8月25日(木)
[招待講演1]
演題: 材質を知る: 質感認知の脳内機構
演者: 郷田直一 (生理学研究所・感覚認知情報研究部門)
人は複雑な視覚入力から物体やシーンに関する様々な属性を瞬時に抽出し理解している。例えば、ある物体画像を見ただけで、その材質を知ることができ、手触り・硬さなどの触感までもかなり正しく判断できることが知られている。我々の研究グループは、物体表面の光沢・テクスチャといった材質に関する複雑な視覚属性の情報や、手触り・硬さなどを含む多感覚的な “質感”に関する情報が、視覚野においてどのように表現されているのかを明らかにすることを目指し、ヒト・サルを対象とした神経科学的研究を進めてきた。その中で、様々な新しいものを繰り返し見て触れるといった多感覚的な経験が、視覚野の情報表現に大きな変化をもたらすことも明らかになってきた。本講演では、質感認知の脳内機構に関するこれまでの神経科学的知見を概説し、我々のグループによる最近の研究成果と今後の展開について紹介する。
参考文献
1. Goda N*, Yokoi I, Tachibana A, Minamimoto T, Komatsu H, “Crossmodal association of visual and haptic material properties of objects in the monkey ventral visual cortex”, Current Biology, 26(7):928-934 (2016)
2. Goda N*, Tachibana A, Okazawa G, Komatsu H, “Representation of the material properties of objects in the visual cortex of nonhuman primates”, The Journal of Neuroscience, 34(7):2660-2673 (2014)
3. Hiramatsu C, Goda N*, Komatsu H, “Transformation from image-based to perceptual representation of materials along the human ventral visual pathway”, NeuroImage, 57(2):482-494 (2011)
[招待講演2]
演題: 深層学習と視覚のメカニズム
演者: 篠崎隆志 (情報通信研究機構・脳情報通信融合研究センター)
近年の人工知能の技術革新は凄まじく、音声認識が実用レベルに達したことをはじめ、静止画像の認識では人間を超えつつあり、果ては囲碁においても人間を打ち負かすまでに進化してきている。これらの技術革新の多くは深層学習、その中でも特に畳込みニューラルネット(Convolutional Neural Network、以下CNN)の進歩によるところが大きい。CNNは脳における視覚のメカニズムをモデル
に開発された経緯から、多くの点で脳と類似している。一方で機械学習に基づく学習のしくみや、ネットワーク内部での情報表現、運動を検出する仕組みなど脳とは異なる点も多数存在する。本講演ではこれら類似点と相違点に注目しつつ、視覚に関連した最新の深層学習の研究成果について解説を行い、より脳に近いCNNを実現するための講演者の研究についても紹介する。
参考文献
1. 篠崎隆志*, "畳込みニューラルネットワークのための新しい半教師あり学習法", 第30回人工知能学会全国大会抄録, 1A4-OS-27b-2, 1-2 (2016)
2. Shirahama K, Shinozaki T*, Matsumoto Y, Grzegorzek M, Uehara K, "University of Siegen, Kobe University and NICT at TRECVID 2015 SIN and MED tasks", TREC Video Retrieval Evaluation (TRECVID), 9 pages (2015)
3. Shinozaki T*, Naruse Y, "Advance propagation learning: feedforward supervisory signal for deep neural networks", The Proceedings of 24th Annual Conference of Japanese Neural Network Society, 58-59 (2014)
8月26日(金)
[招待講演3]
演題: 瞬きから探る脳の情報処理機構
演者: 中野珠実 (大阪大学・大学院生命機能研究科、医学研究科)
人は1分間に20回ほど瞬きをするが、眼球湿潤のためには数回で十分なことから、一体何のために瞬きをするのか大きな謎であった。本講演では、①いつ瞬きをするのか、②瞬きに伴って脳の活動がどう変化しているか、③瞬きが他者に影響を及ぼすか、の3つのトピックに関して、講演者の研究を紹介する。具体的には、瞬きは情報の区切れ目で生じており、そのタイミングが人々で共通していた。その時、脳の中では2大神経ネットワークの活動が一過性に交替する現象が起きており、一時的に内省や記憶処理モードになっていることが明らかになった。さらには、対面会話する二者の瞬きの同期度は両者のコミュニケーションの質を鋭敏に反映していることがわかった。一連の研究を通じて、瞬きの秘めた機能とそのドラマチックな神経機構を伝えたい。
参考文献
1. Nakano T*, Yamamoto Y, Kitajo K, Takahashi T, Kitazawa S. “Synchronization of spontaneous eye blinks while viewing video stories.” Proceeding of Royal Society B, 276:3635-44, 2009
2. Nakano T*, Kato M, Morito Y, Itoi S, Kitazawa S. “Blink-related momentary activation of the default mode network while viewing videos”, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 110(2):702-706, 2013
3. Nakano T*. and Kitazawa S. “Eyeblink entrainment at breakpoints of speech.” Experimental Brain Research 205(4):577-581, 2010