90.子の自立・健康弁当・安分以養福

二年前に息子がアパート暮らしを始めて、実質夫婦二人の生活になった。それ以前に長女、次女ともにご縁があってすでに嫁いでいる。近くに住まいがあるので、孫たちの事などで日々何かとせわしなく慌ただしいのも、私はありがたい事だと小さな幸せをかみしめている。

息子が自立して大きく変わったことがある。家族の食の体制が大きく変化したのだ。中学・高校時代からずっと続いて来た腹減らしの帰宅がもう無い。解放されたとどこかでホッとしている反面、こうなるとどうして良いか分からない自分がある。特に家内などは一層思いが強い筈だ。食の大黒柱が抜けたことで、自分たちの心配だけをすれば良いと言う事になった。

この頃、私は血液検査の数値のことで何やかやと医師から指導を受けていた。医師曰く「運動と食生活の改善に取り組んでください。」脂肪肝や糖尿病予備軍等々、問題は多々指摘されていた。「体重を落としましょう。」

「何もそう成りたくて成っている訳じゃない。数々の遺伝的要因と加齢による新陳代謝の低下が大きな原因で、そんなにたやすく答えを引き出せる問題じゃ無い。」いくら食べても太れない人もいるし、大食漢でも無いのに体重が落ちない人間もいる。現に誰しもそうだろうが、二十歳前後の頃など身体的な問題が起ころう事など思いも寄らなかった。高齢者になると、どの程度の量で運動をするのが良いかの見極めが、とても難しい。三浦雄一郎さんのような鉄人ならともかく、こちらは一凡人である。

まず、疲れやすい。すぐに、くたびれてしまうのだ。しかも、身体のどのパーツもポンコツになっている。とても壊れやすい。以前、三浦雄一郎さんが80歳を過ぎての日常トレーニングで、30キロのウエイトの入ったザックを背負い、足首には5キロのウエイトを巻きつけてウオーキングをする姿に痛く感動した。早速、鉄人のトレーニングを見習い足首にごく軽いウエイトを巻いてウオーキングを開始した。三日間は続けたが四日目に左ヒザが悲鳴をあげた。そして、壊れた。その後、ヒザの痛みが完全に消えるまで1年余の歳月を要し、とてもバカにならない治療費がかかった。お年頃の身体(シンタイ)パーツはとても繊細な状態にある。運動量を抑えればとても減量には繋がらないし、かと言ってオーバーワークすれば身体(シンタイ)パーツがいとも簡単に壊れてしまう。この点、太極拳は非常に優れた運動だと思う。しかし、私にとって太極拳は、子供の頃から50数年武術を続け培ってきた筋肉部分で何とか動けてしまうため、体にショックを与え目覚めさせるような運動にはならないようだ。どちらかと言うと、とても和んでしまう。やはり、ここは一番食生活の改善に取り組もう。そんな気になった。

以前にも食生活の改善を目指した事はあったが、素人に一食一食のカロリー計算はとても厄介で、それほど意志の強くない私などではとても歯が立たなかった。

しかし、今回は良い情報を得ている。管理栄養士の管理する『健康弁当』だ。この情報を知ったのはテレビ番組の『カンブリア宮殿』。そう、村上龍と小池栄子のあの番組だ。健康弁当はネットで注文し自宅に届く。冷凍の弁当をまとめて注文し、冷凍庫に保管しておけば一食一食電子レンジで加熱解凍するだけで食事にありつける。しかもその栄養内容はしっかりと管理栄養士によって計算されている。我が家では早速弁当保管用の冷凍庫を一台購入した。夫婦でそれぞれ別の弁当会社に冷凍の弁当を注文した。会社が違えば弁当の内容をその都度比較出来る。もちろん会社の窓口である管理栄養士の対応やサービスの方法も違うであろう。それぞれの会社に夫婦の血液検査データを提供して健康弁当生活はスタートした。献立のメニューはそれぞれ管理栄養士へのお任せメニューにした。一食の費用がおおよそ700円前後と普通の弁当より高くつくが定期購入のコースなので送料はつい最近まで無料であった。弁当生活を始めて一年後の定期検診の結果、脂肪肝は解消され糖尿病予備軍からも解放された。体重も少しづつではあるが減って来ている。すっかり食生活をこの弁当にしてしまえば、きっと効果はもっと上がるだろう。ずっと2週間で20食のペースで注文しているから、最初の6日間は一日2食、残りの8日間は一日1食のペースだ。味はそれほどまずくは無いが、かと言ってやはり病人食なので、飛び抜けて美味いとは言い難い。20食の弁当を無事食べ終わると、何故か正直気持ちがホッとしてしまう。早速ラーメンやら寿司やら焼肉やらを楽しむのだ。そうこうして居る内にまた20食が届くと言ったあんばいだ。

間も無く健康弁当生活を始めて丸2年を迎える。今年の健康診断の結果はどうなるだろうか。あれから息子も何とか無事2年間、一人暮らしを楽しみ続けている。家族が何とか日々無事に過ごしてくれている事は一番ありがたい。最近しみじみと思うのだ。世界一の幸せって、どんな幸せだろう?

私は確信している。

「世界一の幸せとは今、私が噛みしめているようなささやかな幸せだ。」

人によっては、求める大きさも違うだろうが、私は『安分以養福』、分に安んじて以って福を養う。