<質問>
雲手の歩法で、うまく右脚を寄せる事が出来ません。どうしたら指導員の先生方の言うように、腰を回してうまく出来るようになるでしょうか?
<答え>
今回の質問は、雲手の歩法についてですね。この質問はQ&Aに必ず来るだろうと予想していました。どこの教室でも、講習会でも、雲手の動作で右脚を寄せる事がうまく出来ない人が沢山居るからです。雲手の歩法は、側行歩と言われるものですが、側行歩は全ての歩法の要領に共通するものであり、歩法を理解するのに大変重要です。
雲手には、定式がありません。簡化二十四式太極拳では、単鞭の動作から入ります。単鞭の歩型は弓歩型です。動作の始まりは、転身の動作と同じです。左弓歩から右脚に重心の移動をしますが、右脚は左脚から見ると、45°の角度にあります。この辺りから重心移動の間違いが起こり易いのです。重心移動で、体軸を移動させるのに使われているのは股関節です。股関節を正しく働かせるには、腰を緩める事や膝関節や足首との関わりも出て来ます。正確な体軸の移動には、軸脚に正しく体軸が乗っている事が必要です。始めの動作で、単鞭の弓歩から右脚に重心移動した時、右足裏が捻れていませんか?正しい重心移動が行なわれた時には、足裏全面がバランス良く床に接地している筈です。
雲手の歩法で、どうして多くの人が『脚をうまく寄せる事が出来ない』のか?
大きな原因の一つが、質問の言葉の中に有ります。それは、【腰の回転】を重心移動に取り入れようとしている事です。指導員の皆さんは、比較的容易に【腰を回す】ように言いがちです。しかし、この【腰を回す】に大きな問題が有るのです。
雲手の動作を見てみると、身体の正面の右斜めから正面を経て、左斜めに向きを変えて行きます。この動作を【腰を回す】と表現すること自体が、適切では有りません。
私は【重心移動】の注意として、【腰を回す】と言う言葉は使いません。【腰を回す】と言う言葉に反応して、軸部を捻ってしまうからです。正しい位置に体軸が移動していない状態で、脚を寄せる事は出来ません。しっかりとした軸が出来ていなければ、人間の身体は本能的にバランスを崩さないように、右脚を床から離すまいとするからです。
進歩や退歩のように、前後の動きは日常で体験している運動です。それに比べ、横への移動は、それ程多く有りません。その為、バランスの不安定感を一層強く感じてしまうのです。重心移動は、前後左右同じ原則の中で行なっています。最初にお話したように、重心・体軸の移動に使われる身体の部分は股関節です。股関節の運動は、収胯(ショウクワ)・開胯(カイクワ)の二通りしか有りません。両脚の中間点にある体軸を、どちらかの脚に引き寄せる動作は収胯です。軸脚に乗った体軸を、中間点まで送り出す股関節の動きは、開く股関節の動き(開胯)です。引き寄せたり、送り出したりする動きは、軸脚の足首を固定し、膝を固定して、動かす股関節の運動で行なわれます。体軸を引き寄せる時も、軸脚の膝が動かなければ、正確に体軸の移動を行なう事が出来ます。
股関節の動きを身体の正面から見ると、動きの本質が見えにくい物です。分かり易い身体の部分の変化は、股関節の外側、腰と一般的に思われている部分で考えると、非常に正確に捉える事が出来ます。
太極拳に限らず身体の機能を効果的に使い、力を表す時に、腰に壁を作ると言う言葉を良く聞きます。身体の側面に壁を作るのは、足首・膝を固定して、体側面をつま先から踵方向への直線運動で行なえば、壁を作る事が出来ます。
壁を作る股関節の運動が、収胯(ショウクワ)と言われる動作です。同じように膝を固定したまま、壁を保った状態で股関節を開く方向に運動させれば、体軸は中間点に移行します。体軸を正確に送り出す運動は、腰骨を通して繋がっている反対側の股関節に引込む運動(収胯)を起こす事に繋がって行きます。壁を作る動作が正しければ、重心が移動して、虚の状態の脚を引き寄せるのに、全く問題は無くなります。
側行歩の正確な動作の状態を言葉で表すと、右脚にあった重心が両脚の中間点に移動した時に、つま先着地の状態の左足の踵が接地します。中間点から左脚に重心の移動が始まると、それと同時に右足踵は床から離れます。雲手の歩法、側行歩の動きは、踵が着いたら反対側の踵が浮く、着いたら浮く、着いたら浮くの繰り返しが起きる歩法です。この股関節の動きを身体の側面でとらえて、Aの運動、Bの運動(膝を固定して行なう)、Bの運動と同じ股関節の動きに膝の動きを加えたBプラスの運動の説明を以前にもした事があります。また、稿を改めてご説明致します。
重心移動を腰を回すと考えずに、体側面の前後の直線運動と考えると、自然な重心移動を理解する事が出来ます。雲手の歩法は、開いてつま先を着地した左脚で引かない事、寄せた右足踵は、左脚からの重心移動で接地するようにします。安易に下ろさない事を考えてください。