第四回「起勢から左野馬分鬃」

「動作と規格」

①起勢の定式から肩を左右に開き、腰をゆるめます。同時に両手は正面を向いていた人差し指が、身体の中心に向かって45°位内側を向きます。両腕は弧形になります。

②眼を右斜め方向に向けながら右腕は弧形を保ち眼法と同じ方向に張り続けます。右胯関節にAの運動が起こり、体軸は右脚に移動します。腰向きも同じ方向になります。

右掌は正中線に沿って肩の高さに上がって行きます。更に張り続ければ右胯関節にB+の運動が起き、腰向きは正面に向き、同時に左掌を尺骨側を(小指側)を軸に外旋させ、抱球の型を作ります。この動作で腰はゆるみ左脚が右軸足に寄ります。(収脚)

③抱球の両腕を内側から張り続け、眼を上歩(シャンブウ)する左90°方向に向けます。両腕を張り続けながら眼を左に向ける事で、右脚膝関節に新たなB+の運動が起こり腰向きが左方向45°位に向き、同時に左脚上歩の動作を行ないます。

④上歩した左足踵が着地したら、同時に眼を右手に移し、右掌根を下方に押さえます。左肩、左上腕に膨らみが生まれ、左手が上方に上がって来ます。両脚の中間点まで膨らみ続けて、左脚に重心がかかり始めたら、左肘から手首を開き、左掌を左肩前に(手首は肩の高さ)収めます。右掌は左掌の動きに随い、下方に採(ツァイ)の運動が継続して、右胯関節横に収まり、野馬分鬃の定式になります。

「動作要領」

動作の進行は定式から次の動作に移行する事で、套路構成がされて行きます。定式から次の動作の移行には、腰がゆるむ事が必要です。今回説明する動作は、起勢の定式から左野馬分鬃です。

起勢の定式は両掌を腹部前に押さえた状態です。定式からの腰のゆるみを作る為には、押さえた両掌の位置を変えずに、上方から押さえて来た勁を更に押さえようとします。この動作で肩関節が元に戻る“0の肩”が生まれ、同時に腰がゆるみ、肩関節が開き、手型に弧形が表れます。この方法はどの定式にも応用する事が出来ます。定式の実の掌の位置を変えずに、定式に至った勁を継続すれば、必ず腰にゆるみが生まれ、次の動作への移行が自然なものになります。定式の型では、立身中正であること。虚領頂勁がはっきりしている事も重要です。虚領頂勁は定式時の胸のゆるみ、含胸と背中に表れる張り“抜背”、抜背張りと等しく後頭部を張る事で作ります。頭頂部を上に上げるような感覚では無理があるでしょう。

簡化二十四式太極拳では、ボールを抱える抱球動作が野馬分鬃、白鶴亮翅、攬雀尾、穿梭と何回も使われます。抱球を完了させる時に、下方の掌を外旋させる動作が必ず有ります。纏糸(てんし)の動作は太極拳の手法で大変重要です。この動作は、“橈骨(とうこつ)”を軸に行なう内旋と外旋、“尺骨(しゃっこつ)”を軸に行なう内旋と外旋の四つの方法が有ります。手法の内容によって正しく使い分ける必要が有ります。橈骨(とうこつ)を軸に使う時には人差し指を軸にし、尺骨の軸は小指を軸に考えると分かり易くなるでしょう。

抱球動作の完了には、下方の掌の小指側尺骨の外旋です。橈骨側の外旋動作を使うと、下方の掌は上方の掌より内側に収まってしまい、腰をゆるませる事が出来ません。抱球は両掌が相対している事が絶対に必要です。

野馬分鬃で分け開く左手は、右掌の掌根を押さえる時起きる含胸と左上腕のふくらみを継続させて、重心が両脚中間点を越えて左脚に移り始める時、左肩前に分け開きます。野馬分鬃の手法には、ふくらむ掤(ポン)と分け開く挒(リエ)の二つの内容が有ります。定式では腰の向きは右斜め、左掌は顔の前に、右掌は虎口が進行方向に、指先は右斜め方向に収まります。

「注意点」

①起勢の定式である下按(シャーアン)から抱球動作に移行する際、肘から先を開いてはいけません。胸の中心から両肩前を拡げて、肘が外側に張り出され、指先が内側を向き、両腕に弧形が生まれるように動作をしましょう。

②野馬分鬃の分手(フェンショウ)は、一気に分けるのではなく、掤(ポン)と分(フェン)が有るようにします。

③野馬分鬃で上歩(シャンブウ)の際、進行方向に向けた眼は左足踵の着地と同時に、一度右掌に戻します。前方を見たままで分手動作をしてはいけません。