大学入学前でもわかる

経済学の本(など)

ここでは「中高生(中3〜高2)の知的好奇心を駆り立てそうな経済学の書物」を紹介。まずは「経済学を知りたい人へ」向け。

  • 故事成語でわかる経済学のキーワード(梶井厚志著,中公新書)

中学生や高校生にも馴染みある「故事成語」を用いて,経済学における必須の概念・考えを伝える新書です。モデルや数式などはもちろん一切使わず,平易な言葉を中心に書かれているので非常に読みやすいと思います。「経済学とは何か?」をイメージする上で最初に手にとって読むのを推奨する書籍です。


  • 統計学 最高の教科書 現実を分析して未来を予測する技術を身につける (今野紀雄著,サイエンス・アイ新書)

高校数学の新課程では数I・数Bで扱うことになっている統計と確率。この本では,難解な数学記号など読みにくい要素を最大限削除した上で経済学を学習する上でも重要である「統計データの読み方」に必要な確率・統計の知識を押さえることができます。文理問わず,確率・統計のはじめの一歩として最適だと思いますが,特に数学に抵抗がありそうな方でも読破できそうだ…と思い,選ばせていただきました。


  • 教養としての経済学-- 生き抜く力を培うために(一橋大学経済学部編,有斐閣)

執筆当時一橋大学に在籍されていた先生方によって寄稿された,一般向けに「経済学とは何か?」「経済学で何を学べるか?」について書かれた書籍。まさに進路に迷っている高校生が経済学部に進学して学べる内容,およびそれを極めていけばどういった対象を研究できるかについて述べられている。専門家ではなくあくまでも一般向けに書かれているので読みやすいと思います。


ここからは「大学で学ぶ経済学を先取りしたい」人向けの本です。


  • 心と体にすーっとしみこむミクロ経済学(市野泰和著,中央経済社)

経済学に対する偏見や誤った考え方を持っている中学生・高校生もいらっしゃると思います。そんな中,経済学を「人や企業の意思決定を科学する学問」であり,何か突き放したようなものだったり身近な生活とかけ離れたものではない,日常生活の範囲内でも近い距離感で接することができ,論理的に客観視することができるツールであることをミクロ経済学を通じて語りかけているような本です。各大学の経済学部の入門科目でも多く使用されており,数学に苦手意識を持つ文系の学生であっても非常に読みやすい本なので,「ミクロ経済学の入り口」として非常に参考になる本だと思います。

ミクロ経済学は,人や企業など経済主体の意思決定に関する学問です。(非常に広い分野を指していますが)この分野に該当する世界水準で通用する研究者は日本にも数多くいらっしゃいます。なので,経済学の中では一番中学・高校の学生でも読むことができるであろう書物が多い分野かもしれません。

(ちなみに,私はもともと高校まで数学が得意科目で,その名残で大学に入って数学の教員免許(中学・高校)を取得するための授業を学部の前半では多く履修しておりました。そのこともあって,数学が入り口でゲーム理論に興味を持って,ミクロ経済学に傾倒していきました。)


  • やさしいマクロ経済学 (塩地悦郎著,日経文庫)

日経文庫の緑色の帯がかかった経済学に関する本は,どの本も入門レベルおよび社会人の経済学学び直し(リメディアル)にも適している本が多く,特に「やさしいマクロ経済学」は日本経済新聞の1面などで扱われる重要なマクロ経済に関するキーワードを絡めながら,入門レベルのマクロ経済学を教える内容になっております。この本を中学生・高校生に推薦する本として選出した理由として,読んでいて個人的には「中等教育で扱う公民・現代社会・政治経済との親和性が一番あるかもしれない」と思ったからです。ミクロ経済学・統計(計量経済学)とともに,マクロ経済学も経済学を学習する上で骨格となる分野です。経済学部に入ったら必ず一度は触れないといけないものでもあるので,今のうちから入り口だけでも覗いてみるのはいかがでしょうか。


  • ゲーム理論入門(武藤滋夫著,日経文庫)

もう1冊,日経文庫から紹介。日経文庫は価格帯もお手頃で中学生・高校生にも手を出しやすい書籍が多いと思います。そんな中でも,特に理系専攻の学生で「理科や数学は得意なんだけど,化学や物理学・医学など自然科学に近い領域の分野にはそんなに興味がないかもなぁ」と思っていらっしゃる方は,思い切ってゲーム理論に触れてみるのもいいと思います。この本はメモ用紙など白紙とペンを用意して,数学の一分野でもあるゲーム理論を,手と頭を動かしながら読解するのがオススメです。数学のレベルでは中学生だと難しいかもしれないですが,高校生なら読解することが無理ではないレベルだと思います。そうすることで「意思決定を科学する」ゲーム理論のことが少しでもわかるかもしれないですし,ゲーム理論が扱うことができる研究対象の広さにも気づかされると思います。

ゲーム理論はミクロ経済学の中に含まれており,昨今の経済学の学習および研究においては欠かせない「道具」です。実を言うと,1番目に触れた「心と体にすーっとしみこむミクロ経済学」にも最終章でゲーム理論を扱っている章があります。この本から入った人は最初の本でミクロ経済学を,またその逆でミクロ経済学からゲーム理論に入り込むのもいいかもしれないですね。


最後は「一歩踏み込んで経済学に触れてみたい」篇です。


  • 原因と結果の経済学―データから真実を見抜く思考法(中室牧子,津川友介著,ダイヤモンド社)

経済学のみならず社会科学など様々な分野で大きなトレンドになっているデータ分析。そのデータ分析を数学的な側面よりも直観的もしくは解釈的な側面で初学者でもわかりやすく解説している学術書です。数学や確率・統計の前提知識がなくても読めるだけでなく,「データ分析から因果推論へ」導くことができるテクニック(制度変更や事件事故などの社会イベントの前後での違いを評価する差の差分析(Difference in Difference)など)をわかりやすく説明し,データ分析のベースとなる回帰分析における重要な点を簡潔にまとめている点でも優れていると思います。なお,この本については第1章を著者のホームページで無料公開しているので,購入前にそちらも確認するのもいいかもしれません。

https://healthpolicyhealthecon.com/2017/12/02/causal-inference-book/


  • しっかり基礎からミクロ経済学 LQアプローチ (梶谷真也,鈴木史馬著,日本評論社)

大学で,初級レベルのミクロ経済学の講義の教科書および参考書にも使われている学術書です。以前にも書いた通り,経済学(特にミクロ経済学)の基礎的な内容と高校数学で主に学習する1次関数と2次関数を用いてモデルによって説明を進めています。私は,高校生で「経済学に興味あって」「数学がある程度できる」文系の学生には確実に進めるであろう1冊です。ちなみに「大学で学ぶ経済学の数学って難しいんじゃないんかな…」と興味はあるけど不安になっている人は,この本のサポートページにある「数学の復習」も確認した上で購入を検討するのもいいかもしれません。


  • 幸せのための経済学―効率と衡平の考え方(蓼沼宏一著,岩波ジュニア新書)

武藤先生のゲーム理論の本同様に,メモ用紙とペンを用意し,読みながら図表を書いて理解していくタイプの本です。経済学は「合理的で冷たい」という偏ったイメージを持っている中学生・高校生もいらっしゃると思いますが,この本は経済学の考え方の基本である「論理的に筋道立った思考法」を基にして,「効率的・公平的とは何か」を徹底的に考えていく本です。

読者のターゲット層は中学生・高校生らしいのですが,大学で「経済学が正直あまり面白くない」と思う人でも,少し変化をつけた経済学アプローチでの分析を展開しているので,大学生(特に学部1年生と2年生)にもオススメできる書籍だと思います。かくいう私も,学部2年生でゲーム理論・ミクロ経済学に傾倒した後に,著者の講義をきっかけに「経済学で公平性を考える」アプローチの魅力に気づきました。内容的には,著者の学部での講義を中高生向けに咀嚼して書かれておりますので,一番「大学で学ぶことができる経済学」に近いものに触れられるのではないでしょうか。


というわけで,このシリーズ終了となります。