169.新刊紹介『太極拳問答』陳微明 著

著者の陳微明は1881年、和暦明治14年に北京で生まれる。

楊式太極拳第三代伝人である楊澄甫に入門し、太極拳を学ぶ。

この書の序文によれば、修行中に楊澄甫やその兄である楊少侯に疑問に思った事を都度質問し、

その考えを聞き多くを吸収したとある。その記録にある問答は131項目に及ぶ。

太極拳愛好者にとって内容豊かな問答集である。

例えば、陳微明が楊少侯に「伝え聞いている昔の鍛錬法はどんなものがあったか?」と聞けば、

楊少侯が太極拳の創始者である楊露禅の下勢の鍛錬法を答えている。

「楊露禅先生は単鞭下勢を鍛錬する時、穴あき銭一枚を地面に置いて、口で拾う事が出来た」

と言う一族ならではの逸話を紹介している。

時代背景は清王朝末期である。陳微明が14歳の1895年に日清戦争が起きている。

1902年に21歳で見事科挙に合格しエリート文官になるのだが、

清王朝の近代改革の一環として1905年に科挙制度が廃止される。

1911年には漢民族による辛亥革命が起こり、1912年には南京で中華民国が樹立され完全に清王朝は崩壊する。

正に激動の時代であった。太平の世であれば高級文官として一生を過ごせたのであろうが、時代は大きな転換点を迎えていた。

1925年陳微明は上海で『致柔拳社』を創立する。その弟子は十数人から数十人、さらに数百人、数千人へと増えて行った。

太極拳書籍も1925年に『太極拳術』、1927年に『太極剣』、1929年に『太極拳問答』が出版され、太極拳は黄金期へと向かって行く。

知識階級として一流であった陳微明師の功績は、その意味でも大変大きなものであったと言える。

訳者の渡辺義一郎氏は一流出版社で長く太極拳関係の書籍を編集・出版されて来た。

それはとても大きな実績である。中国・日本両国にとっても、太極拳界の恩人であり、大功労者と言える。

今は亡き中国人一流太極拳老師を数多く日本に紹介もしている。

陳氏太極拳十七世の陳発科一門高弟である馮志強老師のインタビューに初めて成功し、日本に紹介されたのも氏の実績である。

加藤修三先生とのご縁も深く、そのきっかけは34年前に出版された李徳印老師の『写真で学ぶ 48式太極拳』である。

この本の中で、加藤修三先生は李徳印老師の分解技のお相手を務めている。

以下、作品紹介文書となる。

作品紹介

太極拳、近代の著名な指導者、陳微明老師の理論書、『太極答問』(太極拳問答)の日本語版。

太極拳を生涯にわたり学ぼうと決意した人に贈る、必読の太極拳理論。太極拳の歴史、中国での普及時期の実状。

その技術論、力学理論等々について詳細解説。補注として初期の太極文献もいくつか紹介。長く読み継がれてきた名著。

値段:紙本¥1,800- 電子本¥660-