4.『おいら』と『僕』

投稿日: Sep 02, 2013 2:8:30 PM

東京葛飾と云うと、寅さんの『柴又』が頭に浮かぶ。

残念ながら私が育ったのは、葛飾立石と云う所だ。むかしは、セルロイド加工のおもちゃ工場がいっぱいあった町だ。毎月たしか5のつく日には、通りに夜店が並んで子供心に胸がわくわくしたものだ。学校から帰ると塾などは無かったので、近所の子供同士でべーごま、めんこ、かんけり、ビー玉などで良く遊んだ。当時の子供は、自分の事を『おいら』と呼んでいた。『僕』などと云う言葉は全く使わなかったし、気が付きもしなかった。『今度は、おいらの番だろ!』とか、『それは、おいらんだろ!』とか言っていた。『おいらのだろ!』が『おいらんだろ!』に変化するのだ。

小学校5年生の頃、夏休みに親戚の家にしばらく泊まりに行った事がある。銀行員の家庭で、私のいとこにあたる下級生の娘が二人いた。どちらかと云うと、どっぷり下町庶民派の私と比べると、山の手の雰囲気のある家庭であった。しかし、私は会話になると【下町ネイティブ】の本領を発揮。『おいら』の連発。あげくの果てに、喧嘩になると『何だ!』、『ふざけんなよっ!』、『ばか野郎!』、『この野郎!』、これが基本的に二組で使われる。『ふざけんなよっ!この野郎!』とか『何だ!ばか野郎!この野郎!』とかである。見かねた叔母に懇々と諭された。

『もう再来年には中学生になるんだから、自分の事は僕と言いなさい。』

相変わらず地元葛飾では、『おいら』で通していたが、文京区にある私立中学校に行くようになると、さすがに『おいら』と言う友達は一人も居なかった。気が付いて見ると、いつしか『おいら』は消え、『僕』が主流になっていた。

今でも足立区出身の北野武さんなどは、自分のことをテレビでも『おいら』と呼んでいるし、私の弟もまだ『おいら』を愛用」している。私はと云うと、『わたし』、『僕』、せいぜい『俺』が良いとこだろう。

おいらの『あの頃』は、何処へ行っちまったんだろう。

局長