182.『美しい太極拳ができる3つの法則』

24式太極拳を習い始めて、まず覚えなければならないのが順序と動作名称です。今やっている動作の名称は何というものか、「野馬分鬃」なのか「白鶴亮翅」なのか、区別がつかなければ前に進む事は出来ません。ここでは順序と動作名称の次のステップとしての太極拳動作の法則をご紹介いたします。それが『美しい太極拳ができる3つの法則』です。


⚫︎動作ポイントのある太極拳

起勢から収勢までの24種の動作を覚える事も大変な事だと思います。そこから、どうしたら美しい太極拳動作に磨き上げることが出来るか?そこには幾つかの方法があります。ここではその一つである太極拳の動作ポイントについてお話ししましょう。

起勢の次の動作は野馬分鬃ですが、起勢からの抱球収脚のあとは右軸足の状態で左脚を東に上歩します。何気なく動作をしてしまえば、左足上歩から左弓歩で左野馬分鬃の動作完成(定式)になります。動作ポイントを意識せずに動作すればあっという間に終わってしまいます。同じことを動作ポイント順に分けると四つにになります。

1.抱球収脚から東に向いた時、まず第一の動作ポイントは右軸足の操作で開跨をすることです。股関節を閉じた状態で上歩をすれば、進行方向に対して左右の脚が一線上に並んだ状態になってしまいます。まず、上歩をする前に股関節を開いて開跨します。

2.第二の動作ポイントは上歩です。上歩は左右の足が開跨した状態でやわらかく前方にかかとを着地させます。開跨により左右の足に安定した間隔が保たれます。

3.第三のポイントは軸足の踏み押さえによって上歩した左足のつま先が着地し、重心が左右の脚の中間に移ります。

4.重心の中間点からやわらかく両足裏を踏んで左弓歩となり、左野馬分鬃の定式が完成します。

なめらかな動作はこのポイントの点の連結によって生まれます。


⚫︎止まれる太極拳

先を急ぐような慌ただしい太極拳動作からは、美しさは生まれません。それは套路順序をなぞっているだけの動きだからです。本当に美しい太極拳動作をする人の動きは、金太郎飴のようにどこを切っても同じく美しい。動作中どこで止まっても綺麗なのです。ただ勢いに流されてしまう動作ではなく、どこで動きを止めても美しい動作感性とバランス感覚、また、それを支える筋力と骨力や持久力も養いましょう。

動作ポイントでご説明したのは野馬分鬃の歩法の部分です。歩法が四つのポイントで構成されていれば、それに協調した体の動き(身法)や手の動き(手法)目線の動き(眼法)があります。これらを意識して4コマの動きとして練習して見ましょう。

太極拳の基本の要求の一つに連綿性があります。糸を紡ぐ様に、一定の速さで止まる事なく動いて行く抽絲勁です。

止まれる太極拳は、あくまで基礎の練習法です。線ではなく点の練習法です。4コマの動作でしっかり止まる事によって美しい太極拳感性や筋力、バランス感覚も養いましょう。

1.抱球収脚から開跨して手法抱球で東を見ます。

2.手法抱球で東を見ながらゆっくりと上歩します。

3.手法抱球で東を見ながら、軸足をやわらかく踏み押さえ重心が中間点に来た時に一瞬右手甲に視線を落とします。

4.両足を踏む力に協調して上半身は左に転体し始め、手法は抱球から分け開きます。左掌は顔の前に上がり、手の平は斜め上に向きます。右掌は股関節横に下ろし手の平は下に虎口は前に向きます。

弓歩は前足7、後ろ足3の重心バランスで完成します。


⚫︎美しい規格の完了動作(定式)

左野馬分鬃では4番目が動作の完了(定式)になります。野馬分鬃では最初に左、続いて右、三回目でもう一度、左野馬分鬃で終わり、定式が三つになります。それぞれの定式にも、上記の様な通過点があり動作のポイントを形成しています。

美しい完了動作は、美しさを意識して作られる訳ではありません。もし、その場だけをつくろう様な小手先で綺麗さを演出すれば、上辺だけの見せかけになってしまいます。

野馬分鬃の手法では分け開く手の位置の規格があります。前の手は顔の高さ、右手は下を押さえる様にして股関節横に下ろします。これを動作を大きく見せようとして開きすぎた形を作る人が多くいます。結果的に手の動きが先導して歩法や身法との協調が失われ不自然なものになってしまいます。完了動作である定式は、一つ一つの動作ポイントを的確に行う事によって最後に導かれる形なのです。制定拳は健康運動ですから攻撃や防御の技に固執して覚える必要はないと思います。ただし、その動作に何の意味があるかを知り、それをご自分のイメージの中で演出することは表現者としてとても大切なことです。

書道の勉強は中国の古典作品をお手本として稽古するのが一般的です。いきなり半紙に文字を書くのではなく、必ずかたわらにあるお手本を見て筆写します。それが書の基本であり、上達の秘訣になっています。

同じ様に太極拳も一流の選手や老師の動きをよく見て研究し、脳裏に焼き付けて練習することが大切です。


これら3つの法則はこのホームページの「24式太極拳のはなし」や、太極拳雑誌「タイチライフ」の加藤修三先生の記事にも散りばめられています。また、映像による勉強ではDVD「加藤修三の太極拳自由自在」がおすすめです。