98.『カプセルホテル初体験』

昭和24年組は最後の団塊の世代になるのだろうか?

まぁ、何も『団塊の世代』にこだわることはないか・・・そもそも第二次大戦後のベビーブームに誕生した人達のことを言っているのだから。この年齢になると、もちろん友達も一斉に分け隔てなく高齢者の仲間入りをしたか、その一歩手前といったところだ。親が生きていてくれれば80代から90代である。当然、要介護のケースが多くなる。10年前まで元気に生活してくれていた親も、変わらずに元気とは限らない。最近では100歳過ぎても、すこぶる元気な人も多いようだが個人差が大きいと思う。私の母は晩年様々な病気を抱えながら頑張ってくれていたが、医師からあと三ヶ月から半年と余命宣告をされた一番の要因は心臓病であった。それでもその後9ヶ月間元気に日々過ごしてくれて、ほとんど家族に負担をかけることは無かった。ただ、やはり定期的に具合が悪くなるので夜間に救急車を要請したり、自家用車で病院に連れて行ったりはしていた。その都度、1週間も入院すると回復してまた元気に好きな日本舞踊をお弟子さんに指導していた。亡くなった日も、昼間は普通に過ごしていたけれど、夜になって具合が悪くなった。私はまた1週間もすれば元気になって戻って来ると思っていたのだが、その日はそうは行かなかった。掛かり付けの病院は大きな病院だったので夜間の救急体制はしっかりしていた。その時も母の担当医が当直であった為、手際よくいつものように治療対応をしてくれた。いつもは治療して30分もすれば容態は落ち着くのだが、その日はそうは行かなかった。時間の経過とともに、どんどん具合が悪くなって行くのだ。私はただオロオロするだけで何が起きているのか理解不能に陥っていた。こんな時、何と家族の無力なことか!その日の深夜に母は息を引き取った。享年90歳の生涯であった。80代の元気な頃、母が言っていた言葉を思い出す。

「80代で死んだら、世間じゃ天寿を全うしたと言うだろうね。」

続けて「でも、幾つになっても本人はまだまだと思っているんだけどね。」

私は、なるほどその通りだと思った。

私の書道の先生が80数歳の誕生日を前にして「振り返ればあっと言う間の事で、80代の自分がここに居ると云う現実に大きな戸惑いを覚える事があります。」・・・

今となって思えば良く理解出来る。日々余裕なく精一杯生きて来て、皆ふと気が付いて見ると我が歳の増え具合に大いに驚くのだ。

母が亡くなって、その後の数年は良く泣いて過ごした。私は56歳であったが、家族を喪くした喪失感はその身に随分と応えた。先日13回忌の法要を済ませたが、これもまたあっと言う間のような気がする。

話しは友人の事に戻る。50年来の付き合いで中々の親孝行な友だ。ここ数年自宅で母親の介護を続けていたが、いよいよ医師に勧められて数ヶ月前に老健施設に入所を決めた。大分体力も落ち、衰弱して来ていると聞いて心配していた折、不幸の知らせが届いた。息子も世話になっている友人なので、親子で通夜と告別式に出席させてもらう事にした。

私は千葉県在住、葬儀は東京。最近の体力では2日間の通いはきついと思ったので、通夜の夜は東京で1泊する事にした。現役時代であれば宿泊費は経費で全額清算出来るので、新宿だったら古くからある京王プラザホテルにしたであろう。しかし今となっては隠居の身ゆえ、そんな贅沢は言ってられない。座右の銘の一つは『安分以養福』分に安んじて以って福を養うだ。カプセルホテルにしよう。宿泊施設としては料金も一番安いだろう。私の昔からのイメージでは1泊¥3000位。早速息子に頼んでインターネットで検索してもらう。ところが、どこも予約が一杯で空室が見つからない。それではと念の為にビジネスホテルも検索してもらう。その結果、ビジネスホテルは1泊¥10000前後が相場のようである。しかし、空室は見つからず。東京都内の宿泊施設の状況はかなり悪いようだ。

それでも粘り強く探した結果、新宿にあるカプセルホテルで二名分の予約を取ることが出来た。初めてのカプセルホテル体験だ。現在では色々なタイプのものがあり、先日テレビニュースでとても広くて豪華なカプセルホテルが話題になっていた。我が家が予約出来たタイプは写真のような、蜂の巣型(私が命名)。ごく初期のものではないだろうか。洞穴のような所に潜り込む。天井高は低いので這うようにして中に入る。奥行きはまあまあ、全室テレビ付き。試しにテレビをつけて見ると絶妙な音量設定で、上下左右のカプセルにはあまり影響が無いようにしてある。トイレはもちろん共同だが清潔感は保たれている。私は行かなかったが、結構立派な大浴場が別の階にあり息子は入浴してさっぱりしたようだ。着替えはフロント横のロッカールームでする。フィットネスクラブにあるものと同じ大きさのようだ。会社などにあるような大きさのロッカーであれば楽なのだけれど、ちょっと小さい。ロッカールームで着て来た服を脱ぎ、カプセルホテルで用意された病院の検査服のような寝巻きに着替えた。男女別にフロアーが分けられていて女性でも安心して宿泊ができるようだ。

この日はもちろん満室で、ホテル入口には『本日は満室です』の表示がされていた。お客は若い人たちがほとんどで、外国人観光客も相当数滞在していた。この場合滞在していたという言い方は、ちょっと不自然な感じがしてならない。普通のホテルに宿泊している場合は、滞在で良いと思うのだけれど、この場合はカプセルなので収まっているとかの方がピンと来るような気がするのだ。2020年のオリンピックに向けて日本の宿泊施設は本当に大丈夫なのだろうかと、ふと不安が過ぎる。まあ、オレが心配してもしょうがねえか・・・

決して快適とは言えなかったけれど、まあまあ眠ることは出来ました。ありがたし、ありがたし。値段は一泊¥4500-。この金額が今の相場なのだろう。初体験のカプセルホテル宿泊を果たして気分は大満足。

ちなみに帰宅して家族に「今度経験のために一緒に案内しようか!」と呟いたら。

「結構です!!」と一蹴されてしまった・・・