自動車は移動手段のひとつとして広く普及しており,現代社会での生活には欠かせないものになっています.しかし,一方で自動車の普及率が高い現代では渋滞が発生することがしばしばあります.渋滞はドライバーに不快感を与え,その渋滞が引き金となって交通事故がおこることもあります.
ドライバーが行う速度調整(車間距離と速度の関係)を関数として表現しモデル化したものに最適速度モデルがあります.
この最適速度モデルを用いて数値シミュレーションを行うと,現実の高速道路の渋滞現象で観測される特徴が再現できることがわかっています.
本研究では,ウォッシュアウト制御と呼ばれる制御法がドライバーが行う速度調整(車間距離と速度の関係)を維持しつつ高速道路のように一方向の交通流に発生する渋滞現象を抑制できることを示しました.各車両の加減速は前方車両との距離と自速度に基いて調整され,その調整度合の計算は最適速度モデルを使って事前に行われます.これにより,ある速度で走行している際にどのくらいの車間距離を保つかというドライバーの個々の感覚を損なうことなく,運転操作の支援をすることが可能です.
下の2つの図は,先頭車両と各車両の車頭距離を表しています.左の図は,非制御時の時間変化をプロットしています.後方車両で車頭距離が波を打つように変化しています.これが渋滞です.しかし,ウォッシュアウト制御を適用したときの右の図では,渋滞が発生していません.
研究発表
Shigeru Yamamoto and Eiji Sakaguchi: Driver Centric Decentralized Controller Design in Traffic Flow, ICCAS-SICE 2009, pp. 246-250, Fukuoka, August 2009. (Slides)
大学の実験室レベルでは渋滞の実験を行うのは容易ではありませんが,環状道路を使って渋滞現象を調べている日本の研究グループがあります.環状道路を想定すればラジコンカーなどを使った実験でも広いスペースを必要としないというメリットもあります.
車両数が増加して車間距離が縮まると(密度が高くなると),stop and go が起こり,渋滞が発生する.車が詰まっているところが進行方向と逆に伝搬することが動画で確認できる.
各車両の加減速を調整する制御を施すと,車両はスムーズに流れる.
研究発表
坂口 英嗣,山本 茂:ウォッシュアウトコントローラを用いたサイクリックな交通流の制御;第54回システム制御情報学会研究発表講演会,pp. 489-490, 京都 May 2010.
坂口 英嗣,山本 茂: ウォッシュアウト制御によるサイクリックな交通流の渋滞抑制;第11回計測自動制御学会制御部門大会, 174-1-2, March 2011.
Shigeru Yamamoto and Eiji Sakaguchi: Washout Control of a Cyclic Vehicular Traffic Flow, the 18th World Congress of the IFAC, Milano, Italy, August-September 2011. (Slides)
Yasunobu Yokoi and Shigeru Yamamoto: Control of a Cyclic Vehicular Traffic Flow Based on the Velocity Model -Experiments by Using LEGO NXT-, SICE2012, pp. 801-806, Akita, August 21, 2012.
時間と空間を離散化した渋滞の解析に用いられるオートマトンモデルの中で,拡張バーガーズセルオートマトンモデルは現実の高速道路の渋滞現象を最も再現できるものとして知られています.
図左は容量2の道路を右に進む車が密度1であるとき,中間部分で密度2が発生した途端,それ以降密度21の波が後ろに伝播していく渋滞を表している.一方で,図右は提案する制御法により,密度20の波が後ろに伝播するが平均して密度1のままであって,流量の変化が生じず渋滞が発生しないことを表している.
研究発表
清田 将太,山本 茂: 拡張Burgersセルオートマトンモデルに基づく渋滞抑制制御;第43回計測自動制御学会北海道支部学術講演会, pp. 15-18, March 2011. (Slides)