第三回『一筋の光明、本場「中国の国宝」』

日本人は子供の頃から太極拳を身近なものとして育って来た訳ではないので、その国民的太極拳感性は本場中国の人たちと較べると大きな隔たりが有ります。中国人に対し日本人は、圧倒的に太極拳感性が弱い。低い。でも、それは仕方のない事です。

ならば、如何にしたら太極拳感性を向上させる事が出来るのでしょう?

答えは簡単!

一流の太極拳を見る事。本物を知る事。そして、感じる事。一流の太極拳を一流の老師から習う事。習い続ける事。

これしか有りません。

太極拳も芸術です。中国の国宝級の老師から習うのが理想的です。絵画や音楽等の芸術世界と全く同じです。

急務は、日本人の太極拳感性を少しでも上げる事。そして、次代へ良いものを引き継ぎましょう。

中国人老師を呼んで講習会を開けば、それが良かろうが悪かろうが日本の太極拳愛好家は盲目的に喜ぶ人が多い。

主催するアマチュア太極拳団体も、なんの疑問も抱かない。これが日本の現実です。無知、そして無責任。

それでなくても、順序と定式だけの、とんでもない講習会がとても多い。

もしアマチュア太極拳団体の指導者達に優れた太極拳感性が無ければ(無い人が結構多い)、招請する中国人老師の実力は全く当てになりません。

良く『規定楊式太極拳』を楊式太極拳と思っている人がいます。

『規定楊式太極拳』は本来の『伝統楊式太極拳』とは全く違います。『規定楊式太極拳』は1989年に中国武術研究院によって競技用規定套路として作られました。簡化24式太極拳が1956年に作られたのに比べても、ずっと後に出来ています。

そもそも套路名称に『楊式太極拳』と付けるのが間違いの元。

ご存知のように、『簡化24式太極拳』も『規定楊式太極拳』も伝統楊式太極拳をベースにして作られています。

ですから誤解を招かないためには、『規定楊式太極拳』を『競技用簡化40式太極拳』とでも呼べば混乱は少なくて済むでしょう。この名称こそ、本当は正しい筈です。

『伝統楊式太極拳』を果物に例えて『メロン』であるとしたら、『規定楊式太極拳』は胡瓜に蜂蜜をかけて口の中に入れ、

「あっ!ちょっとメロンみたいな味がする?」と言っているようなものです。決して一緒にしてはいけない。

日本人はここで「しっかりしなくちゃ、いかん!」簡化24式太極拳をやって、太極拳をやっているつもりになってはいけません。太極拳の本当の姿、原点を知ってください。

ここに中国太極拳界の国宝である、一人の老師をご紹介します。

伝統楊式太極拳第六代伝人『傅清泉老師』(写真 上)。傅老師は今月号の太極拳専門誌『タイチライフvol.3』に独占インタビュー記事が掲載されています。詳しい事はタイチライフをお読みいただければ分かると思いますが、簡単にご説明致します。

楊式太極拳の始祖はご存知、楊露禅です。若き楊露禅は陳家溝にて陳長興に師事し武術をおさめます。その後、楊露禅は自らの工夫を加え太極拳として北京を中心にその武術を中国全土に広めます。三代伝人の楊澄甫の時代に、楊家の太極拳は更に発展を遂げます。その隆盛を内側から支えていた高弟が第4代伝人である傅鐘文先生です。傅鐘文先生は人格・見識・技術と心技共に優れた人物であったため、楊澄甫の兄である楊兆元の外孫の趙桂珍と結婚します。ですから、第6代伝人である傅清泉老師は技術のみならず、楊家の血筋も今に継承している事になります。更に驚く事に、6歳より祖父である傅鐘文先生の徹底した直接指導をうけています。正に楊澄甫直伝の太極拳を今に伝えているのが傅清泉老師です。中国のみならず、世界の宝と言っても過言ではありません。伝統楊式太極拳を継承しているとされる中国人老師は何人かいますが、傅老師の実力は圧倒的なものです。私は傅老師の講習会であれば、多忙でもなんとかやりくりして受講しますが、他の楊式老師の講習会ならたとえどんなに暇でも、講習費が無料だとしても行きません。良いものでなくちゃ、心の目が腐るからです。

簡化24式太極拳を唯一の太極拳と思っているみなさん、それは、楊式太極拳を元にして作られた近代太極拳体操と理解してください。その歴史も1956年と新しい。それ以前、この世に存在しなかったのです。

加藤修三先生の簡化24式太極拳が何故素晴らしいか、それは24式のみならず伝統楊式太極拳までしっかり研究されているからです。その上でそれを24式に反映しています。だからこそ幅があり奥行きが深いのです。

『温故知新』古きをたずねて新しきを知る。本物の伝統楊式太極拳を体験することによって、あらためて簡化24式太極拳を、今ひとつ深く知り、愉しむ道を体験してください。