61.『銀座』苺ジャム

30代の頃、銀座3丁目の職場の近くにチョット広めのおしゃれな喫茶店がオープンした。仕事の打ち合わせなどは喫茶店でやる事も多く、試しに朝一人で行って見た。とりあえずコーヒーとモーニングセットを注文する。何種類かあったモーニングセットの中で、トーストと苺ジャムを選んだ。出て来た苺ジャムを見て、ちょっとびっくり。今まで子供の頃からコッペパンに付けていたそれとは形が違う。苺の粒一つ一つが形として残っているのだ。下町育ちの人種には未知のジャムだ。見た目も綺麗だったが、口に入るとまだ果実感が残っていて爽やかな甘みが程よく口の中に広がる。何と「おいらにピッタリの上品なお味なのだ!」・・・

それ以来、週に何度かモーニングセット目当てで通うようになった。もちろん苺ジャム目当て。

ある日、家族にもこの苺ジャムを食べさせたいと思い、店員さんに持ち帰りは出来るのかを聞いて見たが、残念ながら持ち帰り販売はしていないとの事であった。

このジャムはこの店の自家製なのか、仕入れ品なのかも聞いたところ、18Lの金属缶で入荷するらしい。今でこそ、おいしいジャムやドレッシングなどをレジ横で販売しているが、その頃はそういう発想はまだ広まっていなかった。

この店は残念ながら、1年ほどで閉店してしまった。

銀座はまるで生き物のように、日々変化している。商売をするには最高の地名だが、ここで生き残って行くのは生半可ではないらしい。新しい店が出来ては消え、また生まれている。

銀座の顔。と言えば銀座4丁目の角にある『銀座和光』、高級百貨店だ。始まりは『時計のSEIKO』で知られる服部時計店の小売部門として明治28年にスタートしている。第二次大戦後、その業務を引き継いで『和光』が設立され、現在に至っている。おいらが、こいつは『銀座の顔』だなぁ、とつくづくと感じさせられたのは、この店は2010年まで日曜・祝日は営業はしていなかった。われわれ庶民が家族で買い物をする日曜・祝日など、営業しない。断じてしない!この権高さにしびれたものだ。その庶民に迎合しない気位の高さに憧れ、大ファンでもありました。残念ながら、今は年末年始を除き、『年中無休』だとか。時代なのかねぇ・・・

苺ジャムのお話し。

はじめは自分で苺ジャムを作るという発想はかけらも無かった。ただ、あの味が懐かしく思い出され、何とか再現出来ないものかと思いを巡らした結果である。家族にも食べさせたかったのだ。

苺の形を残したものをプリザーブというらしい。元々は保存加工という意味で、すりつぶしたものをジャムと言うのに対して、果実の形を残しているものを指すらしい。苺と砂糖とレモン汁を煮るので簡単に言えば『煮いちご』となる。水は一滴も加えない。十年ほど前までは毎年作っていたが、子供が成長するにつれて作らなくなった。ここ3年は孫が喜ぶので、また作り始めた。パフェに使って良し、もちろん食パンにもだ。ワッフルやパンケーキなどに生クリームやバニラアイスなどを組み合わせれば、絶品『銀座の味』が再現される。タッパに入れて冷凍保存すれば結構持つので、夏も苺が楽しめる。みなさまも是非、この時期にチャレンジして見てはいかがでしょうか。