プラスチックのように電気を流さない絶縁体と思われがちな有機分子からなる物質の中にも、近年、半導体のような性質を持つものがあることが報告されており、たとえば有機電界発光素子(有機EL素子、OLED)のように、小規模なサイズのディスプレイとして実用化されているものがあります。
有機分子が材料であるため、安価な印刷プロセスで合成できる、などの特長があり、将来的には、柔らかいトランジスタなどの作製が可能となって、電子ペーパーなどのフレキシブルエレクトロニクスへの発展が期待されています。国際的に研究開発が活発ですが、まだ市場を席巻するシリコンベースの無機半導体ほどに実用化は進んでいません。
その主な理由として、有機分子からなる半導体がどのような仕組みで電気を流すのか、について、いまだ統一的な理解が得られていない、ということがあります。
本研究室では、そのような基礎的問いへの答えに迫ることを目標に、特定の実験値やモデルに依存しない理論計算(第一原理計算)を用い、実験の分解能の限界を超えたスケールの原子・分子スケールの電子物性を再現することを研究テーマの中心に取り組んでいます。また、そのような理論計算法や新しいアプローチの提案・開発にも取り組んでいます。
研究分野: 物性物理、物理化学、量子化学
指導学生のテーマ(琉球大学在籍時に進められたテーマに限る)
金属-有機界面での電荷分布の再構成によって支配される有機分子-金属間の電子接続について
ファン・デル・ワールス密度汎関数(vdW-DF)による有機半導体の結晶構造の精密な決定、および、電子状態・バンド構造との関係について
混成密度汎関数を用いた有機分子の光吸収スペクトルの予測と、その物理的起源について
表面での分子配向によって支配される、有機半導体の電荷(正孔・電子)注入準位の物理的起源について
近年、主に以下の対象について、電子物性の計算シミュレーションを行ない、表面・界面や分子の物理的・化学的性質の理論的予測を進めている。
有機半導体と金属表面との界面での原子配置、電子準位接続
有機半導体結晶・薄膜のバンド構造
有機結晶中でのキャリア輸送の性質
気相分子の基底状態・励起状態の分子構造や吸収スペクトル
新規触媒材料・電池材料の酸化物(ペロブスカイト、TiO2など)の電子物性
無機半導体材料の電子構造、単結晶成長過程のシミュレーション
理論計算法・プログラムの高度化に向けた研究
高精度なバンド計算プログラムの整備・開発(GW近似: GW space-time法)
分子の光学スペクトル計算の高度化: 長距離補正法を用いた時間依存密度汎関数理論(LC-TDDFT)