第十一回「左倒巻肱から左攬雀尾」

「動作規格」

手揮琵琶から右倒巻肱への説明を前号で紹介しましたが、右倒巻肱から左倒巻肱への説明をしませんでした。右倒巻肱の右掌を前方に張り、左肩前が広がり、肘から左掌への勁の絡がりがある事が重要です。その後の左右の倒巻肱の要領はすべて同じです。

①左倒巻肱の左掌を前方に張り右肩前を広げ、腰をゆるめ、眼法は90°右へ、この動作までは左右の倒巻肱の始まりと全く同様にする。

②開いた右肩、膨らんだ右肘を型を変えずに張り続け、右掌が肩の高さに達したら、眼法を45°戻し、右軸脚先に合わせると同時に、下方に下がった左掌を尺骨側の外旋で抱球・収脚の動作を完了させる。この動作で腰がゆるみ左脚は右軸脚に寄る。

③右掌方向にあった目線を進行方向に向けて、左脚を東方向(進行方向)に上歩、踵の着地と同時に、右掌の掌底に勁を集めて下方に押さえる。右掌の下方へ押さえる動作で、上方に上がって来た左掌の手首の内側を通して下方に下げる。左掌は上がって来る時に、尺骨側の外旋で、掌心を身体と向かい合わせる。肩の高さから下げた右掌と、腹前から上がって来た左掌が胸前で交差したら、左掌を前方に張り出す。左掌の動きに伴って、右脚にあった重心は左脚に移って左弓歩となり、下方に下げた右掌は、指先が進行方向に向き、右胯関節前に収まって左掤の定式となる。

「左掤の要領と注意点」

① ①・②の動作で抱球・収脚の動作は、倒巻肱の始まりと全く同じです。右手に肩前の広がりによる弧形が表れたら、その手型を保って張り続ける事が大切です。開き過ぎてまた戻すような事の無いようにしましょう。

②左脚の上歩時には、目線は東の方向(前方)に必ず向けましょう。

③掤の動作の内容は、上下の運動『挒』の動作と、前方に張り出す『掤』の勁が必要です。その為には、右掌を下方に下げる時には、掌底に意識を集める事が絶対に必要です。野馬分鬃の動作では抱球の上の掌を押さえる時、掌根部分を使う事によって、左右方向に分け開く勁を作り出しました。攬雀尾の掤は身体の前面方向に張り出す勁です。上下の運動を生み出す為には、掌底に勁を集めて下方に押さえる事が必要になります。野馬分鬃の定式時に表れる『採』の掌型は、虎口が進行方向を向き、掌指は外側を向きます。それに対して、攬雀尾の掤の定式時に表れる『採』の掌型は、掌指が進行方向を向きます。

④掤の定式時に左掌の位置は胸の高さに合わせ、人差し指の付け根を正中線に合わせる事が必要です。手首を正中線に合わせると左脇が詰まり、また正中線の左側に外れると掤の勁を発揮する事が出来ません。

定式に至る最後の動作は、左掌の小指側尺骨を軸にわずかに外旋させ、掌心と胸前を平行からやや掌心を上向きの状態にします。外旋の動きを大きくし過ぎないよう注意しましょう。

弓歩の定式を作り胸前正中線に合わせた左掌を、胸と平行にして、わずかに外旋させる事によって腰がゆるみ、重心が下がる変化を見つける事が出来るでしょう。

攬雀尾の動作は、『掤』、『捋』、『擠』、『按』の四つの基本勁法が含まれ、太極拳運動の重要な要素です。出来るだけ丁寧に説明して行きたいので、何回かに分け解りやすく解説致します。