ウール物語 第1講

 第1講

ウール靴下で水虫の悩みなし

1985年6月10日発行の、IWSマンスリー・第228号に掲載された若杉文吉医博(当時、関東逓信病院 ぺインクリニック科部長)の小論文のタイトルです。“無駄な発汗抑制、肌ざわりの良さが効果” として、その一部始終が述べられています。要するに、ウール靴下を履けば水虫を予防できるというもの。

私がこの小論文を手にしたのは、1993年7月に国際羊毛事務局を訪ねたときです。当時の広報宣伝部長・大内氏から提供を受けた資料の中に含まれていたのです。

水虫に悩んでいたこともあって、早速に試作品を履いてみたところ、サラッとしていて実に快適、あの嫌な臭いからも開放されました。そこで若杉医博にお願いして共同研究を始め、「Dr.若杉」 ブランドを開発、好評を得たものの、ウール100%製は耐久性に欠けるとあって普及には至りませんでした。ところが、衛生面での優れた機能に着目されたK社からの要請で創り上げた製品が介護関連分野で成果を上げ今日を迎えています。但し、少量のポリエステルを混紡しての、OEM対応です。

猶、これらの経過を踏まえ、自社では療養型(むくみ、しびれ対応)、並びに、耐久性付加型の “すこやか靴下シリーズ” を開発、前記 「Dr.若杉」 改め 「若杉ウール靴下」 とともに、販路は限定していますが、根強い支持層に支えられながら今日を迎えています。

 

  

E‐WOOLの採用

ウールにもピンからキリまで、その品質は多岐に渉ります。私が選んだのは防縮加工に特徴のある 「E‐WOOL」 でした。従来型のモノは、被膜加工を施すことでチクチク感を除去するのですが、これとは逆に表皮細胞・クチクル(ウロコ2層)を剥がすという画期的な加工法を採用しており、世界特許を取得しています。開発者の北條博史氏とも数回お逢いして直接お話を伺いました。文通に至っては数十回に及びます。何事もそうですが、加工を施すと本来の持ち味を損ない、副作用を生じかねません。欠点を被い隠すのではなく、除去することが望ましいというのが私の持論です。

下段の画像をご覧下さい。繊維学会編 「おもしろい繊維のはなし【第2版】」 から引用しました。このような複雑な構造をしているのはウールをおいて他には存在しません。湿度に応じて開閉し、フエルト化する一番外側のエピ、2番目のエキソクチクルの2層を剥がし、エンドクチクルは残してあります。それが 「E‐WOOL」 なのです。

接触温感

手で触ってみて、「暖かい」 と感じることを、専門用語で 「接触温感」 といいます。ウールはこの接触温感に優れています。化繊などは、触れた瞬間に 「ひんやり」 します。天然繊維のそれは、ウールを筆頭に絹、綿といずれも化繊の比ではありません。それは比熱が小さく、熱伝導率が下回っているためです。

ウールは他の繊維より熱を上げるときに必要とするカロリーが少なく、熱伝導率も凹凸した表面で接する方が奪われる量が少なくてすみます。接触温感は、比熱、熱伝導率、繊維の表面の凹凸度によって決まります。つまり、比熱、熱伝導率が低く、表面の凹凸が多いほど、接触温感は暖かいと感じるのです。

ですから、衣服に袖を通したときに、ウールはナイロンに比べて、すぐに体温で暖められ、かつ体温が逃げる率が低いので 「暖かい」 と感じるわけです。次に正反対の涼しさについて。

 

砂漠の必需品 マント

ウール製といえば寒冷季の衣服というイメージをお持ちの方が多い世の中です。私もそうでした。しかし、よく考えてみるとスーツやジャケット、スラックスといった外衣の大半は年間を通してウール製です。スカートも例外ではありません。冬暖かく、夏涼しい証拠です。

コロムビア映画の超大作、「アラビアのロレンス」。ここに登場するロレンスは、アラブに住む人独特のマントをはおっています。砂漠は一日の気温差が40度以上にもなる厳しい気候です。灼熱の太陽に耐え、急激に冷え込む夜の冷気にも備えなければ生きていけない環境下にあって、住民を守ってきたのはウール織物でした。

寒さから身を守るのがウールというのはわかるが、暑いときにウールなんて、と、訝る向きも少なくないのではないでしょうか。しかし、ウールはとても涼しい繊維でもあるのです。

 

空気を着るクリンプ(縮れ(ちぢれ))の正体

ウールの衣服に含まれているのは殆どが空気です。重量のなんと60%を占めています。空気は最高の断熱材、外部の寒さや暑さをシャットアウトします。一番賢い方法は 「空気を着る」 ことなのです。一枚で冷暖房両用のエアコンと同じ機能を持つ、とても有難い繊維です。エコロジーの観点から考えても、自然を汚さない、古くて新しい冷暖房機器といえましょう。

先に重量の60%が空気と申し上げましたが、それを構成するウールの縮れは、1本の組織の内部で性質の違った二つの部分が、ちょうどかまぼこを2枚貼り合わせたようになっているために起こります。湾曲した内側は親酸性皮質組織、外側は親塩基性で、前者を“Aコルテックス”、後者を“Bコルテックス”といい、他に類例を見ることはできません。

 

バイメタルと同じ原理

電気コタツなどは、ある温度になると自動的に電気が切れます。サーモスタットという温度調節器が働いているからですが、その中にある大切な部品が“バイメタル”です。バイメタルは、膨張率の異なる2種類の金属の板を貼り合わせたもので、温度の低い間は真直ぐですが、高温になりますと表裏の膨張に差が生じるため、そり返って曲がってきます。その時、電流の接続が切れて、それ以上に温度が上昇しなくなるのです。ウールもちょうどこのバイメタルのように、その本体は2枚のかまぼこ型をした部分が貼り合わされた状態になっています。これは、ウールが毛根から生える時に、種類の異なった2種類の細胞から作り出されるため、微妙な違いを持つAとBの2層構造を形成します。

A・Bの2層構造の微妙な差により、空気中の温湿度や水中での酸やアルカリに違った反応を示し、まるでバイメタルが熱で曲がるように繊維が孤を画いて縮み、らせん状に伸びていくのです。ところでこのクリンプ、環境に順応して形を変えますが、復元もまた自在です。人間が衣料や寝具素材に羊の毛を選んだ最大の理由といえましょう。

 

冬暖かく、夏涼しい

相反する機能をもたらす理由は、水分との関わり合いにもあります。これらについて各種繊維の数値を紹介しましょう。

下に素材別吸湿率(水分率ともいう・<温度20度湿度65%>)を示しています。繊研新聞がネット上に公開している資料より引用しました。ウールのそれは群を抜いて高く、この高い吸湿性が両者を呼び込むのです。

気体となっている水分が、ウールに吸収されるとき、かなりの熱を発散します。皮膚からは常に微量の水分が出ており、吸収した水分は熱に変換され、温もりに変わるという仕組みです。ウールの肌着が暖かいのは、このように熱を生産しているからでもあります。反面、表面はさらっとしていますので汗冷えが起こりません。夏涼しいのはその逆で、吸収された水分が放出されるときに外界から熱を取るという次第。「登山肌着はウール」 といわれる理由です。

 

 

  水をはじく

純毛のコートを着て少雨に会っても、防水加工がしてあるわけでもないのに、軽く叩くだけで水滴がはじけ飛び散ってしまい濡れずにすみます。冬季のイギリスでは、しとしととよく霧雨が降りますが、傘をさしている人は少数派のようです。コートの衿を立てたり、ストールを巻きつけるぐらいで、さっさと早足に目的地へ向かう人が殆どとのこと。ロンドンでの生活が長かった友人、F氏が語ってくれました。現実に、泥などの水溶性の汚れは、繊維表面で水をはじくので、内部まで滲み込まず落とし易い。半面、汗などの湿気は繊維内部に吸収する。このように矛盾した性質が併存する不思議な繊維です。

 

燃えにくい    

ウールが燃えにくいのは、窒素含有率が高く、水分も多く含んでいるからです。下表の数値をご覧ください。限界酸素指数も発火温度も群を抜いています。消防士の外衣、レーサーやキャビンアテンダントの着衣がウール製なのも肯けます。

ごく普通の生活を送っている私達だって、いつどこで恐ろしい火災に出会わないとも限りません。寝具や、室内装飾にはウール製が最適です。また、社会的弱者である高齢者や子供達の衣服としても、ウール製に勝るものはありません。防寒着として人気のある“フリースジャケット”など、品質をよく吟味されるよう願いたいものです。 

 

 

抗菌・消臭性がある

人間や動物の皮膚は、ウイルスや細菌などが侵入してくると、それらを無害で無毒なものにする免疫機能をもっています。ウールは、もともと羊の皮膚が変形して生まれたものです。念のため、私共では独自にウール靴下の抗菌性を公的機関に依頼してテストしてもらいましたが、抗菌加工靴下と変わらぬ数値が報告されてきています。次に防臭性ですが、臭いの原因は細菌類の排泄物中に含まれるアンモニアや硫黄化合物なのです。細菌の繁殖を抑制することによって悪臭を絶つことができるわけで、消臭性能は抗菌性能と表裏一体の特性といえます。高齢者に多い 「加齢臭」 など、ウール肌着が解決します。

 

自然に学べ

抗菌加工のマスクをつけたところ、唇が荒れてしまい使用を中止した。というご経験のある方は多いと思います。起こったとしても不思議ではありません。先年こんな記事に出会いました。さる通販雑誌に呼吸する繊維と称して、開発間もない某合成繊維の性能が紹介されていたのです。暑い、寒い。ベトベトする、蒸れる。等々、私達は日々変化する温度や湿度に加えて、身に着けている衣服の影響により、様々な不快感を覚えます。そんな不快感をすべて解消し、衣服と肌との間を常に理想的な環境に保ってくれるという見出し。本文に目を通してまず驚いたのは「水分率」30%、もっと驚いたのが、5.0 という菌数増減値差。発表しているのが大手紡績の研究機関に籍を置く繊維製品品質管理士です。心配なので早速某デパートの靴下売場を覗いてみました。混率が極めて低いので安心した次第です。自然界に存在しない効用、数値は危険を伴います。高ければよいというものではありません。よく効く薬には副作用がつきもので、医療機関が使用する薬剤には、多くの副作用が併記されている事実が証明しています。直接肌に触れるものの品質には十分な配慮があって然るべきでありましょう。

 

登山肌着はウール

冬温かく、夏涼しい。の項目でも述べましたが、ここでウールの真価というに相応しい話題を一件。世界に知られた冒険家、植村直己氏が全幅の信頼を置いた一人といわれる武庫川女子大学名誉教授・安田武さん。その安田さんが、植村直己氏の死因について、「ハイテク素材の重ね着に問題があった」 と指摘された事実が1999年のマスコミに紹介されていました。あらゆる新素材を、登山に適するか否かの一点で見つづけてこられた同氏の言葉だけに説得力があります。過去の遭難事故現場からもこのことは立証されており、外気の変化に対応できるウールに匹敵する繊維はありません。適度な湿度を保ちながらも表面はさらっとしている不思議な繊維、ウールの真骨頂に注目です。

 

ウール肌着の活用法

聞くところによりますと、寒冷季に北国では全裸で就寝される習慣があるとか。心地良さは分かるにしても、用を足しに起きるときはどうなさるのでしょうか。そこで考えついたのがウール肌着の着用です。着脱が楽で付かず離れず違和感なし。映像の袖の付け口でお分かりのように、裏返して着用します(縫製部分が当たらず皮膚にやさしい)。昼間はズボン下だけもう1枚重ね履きをしますが、昼夜とも自分の体力だけで寒さ知らず。汚れも臭いもつきにくいので、パンツさえ履き替えておれば、1週間ぐらい十分耐えられます。この肌着、最近買ったものですが、表にウール、裏が綿、という仕立てです。ちょうどいい具合です。

なお、このウール肌着、他にも優れた効用があります。温湿度の低下で冬は肌にとって過酷な季節です。子供達には負担にならない温水プールでも、我々には消毒に使われている塩素のせいで肌荒れが目立ち、「かゆみ」 が生じたりします。第一のバリア皮脂膜がやられ、角質層が薄くなると、少しの刺激でも敏感になります。これに対し、何の手当ても要りません。人間の体毛に近いウールは着用するだけでお肌を再生してくれるのです。繊度の細い高品質のもの(18~19ミクロン級使用・1ミクロンは千分の1ミリ)ならチクチク感はなく、高級品を扱うお店でお求めください。防縮加工が施してありますのでご家庭で洗えます。薄地ジャージー仕立ての男女共用パジャマなどが開発されると、世代を超えて支持されるのではないでしょうか・・・。

ついでながらプールご利用の方に。男女を問わず、4~5人に一人が水虫に罹患している昨今です。スリッパを携帯するのが面倒な方、ウール靴下着用でお出かけください。感染が防げます。

 

 

ウール寝具は魔法のグッズ

繊維の物性を判断する上で、私が常々重要視しているのは、論理の正当性と、生活弱者にとっての向き不向きです。特に、病人や、乳幼児に不具合が起きないかを調査することにしています。このような観点から、ウール製品は寝具としても優れています。敷き毛布などは年間を通して快適ですし、汚れにくいという利点もあります。お断りしておきますが、アクリル、綿毛布の存在を否定するものではなく、用途を考えた上での有効活用でなければ意味がないと考えているのです。例えば、自分で温度調節のできない乳幼児や、湿気が大敵のリウマチ患者、多汗症や高血圧の人、寝たきりの老人、病人、代謝機能の衰えた高齢の方々にとって、ウール製はお肌にやさしく、温湿度調節に優れたナンバーワンの寝具です。夏場は暑苦しいのではとお考えの方、論より証拠、お試しになればご納得いただけます。また、防寒のための電気毛布や炬燵ですが、おやすみになる前にスイッチをお切りになるようお薦めします。でないと心身の疲れを癒すことはできません。睡眠中は代謝機能が低下するため、体温が下がり、皮膚血管が拡張して、発汗量を増やす生理作用で一晩におよそ牛乳ビン一本くらいの水分が失われるという人体です。これに拍車をかけるような行為は避けるべきです。ウール肌着さえ着込んでおれば自分の体力で無理なく理想の体温を維持します。映像は私のベッド。小型の枕は毛布のお古を利用して考案した独自のもの。カシミヤのマフラーで被っています。

 

 

ウールの室内空気浄化作用について

1998年3月、健康住宅研究会なる政府系機関が室内空気汚染低減のための、「設計・施行ガイドライン」 を発表しました。シックハウス症候群対策の立ち上げです。生命と財産を守ってくれるシェルター的存在でなくてはならない筈の住宅がいつの間にか生命を危険に曝していたわけで、わが家では複数の施工者を呼び、新調の家具を含めて安全を確認したという経緯があります。発ガン性物質といわれる 「ホルムアルデヒド」 などが発散する住宅や家具類が、現実に販売されていたのです。冬場に至っては、石油ファンヒーターで暖房されるご家庭では、室内濃度が数倍に達するとのこと。幸いにも私共では、サーマルオイルヒーターを使用しており、そのような心配はありません。

これに対し、ウール繊維には汚れた空気を浄化する機能が備わっているのです。ウールは各種の末端基を沢山持っていて化学物質をよく吸着し、汚れた空気をきれいにすることが確認されています。しかも、この浄化作用は一時的なものではありません。更に、一度吸着した物質はウールと化学結合しており、再び外部に放出しないという優れた機能です。下の比較表をご参照ください。因みに、市販の空気清浄機ではホルムアルデヒドは除去できません。壁紙にウールクロスを、カーテンやカーペットにもウール製品を採用する。これで室内汚染は防げます。加えてウールは難燃性です。火災予防にも威力を発揮します。

 

 

ウールは天然の着る 「抗酸化」 材

採毛される羊は飼育されているとはいえ、厳しい自然環境の中、紫外線にも耐えて元気に成長していきます。このことは、抗酸化機能が備わっている証拠でもあります。そのままでは直接肌に着けることができませんので、実用性を持たせる防縮加工等を施すわけですが、強い抗酸化性を持つ数値は、加工前のウールに比べ、約2倍の値が検出されており、成人病やガンを抑える特性が、ストレスを和らげ、安心感にもつながっていくものと思われます。

 

ウール・フエルト製帽子の効用

ここで帽子の出番です。不動の一位はウールフエルト製の 「ソフト・ハット」 。パナマ・ハットにもウールほどではありませんが、天然植物ならではの抗酸化機能が備わっています。雨天はレイン・ハットをご利用いただくとして、外出時には必ず帽子を被っていただきたいと思います。小雨なら防げますし、紫外線避けには最適です。度々触れておりますように、通気性、保温性、保湿性等々にも優れており、ビジネスに、レジャーに、シーズンを問いません。また、予期せぬ災害時にはあなたを守ってくれます。その上、何かの拍子に型崩れを起こしてもウールフエルトには復元力が備わっており、なんの造作も要りません。男性用をとりあげましたが、店頭にはご婦人方にお似合いの帽子がしっかり品揃えされています。画像は、「男が変わる帽子術」 出石尚著より抜粋。

 

 

ウール靴下の課題点は擦り切れやすいこと

ウールに備わった、優れた機能性について種々述べてまいりましたが、初項で触れました通り、課題点は擦り切れやすい点。とはいえ、破損箇所は決まっている筈。母趾の爪先、足裏中足骨頭部、踵下中央とその後部です。熟慮の末、私が選んだのがドイツ製健康靴 「ヤコフォーム」 ブランド。ウォーキングには同ブランドのショートブーツ(下段・上)を採用しています。衝撃や摩擦が起こり難い設計で、疲労度も軽減され、健康靴の名に恥じない優れものです。価格が4万円弱と高価なので普及には至っておりません。でも、健康維持には代えられないと思います。下段・下はこれもドイツ製「ハフリンガー」 ブランドの室内履きです。ウールフエルトで創られています。当モデルが店頭に登場したのは一昨年で、価格は10,500円。先般購入しました。

ここで重要なことは靴下のサイズ選びです。やや大きめのモノを採用、踵をフィットさせ爪先を余して履きます。伸びきった状態では本来の機能が発揮できません。

 

 革靴は呼吸しています

本題から外れますが、靴下とは縁続きの革靴について、肝心な点だけ触れておきたいと思います。革を構成するコラーゲン繊維は親水性で、繊維同士が立体的に交絡した構造(組織)を持っています。微細な隙間が多く、多孔性が靴の履き心地や衣料としての快適性を発揮します。相対湿度の変化に応じて容易に水分を吸収し、また放出するのです。革が生きている証拠であり、合成皮革との決定的な違いです。気をつけていただきたいのは、汚れたまま長時間放置しないこと。帰宅されたら、面倒でも刷毛で埃を払いとり、軽くブラッシングを行ってください。目には見えませんが隙間を塞いでしまい呼吸ができなくなります。そして月に3回程度は汚れをきれいに拭きとり、良質のオイルで手入れを怠らないこと。また、靴底の傷みは早めに修理に出すことです。これで寿命が倍化します。手入れの行き届いた靴をお召しの方、好感が持てますね。但し、革の大敵は湿気です。防水加工を施すか、雨用を一足ご用意なさってください。

さて、最後にご自分でお確かめください。ウール靴下と、他の靴下で汗の量を比較してみていただきたいのです。靴底の湿り具合が全く違う筈です。履き心地を良好に保ち、長持ちさせるためには、何足かを交互に使用するのが理想とされています。でもウール靴下を着用したケースでは話は別です。毎日の使用に十分耐えられます。好季節での小旅行には、汚れにくいウール靴下に疲れを知らない歩行を科学したドイツ製健康靴。身軽にお出かけが楽しめます。

 

すこやか靴下・活き活きスタイルの推奨

下段・上の映像は生後3週間の孫娘のモノ、中学生になりました。扇状の広がりが印象的です。幼年期に来宅の際、この写真を見せて爪先の窮屈な靴は絶対に履かないよう、母親共々言い聞かせたものです。

また、ウォーキングにも連れ出し、歩き方に至るまで指導するという徹底振り。これが功を奏してか、運動会では常に一番という快挙を重ねて今日に至っています。

職業柄、シューショップさんに出入りする機会が多い私です。外反母趾でお困りの方が大勢来店され、あれこれアドバイスを受けておられますが、痛めてしまった足は元には戻らず、腰痛などに悩んでおられる向きが少なくありません。十数年前は私もその一人でしたが、投資の甲斐あって大事に至らず今日を迎えています。

そして、集大成とも云うべき 「すこやか靴下・活き活きスタイル」 を創り上げました。下段・下の映像は裏返しにした爪先部分です。縫製にも配慮した優れもの、表面にのみ細番手のナイロン補強を施しています。前々項に紹介のショートブーツ、室内履きと酷似していて、ご納得が得られるものと思います。

 

 

ウールで4倍の成長 最後は土に還る

ザ・ウールマーク・カンパニー/アジア開発センターでは、リサイクルウールの新商品開発の一端として、屋上緑化資材への応用実験を2000年9月より6ヶ月にわたり実施、その成果を機関紙に発表しています。プランターの底に不要になったウールマットを敷き、リサイクルキューブ(六面体・細かく切断したもの)を市販の培養土に50:50で混合、厳寒の屋上で散水なしでセダムの生育状況を確認しています。下の比較映像をご覧下さい。ウールは完全に生分解されます。19種類のアミノ酸配列を基本としたタンパク質からできており、土壌中の微生物により生分解され土に還るのです。その過程で、水分を保持しながら、植物に有効な成分を放出しますので、以前から園芸や樹木の栽培などに使われてきたと聞いています。ものは試しと、自家菜園で里芋の栽培に利用してみました。収穫作業を行いましたところ、ウールキューブを埋め込んだ場所からは大振りの実が獲れました。味も変わりません。そしてキューブは完全に土質化しており、原形を留めていませんでした。下2段目の映像は、埋め込む前のウール靴下のキューブです。

このように、ウールは地球環境にやさしい繊維です。回収された中古ウール製品などは、「住宅用断熱材」 「油吸着マット」 「玄関マット」 等々多用途にリサイクルされています。中でも 「住宅用断熱材」 は、高い断熱性、吸放湿性、ガス吸着性を活用。省エネや環境保護に役立ち、ホルムアルデヒドなどで話題のシックハウス症候群にも威力を発揮する資材として注目されています。

 

 

本文のタイトル 「ウール物語」 は、羊毛業界に多大の功績を残された、藤井一義様にご揮毫賜りました。当社の登録商標でもあります。下段の書状は、その藤井様より頂いたものです。昭和23年以来世界中をかけめぐりながら燃えないウールに心身を燃やしつづけて参りましたが・・・、 とあり、ウールに賭けられた想いがにじみ出ています。 

 

   

ご揮毫に至る裏方の存在、学友・和田茂樹氏に感謝

ふとしたことがきっかけで再会、その後40年に及ぶ交流を重ねている和田茂樹氏。旧制加古川中学(現加古川東高校)の同期生です。同氏もまたニッケを勤め上げ、東京支店の企画課長を最後に定年退職、悠々自適の生活を過ごされる昨今です。

申すまでもなく、上記藤井氏の後輩でもありました。その和田氏のお骨折りで、ナカヒロビルの一室を暫く借り受け、私共の大阪オフィスとして使わせていただいたご縁がこのような幸運を呼び込みました。ビジネス関連で東京暮らしが長く続いた私は銀座でも度々ご馳走になった間柄、気兼ねなく交流を続け今日を迎えています。

 

さて、当講に登場する画像及び文章の一部は、ウールマーク・カンパニー発行の小冊子、ならびに、ウールテキスタイルに造詣の深い、これも和田氏の知人、K氏からいただいた資料を引用、加筆したものです。なお、スーツ、コート、マフラー、そしてカーディガンに代表される中衣類等の効用については周知の事柄ゆえ省略させていただきました。

 

 初版 2010/12/01

改版 2011/01/08

更新 2011/03/18

窪田 孝弘