Researches

鳥類の渡りと進化

ノスリ Buteo japonicus におけるmigratory divide

ノスリは極東アジアに生息する猛禽類で、ユーラシア大陸側は亜種カラノスリB. j. burmanicus、日本列島側(サハリン含む)は亜種ノスリB. j. japonicusとされています。しかしバードウォッチャーの間では、以前から大陸亜種の日本への飛来の可能性が指摘されていました。そこで、西日本で越冬するノスリ28個体にGPSロガーをつけて追跡したところ、大陸亜種カラノスリB. j. burmanicusが少数ながら朝鮮半島を経由して西日本(九州)へ渡ってきて越冬していることを突き止めました。また、追跡した大陸亜種と日本列島亜種の渡り経路と繁殖分布域を比較してみると、それらは日本海を挟んで大陸側と日本列島側にはっきりと分かれていることがわかりました。このように、隣接する個体群が地理的障壁を避けるようにして異なる渡り経路をとる状態は、種分化の途上にある鳥類でしばしば見られます。極東アジアでは、約1500万年前に形成が始まり数百万年にわたって大きな水域を維持してきた日本海がノスリのmigratory divideとなっており、更新世における両亜種の分化と、日本列島亜種の固有化を促した可能性があると考えられます (Nakahara et al. 2022, IBIS)。

鳥類のハビタット選択

◆カササギ Pica serica

外来種は、在来生態系や人間生活に悪影響を及ぼすことがあります。北海道苫小牧市周辺で見られるカササギは、1980 年代に侵入した外来種だと考えられています。北海道のカササギの増加・拡大に関連している可能性のある営巣場所選択傾向について、営巣環境と営巣基質の 2 つの側面から調べてみると、北海道のカササギは、樹木営巣と人工物営巣で営巣場所選択傾向が異なっていました。 樹木営巣の場合は、周囲の樹木が多いエリアを選択していた一方で、人工物営巣の場合は周辺の樹木本数と営巣の有無に有意な関係性は見られませんでした。また、営巣基質の高さと巣の高さは樹木よりも人工物に営巣した場合に高くなっていました。さらに樹木営巣においては、周辺よりも樹高の高い木に巣がかけられていました。これらの結果から、北海道のカササギの営巣場所選択は、周辺環境に応じて柔軟に行われていることが示唆されました (Nakahara et al. 2015, Ornithological Science)。

◆ノスリ Buteo japonicus

九州で越冬しているノスリについても調べています。

◆ハイイロオウギビタキ Rhipidura albiscapa & タテフオウギビタキ Rhipidura verreauxi

ニューカレドニアで同所的に生息する近縁な2種のすみわけについても調べています。

風媒花の繁殖戦略・性配分

◆ブタクサ Ambrosia artemisiifolia

雌雄同体の植物は、繁殖資源をオス機能(雄花や花粉)とメス機能(雌花や胚珠・種子)に投資します。この繁殖資源の投資配分(性配分)は、個体のサイズに対する適応度曲線の形がオス機能・メス機能間で異なる場合にサイズ依存的に変化すると考えられています。風媒花の性配分は、しばしばサイズの増加とともにオス機能に偏ることが知られています。風媒花においてこのような性配分が生じる理由の1つとして、サイズ指標の一つである「草丈」の増加に伴うオス機能の適応度曲線の飽和がメス機能よりも遅いことが予測されてきました。これは、風媒花は草丈が高いほど広く、遠くまで花粉を散布できるのに対し、(風散布種子を除く)種子の多くは一般的に親株の近くに散布されるため、草丈に関係なく実生間の競争が生じやすくメス適応度が頭打ちになると考えられているためです。草丈に依存した性配分の理論的予測を実証するには、草丈以外のサイズの効果(資源量など)を考慮した上で、草丈の増加に伴う適応度の変化を調べる必要があります。 風媒草本ブタクサの実験集団において、マイクロサテライトマーカーを用いた父性解析によって種子の花粉親を推定し、サイズ指標(草丈・雄性花序長)とオス繁殖成功(オス適応度指標)の関係性を調べたところ、草丈が高いほど、また、雄性花序長が長いほど、オス繁殖成功が増加することが分かりました。その一方で、草丈と種子生産数の関連性を調べた解析では、種子生産数(メス適応度指標)は草丈の影響を受けていないことがわかりました。この結果は、草丈の増加がメス機能よりもオス機能に作用し、オス繁殖成功の増加を引き起こすことを示唆しています。これらの結果は、風媒花においてサイズ依存的な性配分が生じる条件(草丈の増加に伴うオス機能の適応度曲線の飽和がメス機能よりも遅い)を満たしており、草丈に依存した性配分の理論的予測を支持する初めての証拠となりました (Nakahara et al. 2018, Ecology and Evolution)。

 しかし、野外では食害や草刈りなどによって主茎の茎頂分裂組織が損傷を受け、伸長成長が阻害されることがあります。このような場合には、主茎の伸長によって得られる「草丈の効果」は見込めません。そこで私は、「主茎を損傷した株は性配分をメス機能に偏らせる」「主茎を損傷した株は側枝を伸長させて草丈の効果を得られるため、性配分は変化しない」という2つの仮説を立て、ブタクサ分布地域における野外調査と圃場実験によりこれらを検証しました。その結果、主茎の伸長が阻害された場合は側枝の伸長によって草丈が補われ、性配分変化が見られないことがわかりました。この結果は、風媒花における草丈の重要性を裏付けるものとなりました (Nakahara et al. 2018, Plant Ecology)。

鱗翅目の共食い・過剰脱皮・蛹休眠

◆ジャコウアゲハ  Atrophaneura alcinous

悪い成長条件下で共食い・過剰脱皮・蛹休眠など様々な応答を見せる毒蝶ジャコウアゲハにおいて、どれが相対的に有利になるかはおかれた条件によって異なることを飼育実験によって示しました (Nakahara et al. 2020, Entomological Science)。