<質問>
歩法中に、軸足を変えて片足になるときに骨盤が捻じれ重心が浮き上がってしまいます。どこに注意し練習したらいいでしょうか?
またスムーズに脚運びを行う秘訣がありましたら教えて下さい!
<答え>
今回の質問は「歩法中に軸足を変え片足になるときに左右の骨盤が捻じれ重心が浮き上がってしまう」と云う事ですが、この状況は弓歩での歩法の際に、弓歩の定式から後ろに重心を移動し(后坐)後足から前脚への重心移動の時に起きる状態を質問されているものと思われます。しかしこのような状態は全ての歩法に共通している問題だと思いますので、歩法の基本的な事から説明して行きましょう。
歩法の内容というのは、重心の乗っている軸足から他の足への体軸の移動をする事で動作を進行させて行く、これが歩法ですね。動作の目的に応じて重心の乗った軸足から(これを右足だとすれば)、左足に体軸を移動する事、重心の乗った右足が実の足であり、左足は虚の足になります。
実の足の役割は重心(体軸)を両足の中間点に移動させることです。中間点まで来た重心は移動して来た運動の慣性を引き続いて移行させる事で両足間の虚実の転換重心移動が完了するのです。虚の足が前方に有れば前方への移動となり、後方に有れば後方移動(退歩)となり、横にあれば横への移動(側行歩)と成るのです。これが全ての歩法に共通していると云う事です。
一番分かり易い歩法は側行歩です。右足に重心があれば中間点に重心を移動させ、中間点から左足に重心を移動させる、左足に重心が移動して来たら、左足から右足への重心の移動をと、左右に移動を繰り返し行う事で側行歩の歩法が進行して行きます。
大事なポイントは、軸足からの重心移動を中間点まで適切に行わなければ正しい位置への重心移動が行われず、腰部にゆがみが生じ立身中正と云う、太極拳の最重要項目が失われてしまいます。理屈は簡単ですが実践する事はそう簡単には行きませんね。何年も太極拳を練習している方でも抱えている問題でもあるのです。少し説明が長くなりますが、大事なことなのでしっかり読んでみて下さい。軸足は身体全体の重心を支えバランスを取ります。その時支えるポイントにずれがあればぐらついてしまいます。太極拳の体軸を支えるポイントは踵にあります。普段の生活で使っているのは、踵よりやや土踏まず寄りで、体軸を支える生活重心と云われるポイントです。
太極拳の重心の位置は骨格重心と云われる踵に重心を置きます。体軸が踵に乗った時に、初めて腰をゆるめる事が出来ます。普通に両足で立って力を抜いて両手を肩の下に下げ、静かに指先を下方に下げてみます。肩の力が抜け、胸がゆるみ両背中後背筋がゆるむ、こんな状態を感じると思います。同時に腰がゆるみ、膝関節もゆるみます。こんな状態を感じた時つま先重心が踵寄りに移行し、しっかり立っていると感じる筈です。この感じが太極拳の軸足の感覚です。太極拳の軸脚は、移行して来た重心をこの様な状態で支える事を、練習で習得しなければなりません。正しく支えた軸足は手法の変化で起きる腰のゆるみが支えている軸足に、更に負荷が掛かる事で重心の移動が始まります。この重心移動が両足の中間点に体軸を運び、中間点を過ぎ体軸を虚であった足の胯関節が引き込む運動(収胯)を起こし、歩法が進行して行きます。歩法に於ける体軸の移動は身体的に説明すれば、腰のゆるみで足裏に掛かった負荷が足首を固定し、膝関節を固定する事に依り胯関節が開くことに依り起きるものです。胯関節が開く運動で起きた体軸の移動はもう一方の胯関節に引き込む(収胯)運動を伝え体軸が移動するのです。
質問者が骨盤が捻じれると云うのは、体軸の移動に腰を廻さなくてはならないと考えているからではないでしょうか。重心移動を腰向きに変化が起きるのは当然ですが、これは腰を廻そうとして起きるものでは無く、軸足の胯関節それと絡がる虚の足の胯関節の運動で起きる事である事をしっかり意識して練習する事が大切です。太極拳の運動には秘訣や特効薬は無いのです。運動の内容を正しく理解して繰り返し練習する事です。これが秘訣、特効薬かもしれません。
文中でもしばしば中間点という言葉を使いましたが、両足の中間点を理解する事、重心移動には必ず中間点を正しい状態で通過すると云う事は大変重要な事だと思います。もう一つ、「体軸の移動」と「重心移動」と言葉を使い分けましたが、体軸と云うのは上半身の中心に有るもので、必ずしも重心と体軸は一致しているものでは無いからです。虚歩型では重心軸と体軸は一致しています。弓歩型では体軸の位置と重心軸足は違います。