201.『屋根がはがれています。』の脅し文句の気を付けて。

我が家の屋根は前回塗装してから20年以上が経過している。屋根材のスレートの表面から塗装色の黒は消え、部分部分に苔が生えている様子が見える。きわめて問題はあるが、まだ雨漏りはしていない。西郷隆盛の若いころ自宅の屋根から雨漏りがしていたが、貧窮のために修理もままならず家人は大層困っていたとの話を思い出した。偉人は住まいのほころびよりも、人としての心のほころびに注意を向けていたのだろう。我を振り返れば、別に偉人ではないので大いに住まいのほころびや見た目に気を使っても良いのだが、残念ながら「金」がない。常時、手元不如意が普通の状態である。

森繁久弥の「屋根の上のバイオリン弾き」でのセリフを思い出す。主人公のテビエが神様に向かって話しかけるシーンだ。

「神様、私は本気で愚痴を言っているつもりはないんですよ。ただあなたのお陰で飢え死にしそうです。随分沢山な貧乏人をおこしらえになりましたね。そりゃ分かっちゃおりますよ。貧乏は恥ではないと言うことくらいは。でもさぁ、大した名誉じゃありますまいが。わしに、ちいっとばかりの財産があったら、こんな辛い目にあわなかっただろうに!」

貧乏しながら五人の娘を妻と力を合わせて育て暮らしているユダヤ人テビエの心の声を思い出す。


塗装業者・屋根業者・リフォーム業者がちょくちょくチラシや訪問で工事の必要性を訴えかけてくる。「金が無いから出来ません。」の説明で、みなお引き取りいただいていた。


今年の9月頃から「近くで屋根の工事をしている者ですが、お宅の屋根部分がはがれかけてますよ。強風が吹いた時など飛ばされたりすると、危険なのでお声をかけさせていただきました。」

何て親切な業者なんだろう。おまけにスマホで写真を撮って私に見せてくれたのだ。

今まで色々な業者が売り込みに来たが、屋根が剥がれかけていると言って来たのは初めてである。こちらは屋根の状態が良く無いのは分かっているので、ある程度納得が行く。とは言え、屋根に回す予算など無いので、聞き流して置いた。しかし、また一ヶ月ほどすると違う人間が同じように「お宅の屋根はがれかけてますと言って、また写真を見せようとしてきた。


こりゃいよいよ駄目かなぁと思い、真面目でしっかりした心当たりの屋根業者に相談の電話をした。

すぐ翌日に見に来てくれて、屋根に上がり写真も撮ってくれた。結果は屋根がはがれている所はありませんとの事。釘が1本浮いている所はあったが、屋根自体が危険な状況にある訳では無いとの説明をしてくれた。「あと三年くらいは大丈夫かも知れませんが、屋根の状態は良く無いので修理塗装は必要だと思います。」との報告であった。何とまじめで誠実な報告なことか。この業者さんは我が家の前のお宅の屋根を修理していた業者さんである。当時、家の前での毎日の仕事振りが感心するほど丁寧でしっかりしていた事から名刺をもらっていた。何かの時は信頼できる業者と思っていた。

家の屋根の修理もここいらが年貢の納め時と思って仕事を依頼する事にした。提出してもらった見積もり予算も手頃な金額で正式に発注を決めた。支払いは墓の修理代として積み立てていた予算から回す事にした。屋根の洗浄から始まって修理・塗装を丁寧に回数を重ねて無事に完了してくれた。施工前と施工後の写真も完成時に受け取った。これで屋根の心配もすっかり解消した。


と思っていた矢先に、また違う工事業者がやって来た。

「ご近所の◯◯さんのお宅の屋根の修理をさせていただく業者で、ご挨拶にうかがいました。よろしくお願いします。ところでお宅の屋根、はがれかけていますね。」ほらと言って、スマホで撮った我が家の屋根の写真を見せて説明しようとする。修理も無事に終わり塗装もきれいに仕上がった我が家の屋根に対してである。

この業者たちの殺し文句が「屋根がはがれかけています。」であるとやっと気が付いた次第である。

この業者が工事を受注した近所のお宅も年寄りの一人住まいで、この脅し文句にコロッと引っかかってしまったのだろう。波状攻撃的な「脅し文句」の飛び込み営業でかなりの売り上げをあげているようだ。それにしても我が家がこういう業者の飛び込み営業リストに載っているとは驚いている。工事が終わってきれいになった屋根に対して「はがれかけています。」は怒る気もせず、却って滑稽に思えてしまう。そんな言葉で人をだまして、売り上げを上げる会社の仕事は正業とは言い難い。むしろ詐欺と言う犯罪行為である。


全国でもこういう業者が飛び込みで仕事をしていると思うと残念である。

みなさん「お宅の屋根がはがれかけていて危険ですよ。」に気を付けてください。

年寄りを狙った「詐欺営業」ですから。


これらの業者から未然に被害を防ぐ方法は、あらかじめしっかりした業者を選定しておく事です。

この業者まじめで感心するなと思ったら、必ず名刺をもらっておきましょう。


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