何を始めるにも同じことが言えると思います。確固とした志(こころざし)も無く、良き師も得られず、良き仲間も持たず、稽古もせず、時間もお金もかけずに上達は望めません。例えば健康太極拳です。簡化二十四式太極拳を始めとする制定拳も健康太極拳です。健康を目的としていますから傅清泉老師の指導される永年楊式太極拳のような武術性はほとんど考慮する必要はありません。健康の維持と体力の向上を一大目的とすれば、それはそれで立派な『志(こころざし)』と言えましょう。
「そんなに上手にならなくても良いから、週に一二度仲間と一緒に二十四式太極拳を楽しみたい。」こんな方はとても多いのではないでしょうか。24式の名前も漢字も覚えず、順序は周りを見ながら何とか収勢までは動ける。基本的には24式はこう云う方たちのために編纂された、健康套路です。だから、頭に『簡化』と云う文字が付いています。それは中国の多くの老人が取り組み易いように簡略化されたと云う意味合いです。
皆さんのように夜討ち朝駆けで真理の探求をする。パソコン・タブレット・スマホを駆使し何とか上達のヒントを探し、自らの太極拳向上の糧(かて)にしようとされている方達は別格と言えます。そうです!今、このホームページをご覧のあなたは100万人の太極拳愛好者の中でも一握りの別格と言えます。一般の皆さんは、こんな専門的で技術論ばかりが載っているホームページなど難しくて解らないし、退屈で我慢がならない筈です。
志(こころざし)の次は『良き師』となります。加藤修三先生が生前良くおっしゃっていました。
「太極拳の何たるかを分からない指導者が、入会して来た初心者に教えても、分かるようになる訳がない。」「分からない人間が、分からない人間に教えても、心も通じ合わないし、生徒が上手くなる訳がない。」「だから、指導者こそ一層謙虚な心で学ばなければなりません。」
簡単に『良き師』が見つかれば良いのですが、運もありますし、そう簡単には行きません。例え『良き師』が居たとしても、皆さんが気が付くかどうかも問題になります。その指導者の人間性と技術的レベルの良し悪しが見抜けるかは重要な問題なのです。まして地方にお住いの皆さんは、限られた地域の中で『良き師』を見つけ出すのは至難の技と言えましょう。
私はかれこれ半世紀以上、日本武術界で修行をしてまいりました。運良く一流の師に巡り会い、私自身才能は有りませんでしたが、良き指導のおかげで今日まで武術を続けられています。その武術家としての眼で、加藤修三先生を見た時、すぐに素晴らしい太極拳指導者だと気が付きました。私に良し悪しを見抜く力は有りましたが、その出会いは『運』としか申し上げられません。運が良かったのです。後から知ったのですが、加藤修三先生はとても有名な先生でした。日本武術太極拳連盟設立時の発起人の一人であり、連盟本部講師時代は指導本の執筆や、全国技術指導講習などで東奔西走の忙しさでした。私がお会いした時は、連盟を定年退職されてから数年が経っていた頃で、生活も落ち着かれていました。私は千葉県に住んでいますが、加藤先生は東京都在住で、東京の教室で教えて居られました。加藤先生に指導を受けるには、電車賃をかけ、千葉の相場よりもかなり高い授業料を払い、時間をかけて通う必要がありました。しかし、私の知る限り千葉県にこれほどの先生は居られませんでしたので、致し方なく通うしか方法はありませんでした。加藤先生の教室で指導を受けるようになってから気が付いたことがあります。普通の教室ではあまり見かけない光景です。同じ教室の同じ生徒の中に、全日本チャンピョンやそれに続く選手達、また元チャンピョンなどが普通に稽古をしているのです。一流には一流が集まる、類は類を呼ぶとはこんなことではないでしょうか。良き師がいて、良き仲間に恵まれお互いに切磋琢磨する環境です。こんな環境は待っていても向こうから訪れてくれることはありません。眼を良く見開いて、情報を集め、ここだと思ったら時間がかかろうが、お金がかかろうが掴んで離さず、自分の力で良き学習環境をつくり、学ぶことが上達の近道です。そこまでは出来ないと思ったら、それまでの話しです。それぞれのご家庭で、それぞれの制約の中で生活をして行かねばなりませんから、許される範囲で頑張るしかありません。
加藤先生がお元気な頃、毎月レベルアップ講習会を開催していました。それこそ全国から太極拳感性の高いみなさんが参加され、北は北海道から南は沖縄まで、はるばる中国本土からお見えになった方もおられました。遠くの方は前泊で講習を受けていましたので、月に一回とは言え馬鹿にならない費用がかかったと思います。何処でどんな先生に習ったら良いか皆目見当が付かないみなさんも多いことと思います。日本の太極拳団体は、ほとんどがアマチュアの太極拳団体であり、そこの太極拳指導者はもちろんアマチュアの指導者です。日本連盟の指導資格もアマチュア資格だと石原泰彦先生もおっしゃっておられました。そんな中で私の知る限り、日本で唯一のプロの太極拳団体が『日本太極拳友会』です。この日本太極拳友会を率いる三代正廣先生のことを勉強されることをお勧め致します。この組織と接触を持てれば、制定太極拳についても伝統太極拳についても大きな道が開けることと思います。日本太極拳友会についてのご質問があれば、当ホームページのお問い合わせでご連絡ください。みなさまの一層の向上を加藤修三先生と共に祈念致して居ります。