研究の興味

ヒトを含めた動物の集団行動や社会行動に興味があります。

現在は特に、インターネット上で共有される情報(例:「口コミ」など)が人々の意思決定へどのような影響をもたらすかに関心があります(興味1)。またもう一つの興味は、動物が「社会」や「文化」を持つことによって生物群集の動態に何か特別な影響を持つかどうか、持つとしたらそれはどのようなものかということです(興味2)。その他にも、動物の認知と文化伝達との関係や、社会的学習理論と強化学習(or 計算論的モデル)との統合的理解に興味があります。

興味1および興味2に関連したこれまでの研究の紹介を、それぞれ下記に書きました:

研究の興味1

「口コミ」情報は人々の意思決定へどのような影響を与えるか

インターネット普及のおかげで、行ったことのないレストランやホテル、あるいは飲んだことのないビール銘柄や、観たことのない映画などについて、その良し悪しをあなたは手軽に知ることができるようになりました。ネットを調べれば、他の人が書いてくれた多くの「口コミ」情報を見ることができます。『「みんなの意見」は案外正しい』(スロウィッキー, 2004) というように、なんとなく、口コミの共有は私たちの日々の選択を良い方へと導いてくれそうな気がします。しかし、本当にそうなのでしょうか。

まず浮かぶ疑問として、「誰がわざわざ自分で調べるか」という問題があります。高い口コミ評価のレストランをネットで探すのはとても手軽ですから、わざわざまだ誰も評価を付けていないレストランへ率先して入ってみようとは思いにくいものでしょう。ですがそれは、他のみんなにとっても成り立ちます。つまり、誰も「わざわざ自分から知らないレストランに入る」なんて冒険はしたくないわけです(もちろん「まだ知らない良いレストランを自ら発見したい」という動機を持つ人もいることでしょう。ではなぜそういう人がそのような動機を持つのか、ということ自体が面白い問題だと思います)。基本的には誰も自分で探索しないのだとすると、果たしてそこで共有される「口コミ」を見る価値はあるのでしょうか。「口コミ」の情報価値は、まだあまり知られていないものほど高まるのですから。しかし、だからといって、全員が自分自身で探索するのも考えものです。みんなが各自で探索するのなら、誰も口コミなど見てないわけですから、情報を共有する意味はなくなってしまいます。

以上の議論から、口コミ共有が人々の意思決定の役に立つための条件は、「探索する人」と「共有知識を利用する人」の両方が社会の中に存在することだという見通しが立ちます。あるいは、「探索すること」と「共有知識を利用すること」とを各自が行動の中に織り交ぜるのもいいかもしれません。では果たして、探索と知識利用の両方がある状態を人々は達成できるのでしょうか。そして人々は口コミ共有システムから「集合知」を享受できるのでしょうか。簡単な意思決定課題を用いた実験では、情報を共有する人々の中に「個人で探索する人」と「知識利用する人」との両方が出現し、その結果、集団の平均的な課題成績が単独個人よりも向上することが示されました(Toyokawa, Kim & Kameda, 2014, PLoS ONE)。この実験結果は、探索と知識利用との葛藤がある中でも、情報を共有する意義はあるということを示唆します。

しかし依然として、「集合知を生み出すために最も理想的な情報共有システムとはどのようなものだろう」といった応用的な課題や、「わざわざ口コミを他者に伝えるのはなぜか」といった生物学的(or 社会心理学的)な問いなど、これから調べてみたい事柄が沢山残っています。現在は、オンラインゲームを使った実験や、数理モデルを使ったコンピュータ上でのシミュレーション、また実際のwebサイトの調査などを通じて、これらの疑問に迫っています。

関連するこれまでの発表論文

  • Toyokawa, W, Kim, H and Kameda, T. (2014). Human collective intelligence under dual exploration-exploitation dilemmas. PLoS ONE9(4): e95789.
  • 豊川航・亀田達也 (2014) “探索と収穫のジレンマ”における社会的学習と集合知効果の実験的検討 北海道心理学研究 第36号 1-14

研究の興味2

動物の社会性は生物群集の動態へ(どのような)影響をあたえるか

Under construction...

関連するこれまでの発表論文

  • Toyokawa, W. (2017). Scrounging by foragers can resolve the paradox of enrichment. R. Soc. open sic. 4: 160830.

Word cloud build out of my recent papers: