看護分野における知識共有 (CHARM と CHARM Pad )

※本研究は2008年度~2014年度まで大阪大学知識科学研究分野(旧知識システム研究分野)において行った研究です.

企業などの多くの組織で行われているように,人間の行動はマニュアル化されて知識共有が行われることが多い.特に看護分野では看護マニュアルと呼ばれる文書で知識共有が行われている.看護マニュアルでは救急救命や口腔ケアの手順などが自然言語の文章で説明されており,新人看護師への知識継承のために利用されている.

しかし,看護マニュアルを用いて知識継承がなされた看護師は変化する状況に柔軟に対応できないという問題があることが経験を積んだ看護師によって確認されている.その理由として考えられるのは,看護マニュアルには行為の目的や,目的を達成するための代替方法が不明確であるということである.目的を理解しないまま手順を実行することだけを覚えてしまい,柔軟な対応が出来なくなってしまったり,代替方法を知らないために,普段から使っている方法が使えない状況に対応できないことが考えられる.

そこで,本研究では,看護マニュアルで暗黙的となっている,行為の目的や代替方法を明示化できる表現枠組みを提案する.提案する表現枠組みは,行動根拠に基づいて納得して実行させるためのモデルという意味を込めて,CHARM (Convincing Human Action Rationalized Model)と名付けた.CHARMに基づいて具体的な行為を表現したものをCHARM木と呼ぶ.

図1に呼吸をしていない患者に対して行う気道確保行為の一部を表現したCHARM木を示す.楕円ノードが一つの行為を表し,正方形ノードが目的を達成する方法を表す.CHARM木では上方向に目的,下方向に詳細手順が提示される.「頭部後屈あご先挙上法」では,下に書かれた一連の行為列によって「舌根をどかす」という目的が達成され,最終的に一番上に提示されている「気道確保する」という目的が達成されることを表している.「下顎挙上法」は,同じ目的を達成するための代替方式であり,「頭部後屈あご先挙上法」とどちらを選択しても「舌根をどかす」という同じ目的が達成できることを表している.この例における「舌根をどかす」という目的は看護マニュアルには明示的ではなかったが,CHARMでモデル化する過程で経験を積んだ看護師から知識を外化することで,このように明示化することが出来た.

図1:気道確保行為を表現したCHARM木の一部

このCHARM木を表示するアプリケーションをタブレット端末に載せたシステムをCHARM Padとして開発した.CHARM Padは兵庫県立三木市民病院,大阪厚生年金病院,大阪大学医学部保健学科において利用された実績がある.特に大阪厚生年金病院では,平成24年度及び25年度の新人看護師研究において実践的に導入されている.下にCHARM Padのデモビデオを示す.興味のある方はご覧いただきたい.このシステムは現在実践を通して評価中である.

CHARM Pad 動作映像1

CHARM Pad 動作映像2