておいて行かんせと男の肩にとりついて身を震わして泣居たる」

続いて曲は静かな尺八の音色から激しい能登陣太鼓に移り、最後に般若心経の斉唱が流れる中二人は匕首で命を絶つ。

この舞台での共演者に妻を選んだ。彼女の持つ感性、日舞の素養、そしてなによりまして私との日々。

妻に無理を言って共演を頼んだ。もう妻は舞台に出ることは二度とない。大きなつとめを果たしてくれた妻に心から感謝する。“夫婦心経”はそうして出来た。

妻は舞台での名を”無我”とした。その名は妻そのものを現わしていた。それ以外の名は無かっただろう。

平家恋情

興行名:SM Deep collect

出演日:平成18年6月11日~20日(各4ステージ)

場所:九条OS劇場

ある時琵琶に併せて平家物語を語る女性の声に胸が詰まった。そうだなと思った。それを舞台で顕したくなった。

劇場では撮影禁止であるため、構成だけをここに載せることにする。

祇園精舎の曲が始まる。

少し間をおいて女が笹を引きずりながらメイン舞台をふらふらと大きく回り、続いて花道を歩く。(女は壇ノ浦で散った男を想うあまり気がふれていた)

盆の上で笹を見つめながら宙に大きく横八の字を描くように振る。

花道からメインステージの中央に戻り、横座りになって床を掃くように笹を泳がせる。

男は女恋しさで亡霊となり舞台そでからゆっくり舞いながら登場し、女の周りを回る。

男が女の肩に手をおく。

女は振り向き愛しい男がそこにいるのを知り、笹を手から離し男にむしゃぶりつく。

二人は暫し抱き合う。

男は黄泉の国に女を誘うことにためらい手から力を抜き立ち上がり女から離れる。

もう一度男は女に目を向け思案の末、共に行こうと決意する。

男は女の横に座り、優しく手をさしのべる。

男は女を花道中央まで手を引き、座らせる。

男は愛しく縄をかけていく。

女を立たせ盆まで進む。

女を盆中央で座らせる。

女に優しく目隠しをし、胴に縄を巻く。

吊り元にその縄をかけ、ブリッジの状態にする。

短刀を抜き、女の口もとからつま先まで優しく祈るように触れていく。

女を立たせ背に吊り縄を固定する。

腰縄をかけ吊り元に通し吊りの準備にかかる。

竹に結ばれた縄を両足首に固定し高く吊る。

吊り揚げた状態で男は女を回転させる。

吊りから女を降ろす。

蝋燭で愛撫する。

波の音と共に二人は黄泉の国へと旅立つ。

※鞭も蝋燭も愛しさ故の二人の灯火でなければならない。

構成だけを字で追うと、なんと味気ないんだろうと感じる。ここには曲も照明も臨場感もない。骨組みだけである。舞台は舞台の上でしかあらわし得ない。

この舞台で10日間共演して頂いた女性に感謝する。SMにも縄にも縁のなかった彼女が一生懸命に頑張ってくれたことを私は忘れない。辛いこともあっただろうに最後までついてきてくれた彼女に心から“ありがとう”といいたい。

舞台の好きな彼女に幸あれ。

白 狐

出演日:平成19年2月11日~20日(各4ステージ)

場所:九条OS劇場

歌舞伎の“保名”、“葛の葉”の物語からイメージをもらい舞台を構成してみようと考えた。

しかしこの二つの物語に共通するのは保名という人物だけである。妻となる女性も物語の展開も異なる。“保名”では人間の女性として、“葛の葉”では白狐の化身として扱われ違った展開をする。私は踊りでは“保名”を、ストーリーとしては“葛の葉”をイメージして創ろうとした。

上の画像にある一首「恋しくば尋ね来て見よ和泉なる 信太の森のうらみ葛の葉」は“葛の葉”の物語からとったものだ。

私は二つの物語に共通する保名という人物に関心をもった。調べているうちに保名は陰陽師であり、あの名高い安倍晴明の父として伝えられていることがわかった。安倍晴明の母は白狐の化身葛の葉だと物語の中ではなっている。

陰陽師とは?陰陽道とは?そこから私の舞台への取り組みは始まった。陰陽道や道教に関する書物を取り寄せ読みもした。少しでも保名という人物を知りたいと思ったからだ。本を読んだぐらいで理解できるとは決して思いはしないが、万分の一でも彼に近づきたいと願った。

10日間の舞台の間、毎日己に問いつづけた。何を顕したいのだ?どうすればわかってもらえるのだ?おまえの情念とやらは出るのか?一つ一つのステージが私にとっては重く、あまりにもはやく過ぎ去っていった。

そしてこう思った。人間の陰と陽を舞台で顕してみようと。そんな思いだけが私に残った。

余談ではあるが、阪和線北信太に“信太森葛ノ葉稲荷神社”がある。ここは葛の葉の御霊を祭る神社として知られている。私は舞台が始まる前に一度、そして舞台が終ってから数日経った今日この神社を参拝した。

人気のないひっそりとした神社であるが、歴史を感じさせるところである。

舞台を無事終えられたことに感謝を述べてきた。