蒸留において、最も重要な技術のひとつが「カット」です。
ウイスキーやジン、ブランデーなど、さまざまな蒸留酒の製造に共通する重要な工程であり、どの部分の蒸留液を使うかによって、最終的な製品の品質は大きく変わります。蒸留中、回収瓶には少しずつ蒸留液が溜まっていきますが、その香りや味は最初から最後まで一定ではありません。スピリッツの蒸留では、一般的に蒸留の序盤を「ヘッド」、中盤を「ハート」、後半を「テール」と呼び、主に品質の良いハートの部分を製品に使用します。
では、どこからどこまでが良い部分なのか。これを判断する最も確実な方法は、実際に蒸留液をテイスティングすることです。蒸留家は蒸留中の液体を定期的に確認し、その香りや味の変化を見ながら、どこからどこまでを製品として使うかを決めています。
水を使った減圧蒸留でも、基本的な考え方は同じです。
例えばハーブ類の場合、蒸留の序盤ではまだ素材から十分な香気成分が抽出されておらず、香りが比較的弱いことがあります。その後、香りの強度が急激に高まり、さらに蒸留を続けると徐々に弱くなっていきます。
これらを最初から最後まで一つのボトルに回収してしまうと、香りの強い部分が前後の薄い蒸留液によって希釈され、全体として香りの弱い蒸留水になってしまいます。
そのため、序盤と終盤をカットし、香りの質と強度が優れた部分だけを選んで使用することが重要です。
一方、イチゴのように香りが非常に強く、成分が水中へ移行しやすい素材では、蒸留の最初に最も強い香りが現れ、その後急速に弱くなっていくことがあります。この場合、最初に得られる非常に香りの強い部分だけを回収してスプレーボトルに入れると、数回吹き付けるだけで、はっきりとしたフルーツの香りを与えることができます。
このように、蒸留中に香りがどのように変化するかは、素材によって大きく異なります。そのため、初めて扱う素材を蒸留するときは、細かくサンプリングしながら香りの変化を確認することが非常に重要です。
初めて扱う素材では、蒸留液を25 ml程度ずつ分けて回収することをおすすめします。
回収瓶に25 ml溜まるたびにワイングラスなどへ移し、新しい蒸留液を回収します。これを蒸留終了まで繰り返します。
最後に、それぞれのサンプルを順番にテイスティングしてください。
香りの強度だけでなく、香りの質、青臭さ、重さ、雑味なども確認し、品質の良い区間だけを混ぜ合わせて使用します。
この方法を一度行えば、その素材の香りが「いつ出始め、どこでピークになり、いつ弱くなるのか」を把握できます。
二回目以降は、その結果をもとに、より簡単かつ正確にカットできるようになります。
ハーブを蒸留器の下段に入れ、全体が浸る程度の水を加えて減圧蒸留します。ハーブの量が少なすぎると、得られる蒸留水の香りも弱くなります。最初はやや多めに使用することをおすすめします。例えば、ボイラーの目盛りで300 mlのライン程度までハーブを入れ、水を500 mlのラインまで加えるくらいがひとつの目安です。
ローズマリー、バジル、オレガノ、タラゴン、ディル、コリアンダー、レモングラスなどは、非常に美しい香りの蒸留水になります。
より強い香りを得るためには、蒸留前にハサミで細かく刻んだり、ペストルなどで軽く潰したりして、素材の組織を壊しておくと効果的です。また、あらかじめ水に浸し、冷蔵庫で一晩抽出してから蒸留する方法もおすすめです。
得られた蒸留水は、炭酸水で割るだけでも素晴らしいドリンクになります。また、ビールやワインに少量加えて香りを付ける使い方もできます。
個人的におすすめなのは、氷を入れたグラスにジン15 mlを注ぎ、ソーダを加え、最後にハーブの蒸留水を15 mlほど加えて軽く混ぜるシンプルなカクテルです。
フルーツを減圧蒸留する際、ただ水で果肉を蒸留するのは勿体ありません。ボイラーに果肉と共に砂糖を入れて減圧蒸留を行うことで、シロップとコンポートを同時に作ることができます。この過程で素材に熱は加わらないため、非常にフレッシュで色鮮やかな仕上がりとなります。
蒸留器の下段にフルーツの果肉を入れ、果肉と同程度の量の水、砂糖、酸化による変色防止のため少量のビタミンCを加えます。果皮を使用できるフルーツの場合は、皮を蒸留器の上段に置きます。
この状態で減圧蒸留すると、果肉と果皮の両方から香りを抽出した蒸留水を得ることができます。同時に、下段ではフルーツのシロップとコンポートが作られていきます。目安として、最初に加えた水の半量程度の蒸留液が得られた時点で蒸留を終了します。
桃、リンゴ、完熟した洋梨などは、特に素晴らしい結果が得られます。イチゴのように使用する果皮がないフルーツの場合は、全量を下段に入れて構いません。
シロップやコンポートを主役にしたい場合は、水の一部に白ワインやブランデーなどのお酒を加える方法もあります。種を取り除いたサクランボなども非常に良い素材です。アルコールを加えて蒸留した場合、得られる蒸留液にもアルコールとフルーツの香りが移行し、非常に香り高いスピリッツになります。こちらも捨てずに、ぜひテイスティングしてみてください。また、その蒸留液をごく少量だけシロップ側へ戻し、香りを補強する使い方もできます。
フルーツは、比較的蒸留前半に良い香りが集中する傾向があります。そのため、特に前半は細かくサンプリングし、香りのピークを逃さないことが重要です。
こうして得たシロップ、コンポート、蒸留水は甘さを押さえたノンアルコールドリンクにぴったりです。
グラスに氷を入れ、炭酸水を注ぎ、シロップ15mlを注いで軽く混ぜ、最後に蒸留水をアトマイザーで贅沢に吹きかけます(とはいえ5ml程度です)。もちろん、コンポートをピックに刺して乗せてもよいです。こうしてできるドリンクは甘さを控えつつも、蒸留水がグラスの上面に存在することで非常に香りが豊かで、バランスが成立するのが特徴です。(もちろん、ジンを15ml入れても最高です)
フルーツの中でも特に柑橘はユニークな蒸留方法が適用できます。もちろん、上述の通り下段に果肉を入れ、上段に果皮を置いて蒸留してもよいです。一方、柑橘は少し手間をかけることで、さらに面白い蒸留ができます。
まず、柑橘の外果皮だけをピーラーで薄く剥き、一晩冷凍します。
次に、果肉を搾ってジュースを作ります。
このジュースを減圧蒸留し、元の量の1/3程度になるまで濃縮します。
この工程によって、
・ 濃縮された柑橘ジュース
・果肉由来の香りを含んだ蒸留水
の2つが得られます。
この段階の蒸留水は、次の工程でもう一度使用するため、細かなサンプリングやカットは必要ありません。
次に、冷凍しておいた外果皮と、先ほど得られた果肉の蒸留水をミキサーに入れ、細かなペースト状にします。
必要に応じて水を加え、これを再び減圧蒸留します。この二回目の蒸留では、細かくサンプリングを行い、必ずカットしてください。
外果皮からは非常に強い香気成分が得られ、蒸留液の香りは時間とともに大きく変化します。
また、得られた蒸留水の表面には柑橘由来の精油が浮くことがあります。これをスポイトなどで分離すれば、柑橘精油として使用できます。精油をアルコールで適切に希釈してスプレーボトルに入れれば、香り付け用のフレグランスとして使用することもできます。
この方法によって、ひとつの柑橘から、
・ 濃縮されたジュース
・果肉と果皮の香りを凝縮した蒸留水
・果皮由来の精油
という3種類の素材を作ることができます。
こうして得た濃縮柑橘ジュースにスピリッツを合わせ、仕上げに蒸留水をアトマイザーで吹きかけたショートカクテルは、濃厚でアルコールの強さに負けない仕上がりになります。