加藤老師の『太極拳用法秘伝』の解説で老師は、
「太極拳の武術としての内容は一つの動作に幾つもの変化が有って、千変万化と云いますか、沢山のものが有ります。」と言われています。
一般的に多くの皆さんは一つの動作で、一つの技を理解すれば良いと考えがちだと思います。このホームページの『太極拳用法秘伝』の解説でも時間の関係もあり、一つの動作の説明はせいぜい二つ位の解釈しか出来て居りません。
技の解釈は、それが正しい解釈であれば多ければ多いほど宜しい。引き出しは多ければ多いほど良いのです。
何故ならば攻防の実際では、敵はこちらの望み通りに動いてくれないからです。
用法の実際を摟膝拗歩で考えて見ましょう。具体的に左摟膝拗歩の場合。
①敵が右脚で我が腹部を蹴って来た事と考えましょう。
この場合は、通常の套路動作のように左手は摟掌にて敵の蹴りを払い、右掌にて敵の胸部を推掌すると云う理解で良いでしょう。
②二番目の想定は、敵がいきなり我が胸部又は面部を右拳にて撃って来たとします。この場合は①の蹴りに対するような左掌の使い方をすると左腕が下がりますので、面部・胸部が『がら空き』になってしまいます。蹴りを防ぐ時の左手の使い方では敵の面部・胸部への打撃を受けきれずに、痛い思いをする結果になります。この場合の左掌の使い方は、搬攔捶の.攔掌の構えを取ります。掌心は右を向き、指先は斜め上を向きます。敵の拳を攔掌で右に軽く払い、我が左腕を敵の右腕に絡ませるようにして摟掌に移ります。摟掌に移ってからは普通に前を払うような意識で良いでしょう。その瞬間、右の推掌を敵の胸部に伸ばします。左手は二種類の手法を一瞬にして使う事になります。そして、右手の推掌との協調も大変重要な要素と云えます。
これで①と②、二種類の技の理解が出来た事になります。ここまでは、このホームページの『用法秘伝』の摟膝拗歩の映像で加藤老師の解説を見る事が出来ます。
技の用法に対する理解を深めるコツは、自分の都合の良い考え方をしない事です。出来るだけ自分が敵であったなら、どんな嫌な方法で攻めて来るだろうかとイメージする事が大切です。
さて、摟膝拗歩三つ目の解釈を考えましょう。しかし、もう拳による攻撃も蹴りによる攻撃も①と②で出てしまったから、これ以上思いつかないと云う人も居ると思います。敵の立場に立ってイメージを膨らませましょう。色々な攻撃の組み合わせが出て来る筈です。
①は、右拳の攻撃。②は右蹴りによる攻撃。 これでは、敵は右しか使っていません。
左側で考えましょう。、③は左拳による攻撃にする事が出来ます。④は、当然左蹴りの攻撃にしましょう。
⑤は右の蹴りと右拳の二段攻撃と仮定しましょう。戦いは機に臨みて、変に応じなければなりません。③・④・⑤の解釈でも様々な展開があると思います。
ここでは一番簡単な方法で③~⑤を解説致します。
③は、敵の左拳ですからこちらはその左腕の内側を攔します。左掌掌心で軽く払い、その返しで敵に接近し左の肘で敵の膻中(胸部の急所)を一撃し、そのあと敵の左脇下肋骨部を摟掌掌根にて打ち、同時に右推掌を心部に当てがいます。この4種の技を一瞬に施します。
④は敵、左の蹴りですから、左掌の摟掌で蹴りを左へ払い後ろ向きになった敵の背部を推掌します。
⑤は、敵の右蹴りと右拳の攻撃ですから、右蹴りは我が左足の蹴りで受け右拳は②に同じく攔してから摟掌で払い、右推掌で敵の胸部を打ちます。
③~⑤は映像で見れれば、何て云う事のない動作です。お見せしたいのですが、加藤老師がいない今は叶わない事となりました。
私の拙い解説でお許し願います。
用法解説で大事な事は、人が思いつかないとんでもない解釈をしても良いのです。但し、出来る人がやれば合理性に叶っていて、実際に凄い突き蹴りに対しても使える事。使えなければ机上の空論、何の役にも立ちません。自分がまだ出来なければ、出来る老師の元に通い学ばれると良いでしょう。
一動作5種の用法理解があれば、24式だと???
24×5=120種の技の展開が可能になります。これだけでも皆さんは一歩、太極拳達人への道を踏み出されたと言えるでしょう。