第一回「0ゼロの肩」

私が太極拳に出逢ってから約三十年、指導する立場になって二十余年が経ちました。いままでの自分の経験から得る事が出来た、太極拳運動の理に合った動作を、如何にして分かり易く間違いの無いものとして伝えられるのか、私の太極拳の集大成としてDVDを制作致しました。

仕事の合間を見ての制作でしたが、太極拳のさまざまな技法を映像により解り易く説明致しました。

DVDの中で伝えたい大切な一つが、制定太極拳のポイントになる胯関節の運動です。

今までも広報などでお話しましたが、合胯(収胯)をAの運動、開胯をBの運動とし、A・Bの記号に置き換えて伝え易く分かり易くしました。Bの運動にはもう一つ、開胯に軸脚の膝関節の動きをプラスしたB+の運動があります。つまりAの運動、Bの運動、B+の運動という三つの運動で重心移動を説明しました。胯関節の動きと合わせて行うAとBの運動、膝関節の動きと合わせて行うB+の運動とをしっかり理解して練習したら、太極拳の運動は必ず変わると思います。

支える軸脚の膝が不安定でゆれてしまったり、跟歩する時の弓腿の膝が前方に動いてしまったりしていませんか?

下半身・軸脚の安定が太極拳運動の最も重要な部分です。この事を疎かにして手法だけを考えて動作をしても、太極拳運動の本質をつかむ事は出来ません。

皆さんが今まで練習した総てが間違っているとは思いません。少しだけ抜け落ちてる部分を補ったり、見直す事で内容がとても良くなると思います。

下半身の安定が有る事で、立身中正の要求を満たす事が出来ます。手法と身法は切り離して考える事は出来ません。手法の変化で腰のゆるみを感じる事が出来ますが、手法の変化は動作をしようとすると、する「意」が身体の中心より動きとして始まり、胸や背を通して肩につながります。肩関節の変化です。

肩から肘関節に伝わり、肘関節が支点になって、手首、掌、拳に伝わります。手法の運動の内容が変わる時、例えば上がるから下がる、開くから合わせる等では、必ず肩の関節は変わる運動に対応して、元の状態に戻ります。この状態を私は「0(ゼロ)の肩」と名付けました。

肩関節は「0」から始まり「1」が有り、途中の動き「2」になり、目的への到達「3」と成ります。そして、次の運動変化に合わせて「0」の状態に戻り、次の運動の「1」へと繰り返されます。

一般的にはこの様な変化を肩を沈めると表現しますが、これは意識して作るのでは無く、意の変化に対して、腰がゆるみとして反応し、足裏から勁力を脚、腰、背、肩へと伝えて呉れるものです。

この様な動きが動作の連貫性として評価される動作だと思います。意識して作り出すのではなく、表れて来なくてはいけません。身体の変化を感じ取る、聴き取る感性を持つ事が大切です。

もう一つ必ず意識して行わなければならない事は、重心を支える軸脚の感覚です。軸脚の足裏に懸ける重力を、立っている床面より深く「落し込む」感覚を常に持つ事です。腰のゆるみと共にしっかり支えている軸脚と、0の肩で生まれる腰のゆるみが、勁力として手法に伝わって行くのです。