第十回「手揮琵琶から左右倒巻肱」

「動作規格」

①手揮琵琶定式の左掌親指側から小指側に張りを伝えて腰をゆるめる。

② ①の動作で身体の中心から含胸の状態が生まれる。

この動作で左掌は前方に膨らみが生まれ、右掌は肩肘に張りが生まれ、更に右掌は尺骨側を軸にわずかに外旋が起きる。

③正面の目線を右方向90°に向け、同時に肩、肘の順に開き始め、右掌が肩の高さに到達する時、目線を45°軸足先方向に戻す。(右脚股関節に一回目のB+が起きる)

④目線を前方左掌に移し、同時に左掌を橈骨を軸に外旋させて正中線に合わせる様に引き寄せる。

この動作によって右掌の指先が右耳間近に寄り、左脚は右軸脚に寄る。(右脚股関節に二回目のB+が起きる)右軸脚に寄った左脚は後方に退げる。

⑤左掌を正中線に合わせて引き続き引き合わせ、退歩した左足裏を全面着地させる。(右脚胯関節にBが起きる)体軸は両足の中間点に達し、両掌は胸前で交差する。

⑥胸前に交差した右掌を前面に向かって推し出す。

左掌は掌心上向きで下方に押さえる様に引かれ、左胯関節前に収まる。

右掌は人差し指の指先を、顔の中心、鼻の高さに収める。

中間点に有った体軸は、左脚Aの運動で左脚に収まり、左足裏に重心を落し込んで右倒巻肱定式が完了する。

「動作の要領と注意点」

①倒巻肱の動作で最も大切なのは手法の内容です。斜め後方に開く手は、胸・肩前・上腕と勁をつなげて開く事です。

身体の中心から動きを始める為には、手揮琵琶の左掌を、前方に膨らます事で作ります。

開く掌の手先から開き始めては、全体の協調する動きは生まれません。

②もう一つ重要な事は眼法です。開く右掌の動きを先導し、進行方向から右90°に合わせる眼法。次に右軸脚B+に合わせ、左掌の引込み動作始める際、正面に向く眼法が最も大切な項目になります。手法を付けずに虚歩型で眼法だけの変化を試して見てください。

左虚歩の場合、進行方向から90°に目を向けた時、左脚膝が前方に膨らみます。これは、右脚に乗っている体軸を右踵から内側にずらす運動です。他の歩型の変化は左右の脚に重心を移動させて歩法を進めますが、虚歩型にはそれがありません。右脚に乗っている重心を左脚に移行する事無く、動作を進行させるからです。右脚の軸を内側にずらし、45°右軸脚先方向に眼法を戻す事で、右軸脚は新しい軸となります。太極拳の勁力は軸脚の力を一回だけ使い二度使いはしません。この事はすべての虚歩型の動作に共通する非常に重要な事です。眼法を正面に向ける事で、新しい軸脚での変化が表れる訳です。

倒巻肱の退歩の動作で、多くの人が虚歩の前脚を引き寄せようとして、腰を浮かし軸脚の膝を不安定に揺らしてしまっています。手法を付けずに虚歩型で90°に向ける眼法で、軸脚にAの運動を起し、前脚の膝が前方に張り出されるのを確認し、軸脚先45°方向に戻して、軸脚にB+の運動が起きる事。正面に眼法を合わせる事で、軸脚に更にB+の運動を起し、腰のゆるみで前脚が寄ってくる事を確認練習してください。

前に説明した白鶴亮翅から左摟膝拗歩への変化、これから出てくる高探馬から右蹬脚、海底針から閃通臂なども全く同じ条件が含まれている事を理解してください。

この事は簡化二十四式太極拳だけでなく、総ての拳式に共通する技術です。しっかり練習で理解してください。