現在、日本で最も安価にグリーン水素を作るための手段としてどのような物が考えられるか教えて下さい。具体的には以下の項目の組み合わせについて論じてください。 ・電気分解の電気(卸売市場より調達、再生可能エネルギーのPPA、その他) ・水電解の種類(アルカリ、PEM、AEM、SOEC) ・蓄電池を利用して水電解に電気を投入したほうが良いか、そうではないか
ChatGPT:
グリーン水素の製造コスト最適化について詳しく調べるために、以下の点を教えてください。
想定している水素の生産規模(例:家庭用、商業施設用、大規模産業用など)
想定している地域(特定の地域があれば)または日本全国を対象とするか
投資コストと運用コストのどちらを重視したいか
PPA(電力購入契約)の期間など、契約形態に制限や希望があるか
これらの情報があると、最も安価なグリーン水素製造手段をより正確に比較できます。
あなた:
規模は産業用途(水電解の容量で数MW〜数十MW)、想定地域は北海道、九州、関東の3パターン、投資コストと運用コストの総額が安くなる手段を望む、PPAの契約形態への制限や希望はなし
ChatGPT:
ありがとうございます。北海道、九州、関東の3地域における産業用途(数MW~数十MW規模)でのグリーン水素製造において、総コスト(投資+運用)が最も安くなる手段について調査を始めます。
電力供給源(卸売市場、再生可能エネルギーPPA、その他)と水電解方式(アルカリ、PEM、AEM、SOEC)、さらに蓄電池活用の有無を組み合わせて、それぞれのコスト構造や適性を比較します。
結果がまとまり次第、ご報告します。
Research completed in 17m· 14 件の情報源
グリーン水素は、再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解して製造されるCO₂フリーの水素です。産業用途(数MW~数十MW規模)での水素製造には依然としてコスト面の課題があり、特に電力コストが水素製造コストの大部分を占めます
。日本政府は2030年までに水素製造コストを30円/Nm<sup>3</sup>(約¥334/kg)程度、将来的に20円/Nm<sup>3</sup>程度まで低減する目標を掲げています
。しかし現状の国内水素製造コストはその目標を大きく上回っており、一部試算では2030年時点でも約48円/Nm<sup>3</sup>(約¥4.5/kg)に留まるとされています
。産業用途で経済的に水素を供給するには、電力の安価な調達、適切な水電解技術の選定、設備の高稼働率化といった観点からコスト最適化を図る必要があります。
本レポートでは、日本の北海道、関東、九州の3地域に着目し、各地域で総コスト(初期投資および運用コスト)が最も安価となるグリーン水素製造手段の組み合わせを検討します。考慮する主な要素は (1) 電力の調達方法(市場調達か再エネ電源との直接契約(PPA)か等)、(2) 水電解装置の方式(アルカリ型、PEM型など)、(3) 蓄電池を用いた電力平準化の有無 の3点です。それぞれの組み合わせについて、設備コスト(CAPEX)、運転コスト(OPEX)、電力コスト(円/kWh)、水素製造コスト(円/kgまたは円/Nm<sup>3</sup>)を比較し、導入事例や政策支援、技術的成熟度(TRL)や運用性・拡張性も合わせて評価します。各地域ごとの検討結果をまとめ、最後に地域別に最も経済的と考えられる水素製造オプションを提言します。
地域特性: 北海道は日本国内でも風力や太陽光など再生可能エネルギー資源が豊富な地域です。一方で本州との連系容量に限りがあり道内需要も比較的少ないため、余剰電力の発生や再エネ出力変動に対する調整力確保が課題となっています
。このため、北海道では余剰となる再エネ電力を水素製造に活用し電力系統の安定化と水素供給を両立させる取り組みが進められています。
電力調達方法: コスト最優先で検討すると、北海道では**風力発電との直接契約(PPA)**による電力調達が有力です。陸上風力は容量係数(設備利用率)が高く(場所によって30~50%程度)安価な電力供給源となり得ます。実際、苫小牧地域では100MW級の風力由来水素プラント計画が進められており、年間1万トン規模の水素製造を想定しています
。風力発電所と水電解プラントを直結またはオフサイトPPAで結ぶことで、中間マージンを抑えつつ安定的に比較的低価格(概ね7~9円/kWh程度と想定)の電力を調達できます。一方、卸電力市場(JEPX)から調達する場合、北海道エリアの市場価格は本州に送電できない余剰時には低下するものの、気象条件や需要によって変動します。季節にもよりますが、日平均で7~15円/kWh前後で推移する例もあり
、長期的な価格予見性に欠けます。その他の調達として、地域の未利用電源を活用する取り組みも見られます。例えば苫小牧市では廃棄物発電(ごみ焼却発電)と太陽光発電を組み合わせて水素を製造する実証が行われており、安定した廃棄物発電由来電力をベースに太陽光の余剰を上乗せすることで年間100万Nm<sup>3</sup>のグリーン水素を製造予定です
。このように既存インフラからの直接供給と再エネを組み合わせる方式も北海道ならではの電力調達手法と言えます。
水電解方式: 北海道で数~十MW規模のプラントを構築する場合、アルカリ水電解(Alkaline)方式が経済性の面で最有力候補です。アルカリ方式は最も商用成熟度が高く(TRL9)、大型プラントの実績も豊富で、単位出力あたり設備コストが比較的低廉です
。現在のアルカリ電解設備の資本費はPEM(高分子電解質膜)方式より低く、後述のNEDOの開発目標では2030年までにアルカリ:約5.2万円/kW、PEM:約6.5万円/kWまでの低減が見込まれています
。風力電力は天候により出力変動しますが、アルカリ電解槽もある程度の出力追従は可能であり、ゆるやかな変動であれば対応できます。ただし急激な出力変動や頻繁な停止・起動には弱く、効率低下や電極劣化の要因となります。この点、PEM(水素プロトン交換膜)電解は素早い出力変動追従性と高い電流密度が特長で、風力や太陽光の揺らぎに応じた迅速な調整運転が可能です
。しかしPEMは触媒に白金系材料を要することもあり設備費が割高です
。北海道の場合、風力発電の出力変動は数十分以上のスケールで緩慢なことが多く、大規模な系統連系風力であれば突発的な瞬断も稀です。したがってコスト優先でアルカリ電解槽を採用し、出力変動に対してはある程度余裕を持った設計や制御(例えば風が急落した際は一部出力を制限する等)で対応するのが現実的です。将来的に**AEM(アニオン交換膜)やSOEC(固体酸化物電解)**といった新技術も選択肢になりますが、AEMはまだ数百kWクラスでの実証段階(TRL6-7)に留まり、SOECは高効率な反面高温連続運転を要し大規模実証例が限られます。現時点で北海道の産業規模プラントに適用するには、信頼性・保守性の観点からアルカリまたはPEMが現実解と言えます。
蓄電池併用の有無: 風力由来の電力供給をさらに安定化し電解槽の稼働率を高めるために、蓄電池を併用する方式も検討されます。蓄電池を用いれば、風が強い時に余剰電力を貯蔵し風が弱まった時に放電して電解槽へ電力供給を維持できるため、設備利用率向上が期待できます。しかしながら、現在の蓄電池コストは依然高価であり、水素製造コストを下げる目的で追加するとむしろコスト増となる可能性が高いです
。豪州での試算では、2015年時点のリチウムイオン電池価格で太陽光→水素システムに蓄電池を組み込むと水素製造コストが約$28/kgにも達し(バッテリー無しケースより大幅高)、2030年に電池価格が大幅低減してもなお蓄電池無しケースと同程度のコストに留まると報告されています
。つまり現状では蓄電池併用は水素製造単価を引き下げる効果よりも、設備コスト増による上昇要因の方が大きいと考えられます。ただし北海道では、出力変動緩和や余剰再エネ活用の社会的価値も見込んで蓄電池を有効活用する実証が進められています。例えば前出の苫小牧100MW級水素サプライチェーン調査では、再利用蓄電池を水電解装置と最適制御し、北海道内の余剰再エネ電力を有効活用して水素製造コスト低減を図る計画です
。中古電気自動車の蓄電池など低廉な蓄電資源を活用できれば、コスト増を抑えつつ電解装置の稼働率向上に寄与する可能性があります。
以上の検討を踏まえ、北海道で総合的に最も経済的と考えられる組み合わせは、「風力発電由来電力(オンサイトまたはオフサイトPPA)」+「アルカリ水電解」+「蓄電池非併用」の方式です。風力から直接得られる比較的低廉な再エネ電力を最大限活用し、コスト効率の良いアルカリ電解装置を高めの設備利用率で稼働させることで、水素製造コストを大きく低減できます。蓄電池は基本導入しない方が経済性は高いものの、もし追加しても中古蓄電池など低コスト品を活用するのが望ましいでしょう。この組み合わせにより、水素1kgあたりの製造コストはおおむね¥500~600/kg(45~55円/Nm<sup>3</sup>)程度まで下げられると推定されます
。下表に北海道における主な選択肢の比較指標をまとめます。
▼北海道地域:水素製造オプションの比較
電力調達方法
水電解方式
蓄電池併用
設備CAPEX目安
推定電力コスト
水素製造コスト目安
導入事例・備考
風力PPA(オンサイト/オフサイト)【最適】
アルカリ型
無し
~12万円/kW程度(大規模)
約7~9円/kWh程度
~50円/Nm<sup>3</sup>(約¥550/kg)
北海道苫小牧で100MW級計画あり
。風力変動は制御で対応。
風力PPA+蓄電池
アルカリ型
有り
+蓄電池6万¥/kWh程度追加
実質電力コスト低下だが蓄電損失あり
**~55-60円/Nm<sup>3</sup>**相当
再エネ有効活用もコスト増傾向
。苫小牧実証では中古電池利用
。
卸電力市場(JEPX)
PEM型
無し
15万円/kW程度(現状)
平均約10円/kWh(変動大)
~60円/Nm<sup>3</sup>超(約¥670/kg)
安価時のみ稼働すればコスト低減可。迅速な出力調整で高値回避
。
※上記水素コストは筆者試算値。Nm<sup>3</sup>単価からkg単価への換算は1Nm<sup>3</sup>=0.0899kg(水素)の係数で算出。
北海道では上記のように風力主体の水素製造が有望ですが、追加で太陽光発電の活用も考えられます。夏季の日中には太陽光余剰が発生する場合もあり、風力と太陽光を組み合わせて電解槽を運用すればさらに稼働率を高められます。また、国の支援策としてNEDOのグリーンイノベーション基金事業に採択されたプロジェクトでは、大型水電解装置の開発・製造拠点整備や実証運転が北海道で予定されており
、政策的なバックアップも厚い状況です。以上より、北海道におけるグリーン水素製造の最適解は**風力等の豊富な再生可能エネルギーを最大限活用したアルカリ水電解(水素アイランド構想)**であり、将来的な大規模化・低コスト化に向けた道筋が描かれています。
地域特性: 関東地方(首都圏)は電力需要の大きい工業・都市地域である一方、域内の再生可能エネルギー発電資源は限定的です。大量の電力を他地域から融通しており、グリーン水素を大規模に製造する場合も電力の広域調達が不可避です。再エネ電源を直接確保する土地も限られるため、コスト低減には卸電力市場や他地域の再エネ電源との契約を駆使する必要があります。
電力調達方法: 関東で産業用水素を製造する際の電力源としては、主に①卸電力市場(JEPX)から調達した電力(非化石証書等で実質再エネ化)、②他地域の再エネ発電所とのオフサイトPPA契約、の二つが考えられます。まず①について、JEPX市場価格は再エネ電源増加の影響で日中の太陽光多寡による変動が見られ、晴天日の正午前後には価格低下(場合によっては数円/kWh台)する一方、夕方や夜間は需要ピークや火力燃料費により高騰する傾向があります
。関東エリアの年間平均市場価格はここ数年10円/kWh前後ですが燃料市況で上下します。水素製造プラントが市場連動の電力を使う場合、電力単価の安い時間帯に電解を集中し、高騰時間帯は出力を落とすといった運用でコスト最適化を図ることになります。一方②のオフサイトPPAでは、例えば東北や北海道の風力発電所、あるいは九州などの日射量が多い地域の太陽光発電所と契約を結び、関東の水素プラントに電力を送電して利用する方法です。PPA契約により例えば固定単価8~12円/kWh程度で長期の再エネ電力供給を得られれば、市場変動リスクを抑え予見性の高い事業運営が可能となります。実際に再エネ100%電力を調達する動きは関東企業でも広がっており、オフサイトPPAや非化石証書の活用によって鉄道駅施設等へ再エネ電力を供給した例もあります
。関東では大規模な余剰再エネは発生しにくいため、「余剰電力のただ同然利用」で劇的にコストを下げることは難しく、ある程度の電力単価を支払ってでも高い稼働率を確保する戦略が求められます。なお「その他」の調達として、都市部の未利用エネルギー(下水熱や工場排熱等)による発電を水素製造に充てる可能性もあります。特に都市ごみ焼却施設は安定的な発電源であり、北海道苫小牧のモデル同様に東京近郊でも焼却発電電力を水電解に活用するポテンシャルがあります。ただし大規模(水素数十トン規模)となると焼却発電だけでは容量不足で、主力電源には据えにくいでしょう。
水電解方式: 関東では電力調達が複合的になるため、運転制御の柔軟性が重要です。その観点からPEM型(プロトン交換膜)水電解の採用が有力です。PEM電解槽は出力の追従速度が速く、部分負荷運転での効率低下が小さい特徴があり、電力価格や系統事情に応じて水素生産量を機動的に調整できます
。例えば昼間の安価な時間帯は100%出力で稼働し、夕方の高騰時には一時停止するといった運用でも、PEMは電解セルを迅速に再起動でき寿命への影響も比較的軽微です。一方、アルカリ水電解は連続定常運転では高効率・低コストですが、頻繁な起停や大幅出力変動を繰り返すと電極被膜の劣化やガス混じりによる効率低下が生じやすくなります。関東のように電力単価に応じた断続運転を前提とするなら、多少のCAPEX増を許容してでもPEM方式を選択する妥当性があります。実際、福島県浪江町に建設されたFH2R(水素エネルギー研究フィールド)では20MW級のPEM電解設備が導入され、太陽光発電と系統電力を使いデマンドレスポンス的に水素製造を制御する実証が行われています
。これは関東圏への大型水素供給拠点の一例で、出力変動に柔軟に対応できるPEMの利点を示すものです。もっとも、PEM採用によるCAPEX増分も無視できません。前述の通り現状のPEM電解槽はアルカリに比べ1.2~1.5倍程度割高で
、大規模化で幾分低減するとしても、関東での製造水素コストに上乗せとなります。AEMはPEMとアルカリの中間的な特徴(安価な触媒と出力可変性)を持つため将来的には有望ですが、現時点でMW級の実績が乏しくリスクがあります。SOECは発電所の排熱利用などと組み合わせ高効率化できれば魅力的ですが、やはり変動電力への即応性が低く現段階では適しません。以上より、関東ではPEM方式が運用柔軟性・信頼性の点で優位と判断します。
蓄電池併用の有無: 関東において蓄電池を用いるメリット・デメリットは、基本的に北海道の場合と同様です。コスト面では現状蓄電池なしの方が有利で、水電解装置の出力自体を市場価格シグナル等で調整する運用が合理的です
。蓄電池を併設して夜間の安価電力を貯めて昼間に使う、といった運用も理論上可能ですが、夜間の電力が極端に安価になる局面(例えば大規模揚水の余剰や大量の風力で深夜にマイナス価格になる等)は現在の関東ではあまり期待できません。また、水素は製造後にタンクなどに貯蔵できるため、電力ではなく製造した水素そのものを在庫することで供給調整する方が効率的です。したがって無理に電気を貯める必要性は薄く、コスト増につながる蓄電池は基本導入せずに電解セルの出力調整+水素ガスホルダで対応する構成がベストと考えられます。蓄電池を省くことで初期投資を削減し、システムを簡素化できる利点もあります。
以上の分析から、関東地域で最も経済的なグリーン水素製造手段は、「卸電力市場調達(またはオフサイトPPA)電力」+「PEM型水電解装置」+「蓄電池非併用」の組み合わせと結論づけられます。すなわち、市場やPPAで調達した実質再エネ電力を用い、電力価格に応じて柔軟に出力制御可能なPEM電解槽を稼働させる方式です。電力価格の高い時間帯の稼働率を下げることで電力単価の実効平均を引き下げつつ、可能な限り稼働時間を確保し設備の固定費を薄めるバランス運用となります。この方式により、関東でも水素コストを約¥600~700/kg(55~65円/Nm<sup>3</sup>)程度に抑えられる見込みです
。仮に他地域の安価な再エネ電力を長時間利用できればさらに低減余地がありますが、現時点では北海道・九州ほど安価な電力確保は難しいため、50円/Nm<sup>3</sup>台後半が一つの目安と言えます。それでも現在の水素ステーション供給価格(約100円/Nm<sup>3</sup>)の半分程度にはなり、一定の競争力を持ちます
。下表に関東で検討される主な構成案の比較を示します。
▼関東地域:水素製造オプションの比較
電力調達方法
水電解方式
蓄電池併用
設備CAPEX目安
電力コスト
水素製造コスト目安
導入例・補足
卸電力市場 + 非化石証書【最適】
PEM型
無し
~15万円/kW(現在)
平均約10円/kWh(変動あり)
~60円/Nm<sup>3</sup>(約¥650/kg)
市場価格に応じ出力調整
。FH2R実証で20MW級PEM導入
。
オフサイトPPA(風力/太陽光)
アルカリ型
無し
~12万円/kW(大量生産時)
固定約8~12円/kWh相当
~55円/Nm<sup>3</sup>(約¥600/kg)
長期安定供給可能。出力変動に留意し余剰時は一部停止も。電力契約分散でリスク低減。
(参考)オンサイト再エネ直結
アルカリ型
必要に応じ
施設規模次第
ほぼゼロ円(余剰のみ利用)
**~100円/Nm<sup>3</sup>**超え恐れ
関東内は大規模余剰少なくCF低下
。夜間ゼロで水素供給安定に課題。
※関東では上記最適案に加え、水素受入れ側(産業ユーザー)の事情によっては水素パイプライン輸送や既存燃料との価格比較も重要になる点に留意。たとえば都市ガス代替用途では現状の都市ガス価格相当に水素単価を抑える必要があり、その場合20円/Nm<sup>3</sup>前後までの低減が求められる
。これは将来的な課題である。
関東地域では、国の支援策として水素製造装置の導入補助や電力市場改革もカギとなります。経済産業省や環境省の補助事業で水電解システムや蓄電池の導入補助金が用意されており、先行事例のコスト低減を下支えしています。また非化石電源価値取引市場の拡充により、安価な深夜電力等を再エネ属性付きで調達しやすくする制度的支援も期待されます。将来的には関東近海の洋上風力など新規大型再エネ電源の開発が進めば、より低コストなグリーン電力が域内調達できるようになり、水素製造コストの一層の低減につながるでしょう。
地域特性: 九州地方は日本有数の日照量と太陽光発電導入量を誇り、**太陽光由来の余剰電力(出力制御電力)**が頻繁に発生しています
。実際、九州電力管内では再エネ大量導入に伴い2023年度上期だけで13億kWh超の再エネ発電が出力抑制されたとの報告もあり
、これは再エネ電力価値に換算して数百億円規模の逸失となっています
。こうした背景から、九州では余剰再エネ電力を有効利用するPower-to-Hydrogen(P2H)実証が活発です。豊富な安価再エネを活かせる反面、需要地から離れているため水素を現地生産・利活用するモデルの構築が課題となっています。
電力調達方法: 九州で水素製造コストを下げるカギは、何と言っても余剰再エネ電力の活用です。九州電力エリアでは太陽光発電量が需要を上回る時間帯に市場価格がほぼゼロ円(JEPX下限0.01円/kWh)まで低下する例があり
、この極めて安価な電力を利用できれば水素製造の電力コストを大幅に抑制できます。具体的な調達手法としては、①系統余剰電力をそのまま利用する方法と、②太陽光発電所等と専用契約(PPA)を結ぶ方法があります。①の場合、水電解装置を系統に接続し、九州エリアで出力制御指示が発動されるタイミングや市場価格が低迷する時間帯に合わせて稼働する形となります。実質的に無料同然の電力を使える反面、そうした余剰が生じるのは主に天候の良い日の正午前後などに限られるため、設備利用率(キャパシティファクタ)は低くなりがちです
。一方②のPPA方式では、例えば大規模太陽光発電所を水素製造専用に設置し、その発電を優先利用します。契約上はある程度の電力単価(例:5~8円/kWh程度)を支払うものの、設備を水素製造用に最適化できます。九州の太陽光は年間設備利用率で15%前後ですが、日中晴天時には定格近く発電するため、このピーク出力に電解容量を合わせれば昼間の高出力時に集中稼働させる運用となります。ここでポイントとなるのが、電解装置容量と発電容量のマッチングです。例えば「安定部分電力型」として発電曲線の下限部分(雲があっても確保できる一定出力)に合わせて電解装置をやや小さめに設計すれば、晴天日には常にフル稼働、曇天でもある程度稼働し、設備利用率を大きく高められます
。逆に「余剰電力型」として発電容量より電解容量を大きくすると、晴天時でも一部発電を捨てる代わりに設備利用率が極端に低くなる恐れがあります
。従ってコスト最小化には適切なPV-電解容量比の設定が重要です。さらに、九州には陸上・洋上風力の資源もあり、夜間は風力発電から、昼間は太陽光発電から電力を得るハイブリッド運用も考えられます。実際、北九州市の響灘地区で始まった環境省実証事業では、太陽光・風力・ごみ発電といった複数の再エネ電源を同時制御するエネルギーマネジメントシステム(EMS)を構築し、クリーン電力から水素を「つくり・はこび・つかう」モデルの検証が進められています
。このように九州では多様な再エネ電源を統合した電力調達によって、水電解装置の高稼働と電力単価低減を両立する取り組みが特徴です。
水電解方式: 九州のケースではアルカリ水電解方式とPEM水電解方式のいずれも有力です。電力コストが非常に低廉な場合、設備利用率向上による固定費圧縮のメリットが相対的に大きくなるため、安価なアルカリ電解槽を導入して多少稼働率が低くともとにかく電力単価の安さを享受する戦略が考えられます。一方で、九州の太陽光出力は天候に左右され秒~分単位で急変動することもあります。アルカリ電解槽で急な出力低下に追随できない場合、一時的に電力需要<供給となり系統逆潮流が問題になる可能性があります。この対策として、PEM電解槽であれば瞬時の出力制御が可能なため、太陽光や風力の出力変動に細かく追従して系統調整力として振る舞うこともできます
。例えば曇りでPV出力が急落した際にPEMなら即座に消費電力を下げられ、逆に日が差して出力急増した際には瞬時に受け入れ(電力消費を上げる)ことができます。これは系統安定の観点から理想的で、余剰再エネの最大活用にも寄与します。ただし純粋な経済性で見ると、電力がほぼタダ同然なら電解装置は安いほど良いため、アルカリ方式(または将来低コスト化したAEM方式)の大型機が有利でしょう。現在進められている北九州響灘の実証事業でも、分散型地域(大学の水素ステーション向け)にはPEM装置を用いる一方、産業集積地域向けには高効率な大型SOECの導入調査を行う計画が示されています
。これは即ち、小規模分散利用には変動対応力の高いPEM、大規模集中利用には効率重視(将来的に安定稼働前提)のSOECやアルカリ、といった住み分け戦略です。現時点の技術成熟度から言えば、数~十MW級で確実に安定稼働させるなら実績の豊富なアルカリ方式が安心ですが、九州ならではの頻繁な出力制御用途にはPEM方式も充分選択肢になります。総合すると、経済性優先ならアルカリ、出力変動追随優先ならPEMという評価です。両者のコスト差は今後縮小傾向にあり
、いずれを採用しても水素製造単価への影響は電力コスト要因に比べれば小さいため、実証プロジェクトでは両方式を比較しつつ最適運用を探っている段階と言えます。
蓄電池併用の有無: 九州でも基本的に蓄電池なしで運用する方がコスト面で有利です
。太陽光から水素への直変換効率は、余剰電力をいったん蓄電してから水電解する二段プロセスよりも高く、変換ロスによる電力損失や電池減価償却を考慮すると経済的に見合いません。日照の変動に対しては、水電解装置自体を制御するか、あるいは小規模な水素ガス緩衝タンクで吸収すれば十分対処可能です。とはいえ、急な曇天時など短時間だけ電力が不足する場合に備えて、ごく小容量の蓄電池で瞬間的な出力安定化を図ることは考えられます。この場合は数分~数十分程度の調整用で、必要容量も限定的なため大きなコスト負担にはなりません。現に響灘の実証でも「マッチング技術」として需要と発電の微調整機能を持たせることが言及されています
。ただ、大局的には電力平準化よりも水素製造量平準化(=水素貯蔵)で対応した方が安価であるため、九州でも蓄電池は基本不要と考えて差し支えありません。むしろ出力制御されるような過剰な太陽光発電が既に多数存在する状況では、新たに蓄電設備を作るよりその余剰電力を使う水電解設備に投資すべきという経済判断になります。
以上を踏まえ、九州地域で最も安価となる水素製造オプションは、「太陽光発電由来の極廉価電力(系統余剰または専用PV)」+「大規模アルカリ水電解装置」+「蓄電池非併用」と結論づけられます。すなわち、日中の余剰太陽光電力を逃さず水素製造に充て、夜間や天候不順時は稼働を停止する割り切り運用です。電力コストが非常に低いため、設備稼働率の低下による単位当たり固定費増を十分補って余りあります。試算では、仮に日中約6時間/日稼働(CF25%)・電力単価5円/kWh程度で運用した場合でも水素製造コストは¥400~500/kg(約35~45円/Nm<sup>3</sup>)前後となり、北海道や関東より低コストが達成可能です(電力単価ゼロに近づけばさらに低減)
。下表に九州における主要な選択肢の比較を示します。
▼九州地域:水素製造オプションの比較
電力調達方法
水電解方式
蓄電池併用
設備CAPEX目安
電力コスト
水素製造コスト目安
導入例・補足
太陽光余剰(系統連系、出力制御対応)【最適】
アルカリ型
無し
~12万円/kW(大規模量産時)
~0.1円/kWh(実質無料)
~40円/Nm<sup>3</sup>(約¥450/kg)
出力制御時のみ稼働でCF低め
。電力コスト極小のため低単価実現。
専用太陽光発電所 (オンサイトPPA)
アルカリ型
無し
~12万円/kW(同上)
~5~8円/kWh(LCOE相当)
~45円/Nm<sup>3</sup>(約¥500/kg)
晴天時フル稼働・夜間停止でCF~20-30%。安価再エネ直接利用。
太陽光+風力ハイブリッド
PEM型
無し
~15万円/kW(現状)
昼:太陽光余剰0円/夜:風力数円
~35円/Nm<sup>3</sup>(約¥390/kg)
昼夜通じCF向上(~50%)
。変動追従で余剰を最大活用。
(参考)蓄電池併用
アルカリ/PEM型
有り
+蓄電池コスト加算
蓄電ロス分実質↑
**~50円/Nm<sup>3</sup>**超える可能性
電力平準化でCF向上もコスト増
。基本的に不要。
※九州では水素需要地までの輸送も検討課題。現地利用以外に、例えば製造した水素をアンモニアに合成して他地域へ海上輸送する案なども模索される。
九州地域のグリーン水素プロジェクトは、環境省やNEDOによる支援の下で先行的に進んでおり、地域の実証結果が今後の全国展開モデルになると期待されています。特に響灘実証ではEMSによる需給マッチング技術確立や、水素と酸素の同時活用(副生酸素の利活用)まで視野に入れており、水素製造の経済性向上に向けた包括的な検証が行われています
。政策的にも「脱炭素先行地域」の指定や地域新電力との協業による再エネ電力融通スキーム構築など、九州発のモデル創出に手厚い支援が見られます。総じて、九州における最適解は大量の太陽光余剰電力を安価に活用した水素製造であり、日本国内では群を抜く低コスト潜在力を有する地域と言えるでしょう。
以上、北海道・関東・九州の各地域について、産業用グリーン水素製造の最適な組み合わせを考察しました。地域ごとの最適解をまとめると下表のようになります。
▼地域別最適なグリーン水素製造方式のまとめ
地域
電力調達手段
水電解方式
蓄電池
想定水素製造コスト<sup>*1</sup>
主な理由・特記事項
北海道
風力発電とのPPA(余剰時は市場活用)
アルカリ型
無し
~50円/Nm<sup>3</sup>(約¥550/kg)
風況良好で安価な電力を確保可能。設備費安いアルカリで大型化しコスト圧縮
。蓄電池は実証中も費用対効果小
。
関東
卸電力市場(JEPX)+非化石証書(または遠隔PPA)
PEM型
無し
~60円/Nm<sup>3</sup>(約¥650/kg)
再エネ不足で電力費高めだが、市場価格に合わせた柔軟運用でコスト最適化
。PEM採用で変動対応力確保
。
九州
太陽光余剰電力の最大活用(必要に応じPPA併用)
アルカリ型
無し
~40円/Nm<sup>3</sup>(約¥450/kg)
日中の余剰電力を活用し電力費極小化
。安価電力で低稼働率でも水素単価大幅低減。蓄電池なしでシンプルに運用。
<small><sup>*1</sup>試算ベースの概算値。地域・契約条件により変動。</small>
3地域を比較すると、最も低コストで水素を製造できる潜在性が高いのは九州です。太陽光発電の余剰という「捨てられている電気」を有効利用できるため、電力コストをほぼゼロに近づけられます。一方、北海道も風力資源によって低廉な電力を得られ、さらに大規模プロジェクトの実現性(広大な用地や港湾インフラ等)で優位性があります。関東は電力コスト面で不利ですが、需要地に近く輸送コストを抑えられる点や、副生成物の酸素利用など付加価値創出の余地があります。それぞれの地域で実証事業や官民の支援が進んでおり、北海道では国内最大級の水素サプライチェーン構築に向けた調査
、九州では再エネ由来水素の地産地消モデル構築
、関東でも福島拠点からの水素供給や水素発電実証が計画されています。
技術的成熟度(TRL)については、アルカリ・PEM方式ともに商用段階に達しており数十MW規模までスケールアップ可能です。特に海外では100MW級のアルカリ電解プラント建設も始まっており、日本国内でも遜色ない規模に拡大できます。PEMについても部材コスト低減や耐久性向上が進みつつあり、今後はアルカリとのコスト差が縮小していく見通しです
。蓄電池に関しては、電気自動車の普及に伴い大量の使用済み電池が将来流通すれば、安価な蓄電池リソースとして水素製造への活用が進む可能性があります。しかし少なくとも2030年頃までは、水素製造コストに直結する形での蓄電池導入は慎重に判断すべきでしょう
。
最後に、水素製造コストの削減には電力・設備面以外にも規模の経済や学習曲線効果が大きく寄与します。各地域で需要創出と供給拡大を同時並行で進め、設備利用率を高めながら量産効果で機器コストを下げていくことが重要です
。例えば北海道や九州のポテンシャル地域からスタートし、そこで得られた低コスト水素を関東など需要地へ供給するサプライチェーンを構築することで、全国的な水素コスト低減を加速できます
。日本政府の水素基本戦略でも2030年に年300万トンの水素供給量を目指し、その中で国産グリーン水素の位置づけが高まっています
。今回検討した地域別最適手段のような取り組みを着実に積み重ねることで、将来的には目標とする20~30円/Nm<sup>3</sup>程度の水素コスト達成も視野に入ってくるでしょう
。
以上の分析より、北海道・関東・九州それぞれの強みを活かしたグリーン水素製造モデルが明確になりました。地域の再エネ特性に応じた最適解を実現することで、日本全体の水素供給コスト競争力を高め、カーボンニュートラルに向けた水素社会の構築に貢献できると考えられます。
参考文献・出典: 本文中の引用箇所【】内に示したとおり。