第3講
変化への対応
何事も余程の事情が介在しない限り、長期に渉る好調を保持することはできません。発売当初はかなりの売上を計上した若杉ブランドですが、無造作にお履きになると破損しやすいこともあって売上は低迷、何らかのてこ入れが必要な時期を迎えています。ご支援、ご指導いただいてきた 「E‐WOOL」 の開発者、北條博史氏をはじめ、星状神経節ブロック療法の権威で、ウール靴下の開発にお力添えを頂いてきた若杉医博、生理衛生学がご専門の川村医博、工学博士・古賀城一先生、どなたも高齢のため引退され、今では交流も途絶えています。
下段は、第2講5ページに紹介の若杉医博の著書 「星状神経節ブロック療法」(平成17年12月26日/第1刷発行)最終ページのコメントですが・・・。
採用している 「E‐WOOL」 の現状を踏まえて
下段に紹介している画像は、大東紡織のホームページからの引用です。第2講の1ページに 「一皮剥いたのがE‐WOOL」 として、断面模式図を紹介しております。併せてご参照ください。
ここでの課題は紡績を取り巻く厳しい環境です。採算面から国内での生産が不可能になり、拠点を中国に移しての継続という現状から小回りが利かないのです。加工にしても同様、生産ロットの増量を求められ、売上の低迷とも絡んで、我々メーカーはついていけません。仕方なく糸染めによる単色カラーでの展開を余儀なくされ、この機に企画を一新、採用しているコンフォートアイテムを含めてブランドを当社所有の 「ウール物語」 への変更を決意した次第です。
進化を伴う企画変更に当たって
前述の通り、止むを得ない事情絡みとはいえ、不義理を伴う改革です。「すこやか」 ブランドを使わせていただいている萬星衛生材料㈱に対しても同様、より快適に、着用していただける企画を目指しての前進でなければご恩返しはできません。ところが、私も寄る年波、加えて昨夏、胃がんが発覚、ステージはⅡB、十二指腸に繋がる幽門側3分の2の摘出手術を余儀なくされました。また。軽症ながら前立腺がんにも罹患、目下静養中。後遺症、服用中の薬の副作用等で動きがとれません。そんな訳で、この際、当事業の引継ぎを決意しました。
私の愛用肌着について①
ウールの魅力に惹かれ生活場面に多用している私です。初講にも紹介しておりますが、盛夏以外はウール肌着で過ごします。ところが、ここでも変化が起きており、諸事情絡みでE‐WOOL製品が姿を消しました。種々試してきた結果、現在愛用しているのが下段に紹介の「素肌にウール」 を提唱する “公冠グンゼ” の肌着です。紳士物の価格は上下1対で一万円弱、婦人用も販売されています。画像はネット上からの転用(イキイキ良品館)。寒冷季には2枚重ねで愛用しており、パジャマ代わりにも着用、自然が育んだ素材だけが持つ心地よさは他に類例を見ません。
私の愛用肌着について②
何所を探してもウール100%の申股(さるまた)が見つかりません。仕方なく下段右側に紹介の、アングルミユキ製・エアメリーウールと称する表毛100%、裏綿100%の2重編み組織になっているモノを裏返して着用しています。盛夏は左のアサメリーと称する良質綿製品に切り替えますが・・・。
同社の解説によれば、天然素材で快適な着心地と清涼感、最高級エジプト綿(細番手)を特殊強撚した独自の肌触りのある清涼インナーとあります。映像はいずれも同社ホームページよりの引用です。
原点復帰
申すまでもなく、私がウールに興味を覚え始めたのは、若杉文吉医博の小論文 「水虫は全羊毛靴下で無症状」 との出会いです。課題点は無造作に履くと擦り切れやすいこと。とはいえ、それは同じ箇所に決まっており、健康上悪影響を及ぼしていることに気づいたのです。足裏のケースでは、そこに無用の摩擦が起きており、「タコ」 が発生している筈。横のアーチが崩れ、体重が偏重している証左です。姿勢の悪化は避けらず、2次障害の危険性を孕(はら)んでいます。下段最上段の映像をご覧ください。私が採用しているドイツ製健康靴 「ヤコフォーム」 ですが、D表示部にはフエルトパッドが埋め込んであり、衝撃を吸収します。初講の “ウール靴下の課題点は擦り切れやすいこと” の項にも触れておりますが、様々な工夫が施してあり、爪先部にも特徴があります。
水虫の発症も窮屈な靴を履き続けてきた咎めであり、趾(ゆび)どうしがぴったりくっつきあっている箇所で、特に多いのが第4趾と5趾の付け根辺りです。履き続けてきた靴による変形が原因で、遅まきながら、今はドイツ製健康靴を愛用、矯正に努めています。私もその一人で、発症時期ともなれば中央の映像のような手当てをしています。破損したウール靴下の筒編み部を利用、難を逃れており、薬は一切使いません。これも初講にも掲載しておりますが、最下段は生まれたばかりの赤ん坊の足裏です。
我が日本の現状ですが、漸くにして 「フットケア外来」 なる診療科が新設されつつあり、緒についたばかり。これらに対し、靴先進国ドイツでは健康靴専門店と医療分野が連携して足病の治療に当たっており、成果を上げています。雲泥の差と申せましょう。
モノの観方、考え方
破損しやすいから強い靴下を採用する。これで良いのでしょうか。わが国では性別に関係なく、10人に1人が水虫に罹患しているといわれており、中高年になると4人に1人、高齢者では2人に1人というのが実情と聞き及んでいます。水虫は白癬菌というカビの一種によっておこる病気であり、爪癬菌、手癬菌、股部白癬、等々多くの部位に広がる厄介な病原菌ですが、死ぬわけではないから薬で治そうとする向きが多いのが現状であり、特に治りにくいのが爪白癬で、治療には難儀が伴います。これらは環境を変えない限り完治には至りません。
留意していただきたいのは感染のリスクが高いこと。プールや共同浴場、スポーツセンターやゴルフ場の浴場など、大勢の人が裸足になる環境です。さる調査では、多くの人が集まる浴場のバスマットには、ほぼ100%の白癬菌が付着していたそうです。対症療法から原因療法へ舵を切りなおしていただきたい。
講を終えるに当たって
想えば靴下の製造販売に携わって半世紀余、協力者に恵まれ、今や想い出に生きる今日この頃です。長々と述べてまいりました拙講も、環境の変化と自身の体調が優れないことから、この辺で終わりたいと思います。各位におかれましては、「健康第一」ウール製品の活用を願って止みません。
2012/10/20
窪田孝弘