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澤田 亨 (Susumu Sawada)

1.はじめに
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 身体活動研究部の澤田亨です。
スポーツ疫学研究をしたり、いくつかの大学でスポーツ疫学に関する授業を担当しています。
スポーツ疫学の概要や私たちが実施しているスポーツ疫学研究についてご紹介させていただきます。


2.スポーツ疫学とは
疫学的研究手法」を駆使して、スポーツ現場の問題や課題を改善するためのエビデンス(科学的根拠)を提供する実践的な学問です。
スポーツはヒト集団の健康、教育、勝利、幸せ、元気など、さまざまな事柄と関係しています。
例えば、「ジョギングは高血圧を予防するだろうか?」「体育は人間性向上に役立つだろうか?」「イメージトレーニングをすると勝率があがるだろうか?」
「オリンピックやパラリンピックは国民の幸せに貢献するだろうか?」「スポーツ観戦すると元気になるだろうか?」などといった疑問に答えを出していく学問です。

名称について確立したものはなく、健康増進や疾病予防を意識した研究を取り扱う場合は、「身体活動疫学」や「運動疫学」と呼ばれることもあります。

3.疫学的研究手法とは
医学の世界で発達した手法です。

この手法の基本は「比較」です。
「どちらの方法が、どのくらいヒト集団の問題を改善するか」を偏りなく公平に定量化して、ヒト集団の問題をより改善する方法を見つけ出す手法です。
例えば私たちが病院で処方される薬はこの手法を用いて従来薬と新薬が比較され、毎年のようにより効果的で、より副作用のない薬が開発されています。

この手法は「論より証拠」というスタンスを取ります。
「理論」はさておいて「結果」を求め、その方法が「なぜ課題を改善するのか」についての探求は他の分野の研究者にまかせるスタンスです。
つまり、「課題を改善することを最優先し、なぜ改善するかについての解明は(時間がかかるので)後回し」というスタンスです。ミクロではなくマクロなアプローチです。

この手法は、すぐに原因を特定することが困難な病気や、メカニズムがよく分からない病気からヒト集団を守りながら発展してきた手法です。
古くは「疫病(感染症)」を予防するためにこの手法が使われました。このため「疫学」という名称になっています。
その後、循環器疾患、さらには「がん」などの非感染性疾患を予防するためにこの手法が開発されてきました。例えば、「塩分控えめ」や「禁煙」がそうです。

近年、さまざまなヒト集団を対象にしている学術分野でこの手法が使用され始めています。
なぜなら、ヒト集団に関連した事象は複雑ですが、この方法を使えば、どうすればより問題を解決するのかという答え(エビデンス)を与えてくれるからです。
そして、私たちはスポーツ科学の分野にこの手法を取り入れた研究を行っています。

4.私たちのスポーツ疫学の取り組み
これまで、私たちは「体力が高い人」と「低い人」の比較や、「身体活動を実践している人」と「実践していない人」の比較を通じて、どちらが長寿で病気にかかりにくいかを明らかにしてきました。
現在、スポーツや体育、身体活動科学の分野に疫学的研究手法を紹介する活動(授業や講演)に取り組んでいます。
また、メカニズムが複雑すぎて今まで手をこまねいていた事象、例えば
「オリンピックは国民の幸せに貢献するだろうか?」「スポーツ観戦すると元気になるだろうか?」、
「スポーツ実施者はより社会のリーダーになる可能性が高いのだろうか?」、「どうすればスポーツ傷害を予防できるのだろうか?」といった問いに答えを出すための取り組みを開始しています。
さらに、「いつスポーツをすれば長く健康でいられるのだろうか?」「どのような体育授業が人間性をより向上させるだろうか?」「どのようなイメージトレーニングが勝率を上げるだろうか?」
「どういった環境が将来の金メダリストを生むのだろうか?」といった問いにも答え(エビデンス)を出していきたいと考えています。
そして、メカニズム解明を目指している研究者のみなさまに、メカニズム解明に向けたヒントになるような比較結果を提供することも目指しています。