研究について

1. マリンスノーの生成プロセス

マリンスノーという言葉は、20世紀半ばに日本人研究者らによって命名され、その後世界中で用いられるようになりました。海洋表層から深層へ沈降するマリンスノーは、生物由来の炭素を深海に輸送する担体として機能し、大気中の二酸化炭素をコントロールしていることが知られています。しかしその一方で、マリンスノーには未解明な点が多いのも事実です。特に我々は、有機物が集まって大型化した凝集体の動態に着目しています。その生成や行方を解析し、海洋の炭素循環の解明に取り組んでいます。

染色したマリンスノー


流れ場(せん断流れ)を発生させるクウェットデバイス。物理場の影響を解析。


2. 海藻藻場の炭素の行方

海藻は、面積当たりの光合成が熱帯雨林に匹敵しており、地球上でもっとも生産力の有る生物群楽とされています。そのため、その光合成産物の行方の理解は、沿岸生態系の成り立ちだけでなく地球全体の炭素の動態にも影響を及ぼします。特に近年注目されているブルーカーボン(海洋生物が吸収・隔離する炭素)に対しても、海藻の寄与が指摘されるようになり、海藻由来の有機物の行方を知ることが求められています。

下田の海中林


海藻から放出される溶存態有機物(DOM)を採取する実験


3. 海洋酸性化に対する生態系・物質循環の応答

人類の放出する二酸化炭素の約1/3は、海が吸収してきました。これは地球温暖化の緩和に寄与する一方で、海水の炭酸系化学に変化をもたらし、結果的に生物や生態系の劇的な変化が生じるとされています。特に我々は、海底から二酸化炭素が噴き出すCO2シープを近年、伊豆諸島式根島で発見しました。CO2シープの周辺は二酸化炭素濃度が高く、仮想的な未来の生態系が広がります。この研究サイトを利用し、生態系や物質循環に対する海洋酸性化の影響の解析を行っています。

さらに2021年4月から、自然の海洋酸性化生態系をつなぐ国際共同研究拠点(ICONA: International CO2 & Natural Analogues Network)が、下田臨海実験センターを拠点機関として始まりました。同様に高CO2海域を使って研究しているイタリア・フランスのチームと連携し、世界の海洋酸性化サイトで活発な研究交流を行っていきます。

ICONAのホームページです↓

https://www.shimoda.tsukuba.ac.jp/~icona/

海底から二酸化炭素が泡として噴き出す様子


式根島CO2シープでの光合成測定実験


<主な研究手法・アプローチ・分析>

・調査・観測

船舶調査:採水、センサー等による海水中の化学成分の解析

スキューバダイビング:藻場やCO2シープにおける潜水調査


・分析

各種クロマトグラフィー、比色・蛍光分析による有機元素および化合物レベルでの解析

同位体トレーサーを用いた有機物フローの解析