実験よもやま話

実験関連で便利だな、と思ったものなどを掲載する予定です。思いついた順に書いていっています。

基本的には電車での移動中など、暇だけど長い文章を書いたりしたくはない気分の時につらつら書いているので日本語は雑です。

私の主観で書いているので、「書いてある内容のことを実際やってみたら装置が壊れた」等言われても責任は持てません。

ここに記載している技術は主に、慶大理工佐藤グループ、HiSOR BL-14・BL-1、SPring-8 BL13XU、東北大学松原グループ、東大物性研で身につけたものです。

掲載してほしい情報や、「もっとこうした方が良いよ」などコメントがありましたらお気軽にご連絡ください。物によっては、2D CADでよければ図面もお送りできます。

掲示板はじめました。

最終更新:2020年1月6日

ピンセット

なんだかんだ、どんな実験でもピンセットは使うと思います。

細かい作業をするとき、私は普段は900円くらいで買ったステンレス製のピンセットの先を砥いで(カッターの刃で簡単に削れます)、先端を細く、また先端がピッタリ合うようにして使っています。先端が細くなることである程度ピンセットが柔らかくなるので、小さいものをつまむ時に便利です。ただし、砥ぎ過ぎると30μmΦの金線などをつまんだときに切ってしまうという問題も発生します、、

磁性が気になる時(極端に磁化の小さいサンプルのとりまわしや、Si等の半導体を扱う際)、非鉄製ピンセットが役に立ちます。私は普段はideal-tec社のカーボン製ピンセットを愛用しています。ただ、このピンセットは先端が太いのが難点でした。細かい作業の際は、KFI(幸和ピンセット工業)のチタン製ピンセットが便利だと思います。特注で先端を細くしてくれたものを作ってくれますし(物性研 徳永先生の情報です)、値段も数千円程度とお買い得です。

はんだごて

物性実験で欠かせないのが、はんだを使った配線だと思います。はんだごてですが、千円程度のものを使い捨て感覚で使うのも悪くはないですが、一度使ったら病み付きになるはんだごてが世の中には存在します。

それが、"はんだごて界のフェラーリ"と名高いUNIXJBC社のはんだごてです。まずコテの先端が細く、細かい作業に最適です。また、先端は取り替え可能で、さまざまなコテ先を選択可能です。なにより素晴らしいのが、昇温速度です。ホルダーに置いている際には温度を下げた状態にしてくれていて、ホルダーから取り出すと設定温度(例えば350℃)まで数秒で昇温してくれます。昇温速度は、はんだ作業中にもとても重要で、連続してスピーディに作業を行うことができます。ただしお値段は数十万円程度とびっくりしてしまう代物です(たしかお試しレンタルもできたので、興味のある方は会社に問い合わせてみてください)。私も他のラボ(物性研山下Gr)所有のものを使ったことがある程度です。

硬X線での実験とサンプルの劣化

薄膜の結晶構造解析や電子構造解析を行う際には、放射光X線散乱回折や分光測定が威力を発揮します。しかしながら、硬X線は取扱に気をつけないとサンプルを痛めてしまいます。私のケースだと、米国APS 4ID-Dで3 keV程度で大気中でPd超薄膜のXAS/XMCD測定を行った際、表面が数分で劣化した経験があります。硬X線を大気中で使うと、大気中の酸素がオゾン化してしまい、どうもそれがサンプル表面を傷めてしまうようです。サンプルの劣化が気になる場合には、簡易的なカプトンドームを作って希ガス等でパージして、酸素を抜いた環境を作る必要がありそうです。

超高真空対応の配線や試料固定(2019/06/29追記)

固定ですが、導電性があっていい場合には、EPOTEK社の高温硬化タイプの銀ペーストを使っています。極低温まで耐えてくれますし、120℃くらいでちゃんと硬化させれば脱ガスもほとんどしないので便利です。しかしながら、この銀ペーストには問題が2点あります。1点目は接触抵抗が大きいことです。極低温での輸送測定の端子付けに使ってしまうと発熱が大きくて試料温度が正確に出せませんし、なにより冷凍機が冷えなくなります(スポットウェルダーで一度パチンといい感じに大電流を流すと接触抵抗が何故か下がることもあるそうです、謎ですね。界面で合金層ができてくれるなど、噂されています)。2点目は、300℃くらい(はんだごてで撫でる程度)に加熱するとエポキシー樹脂がボロボロに崩れてしまうことです。接触抵抗が気になる場合には、例えばフェロー社やデュポン社の銀ペーストを使うことで解決できます(接着が弱いという問題点もありますが)。また、高温まで接着を保ちたい場合には、田中貴金属の出している銀ペーストに、超高真空対応の高温仕様のものがあるとかなんとか。電気的に絶縁したい場合はトールシールを使うのが便利な気がします(最近劇薬指定されて管理が厄介になりましたが、、)。

配線材料は、ベークに耐えてくれないと話になりません。被覆線を使う場合は、テフロン被覆あるいはポリイミド被覆の線を使うことをオススメします。ポリイミド被覆の場合は、ライターの火で軽く炙ると黒く炭化してくれて、軽くこするだけで剥がれるようになります。裸の線を使う場合は、テフロンかカプトン、あるいはポリイミドのチューブに通して使うか、ヒーター部分など温度が高くなる部分は絶縁碍子に通して使います。どちらにせよ、脱ガスが激しくなく(アセトンやエタノールで洗浄して脱脂できることが重要)、ハードなベーク(少なくとも200℃くらい)に耐えてくれなければなりません。

超高真空下での貴金属の蒸着(2019/4/4追記)

真空度をそこまで気にしない場合には、Kセルで飛ばしてしまうのが手っ取り早いです。セラミック(たとえばPBN)のるつぼで簡単に飛ばせます。あるいは、EBで金属を直接加熱して飛ばしてしまうのも簡単です(熱の発生など問題も多い手法ですが、、またロッド状のソースからの蒸着だとロッドの形状がどんどん変化していくので、レート制御が難しかったりなど、困った方も多いのでは?)。

一方で、超高真空を保ちつつ、蒸着レートを稼ぎたい場合には、熱処理をしたカーボンるつぼをEB加熱して使うのがおすすめです(混晶ができる都合Ptには使いづらい手法ですが、、2元相図参照)。カーボンるつぼはEB加熱で一晩放置すれば完全にデガスするので、超高真空を保つことができます。ただし、カーボンるつぼは貴金属との濡れが悪く、熱伝導を稼ぐのが難しいという問題があります。その場合には、私は酸処理をして清浄化したWワイヤーをバネ状にしてカーボンるつぼ内に入れるようにしています。Pdの場合にはWによく濡れてくれて、Wがるつぼに接触していれば熱伝導が稼げるので、比較的簡単に高レートでの蒸着が可能になります。本技術は、Tectra社のe-fluxおよび、Omicron社のEFMで実証済みです(コンタミに関してはAuger電子分光で観測する範囲には存在しないことを確認しました)。

カーボンるつぼはTectra社の場合には純正のものが販売されています(たしか7万円くらい)。安く手に入れいた場合は、綜合カーボン株式会社さんが、かなり細かい加工まで受け付けてくれ、且つ安価に販売してくれるので、大変助かります。

蒸着レートですが、エピ膜の場合はRHEED振動で見てしまうのが一番です。あるいは、蒸着ビームの経が大きい場合には基板のすぐ横に水晶振動子を設置するのも良いです。そういった手法が難しい場合には、蒸着中のサンプルに流れる電流値をモニターすると良いです。蒸着が行われている際には値が出るので、その値を一定に保つようにすると、レートを安定させて成膜を行うことが可能です。

Cu単結晶基板の表面出し

Cu基板ですが、比較的柔らかいため、低温でのスパッタアニールで簡単に表面出しが可能な、非常に使いやすい基板です。一方で、一度汚くなってしまうと、Sのコンタミが気になる厄介な基板でもあります。表面の平坦さは、LEEDで明瞭なスポットが見えていても意外と悪かったりするので困ったものです。表面出しが上手くいったかの確認はin-situでSTMで観察してしまうのが一番いいのですが、それができない場合には、とにかく何度もスパッタアニールを繰り返すことをおすすめします。経験的に、7-10回くらいのスパッタアニールの繰り返しで、そこそこ良い面が出ることを確認しています。ただ、アニールを500-600℃程度で行ってしまうと超高真空下で室温まで冷めるまでに一晩かかってしまうという問題もありますが。。何度もスパッタアニールをした基板では、RHEED振動が明瞭に見えるエピタキシャル薄膜の作製も容易になります。

SrTiO3基板

色々なメーカーのものを試してみましたが、信光社さんの基板が一番使い勝手が良いです。バッファードHFでの表面出しを行っていてくれて、AFMでのステップテラス構造の確認まで行った基板を販売してくれています(STEP仕様品)。実験の再現性が格段に上がります。会社側はSTEP仕様品は洗浄済みの基板であり、パッケージから開けてそのまま使えると言っています。実際、洗わずに使っても良い膜が成膜できることを確認しています。ただ、買ったばかりの基板は、表面に意外とゴミや不純物がついています(特に磁性不純物も意外と乗っています)。綺麗なピーカーを用いてアセトンやエタノールで超音波洗浄をした後に、光学顕微鏡でゴミが付いていないかを確認することをオススメします。洗浄後の磁性に関しては、0.5mmの厚みの10mm角基板をカッティングしてMPMSに詰めて測定しても、磁性不純物由来と思われるシグナルは10E-8~10E-7 emu程度(測定限界!)まで抑えることができます。

基本的には購入した状態ですでに綺麗且つ安定なステップテラス構造が見えていますが、さらに綺麗な面を出したい場合には、1000℃程度でアニールすると良くなるそうです(聞きかじった話なので未検証)。ちなみに加熱すると酸素が抜けてSrTiO3が半導体化するので注意(これを利用してPd/SrTiO3界面にショットキー障壁を作ってデバイスにした論文を書きました。)

超高真空中での試料加熱(2019/4/4追記)

市販のMBE装置などではもとから装置に試料加熱用ヒーター(Ta箔の通電加熱ヒーターをセラミックでフタしたもの)などがついていますが、自作装置に新しくヒーターを入れるとなると、なかなか大変です。一番機構が簡単な超高真空対応のヒーターは、Wワイヤーに通電した際の輻射熱を利用する方法でしょう。300℃くらいまでなら簡単に温まります。それで足りない場合には、更に試料にバイアス電圧をかることでエレボン加熱を行うことができます(~2000℃くらいまでいく?)。

しかしながら、エレボン加熱は真空の環境によって温度がなかなか安定しなかったり、熱電対を使った温度制御がなかなか難しいなど問題もあります。そういった場合に便利なのが、セラミックヒーターです。配線をプリントしたものをセラミックでコートしたヒーターで、調べたところ、最高温度600-2000℃まで交流電源で制御可能なものが数多く市販されています(例えばこれとかこれ)。原理的にかなり安定に温度制御が可能なので、K型熱電対を用いてPIDを組めば簡単にシーケンスを作成することも可能です。輻射熱の利用でもいいですし、ヒーターに金属板を接着し熱伝導を直接取ってしまえば、かなり簡単に試料加熱が行えます(私は自分で装置に導入したことはなく、他の人が作った装置で見聞きした程度の知識なので、責任は持てません)。

裏技として、簡単に安価にヒーターを自作することも可能です。例えば、試料ホルダーと電気的に絶縁してホルダーの裏にSiを設置するような機構をつくれば、Siの通電加熱(~1000℃)を用いることで、輻射熱で試料を加熱することが可能です。その辺に余っているSi基板で簡単につくれますし、部品もSUS304を試料ホルダーにして、Siを設置する部分にはTa箔を用いればいいだけですので、簡単に加工できます。絶縁を簡単に取るには、セラミックネジを用いてホルダー受けを作製すると捗ります。ただしセラミックネジは簡単に割れてしまうので取り扱いに注意が必要です。SPring-8 BL13XUの超高真空チャンバーで実証済み。

超高真空チャンバー内でサンプル温度をモニターしたいときには、ホルダー上にダミーのサンプル(できれば使用するサンプルと熱伝導やサイズが同じもの)を設置してその表面にセラミックペーストで熱電対(アルメル線とクロメル線を買ってきてテフロンチューブに入れて絶縁、先端のみ合わせたもの)を貼り付けて配線し、電圧値を読み取ることで温度をリアルタイムで測ったりしています。様々な装置でin-situ実験を行う際など、サンプル周りで同じ環境を構築するためには、こういった工夫が重要なように思います。実験の再現性が向上します。例えば、厚さ0.5mmのSrTiO3などでは、SUS304やMoのサンプルホルダー表面を500-600℃に加熱してもSrTiO3表面では300℃程度にしかならないこともざらにありますので、、。

変な角度のフランジにガスケットをはめる

一人で超高真空の作業をしているとなかなか苦労するのが、変な角度のフランジにガスケットを設置することです。フランジをはめ込んでみてもガスケットがズレていて作業し直し、、などということはザラにあります。そんな時に便利なのが、カプトンテープです。フランジのエッジの外側にカプトンテープでガスケットを固定すれば、手を離しても落ちることがなく、一人でも簡単に作業を進めることができますし、もちろん真空に引けなくなるなどということもありません。手元にカプトンテープがない場合は、ニッパーを使って、ガスケットの端を少しねじ切ると上手くフランジにハマってくれて、作業が楽になります。

何人か人がいるなら誰かにガスケットをピンセットで支えてもらえれば良いのでしょうが、真空って案外一人で作業することが多いですよね?

磁性不純物の少ない石英管

ESR測定を行う際や、極端に磁化の小さい試料を真空中に封管する際には、磁性不純物の混じっていない石英管を使うことが重要です。私はアグリ社の石英管を愛用しています。特注の形状でも少数から生産してくれるため、自分の装置に合ったものを入手することが可能です。私の場合は石英管に封管した試料を磁化測定にかけたりもするので、その場合にはフッ硝酸(50%フッ化水素酸5ml+60%硝酸15ml+蒸留水20mlの混酸)で10分程度石英管内をエッチングし、水で10回程度リンス、アセトン・エタノールで洗浄後に真空に引きを行い、バーナーで熱して脱ガスしてから用いるようにしています。そうすることで、4He温度でも磁性不純物に由来するシグナルがほぼ見えなくなりますので、低温での帯磁率測定が可能になります。

安価なRHEED振動測定装置の自作

RHEED振動測定用のカメラですが、業者でソフトウェアまでセットになっているのを買うと数百万円しちゃいますよね。カメラだけで80万円とか噂に聞いたこともあります。ただ、RHEED振動を見るだけなら、安く簡単に自作できてしまいます。アマゾンか何かで千円程度の安いウェブカメラを買ってラボビューか何かで画像解析を行えるようにするだけでOKです。ラボビューで画像解析をするには追加でソフトウェアを入れなきゃいけなかった気もしましたが、そのソフトもたしか数万円程度ですので、手間が気にならなければお安く自作可能です(慶應時代のラボのエイコー社MBEで実証済み)。

テスター(2019/6/14追記)

物性実験の必須アイテムのひとつに、テスターがあると思います。私は、Fluke社のテスターを愛用しています。プローブでパッと触ると値がパッと出てきてくれるのでストレスフリーに作業を行うことが可能です。オプションのプローブセットを購入すると、クリップタイプのプローブなども使えて、一人でも様々な作業を効率的に行うことができるようになります。また、公式にK型熱電対のプローブも出しているので、簡易的な接触温度計にもなります。(K型)熱電対はニラコか何かでアルメル線とクロメル線を購入してくっつければ安価に簡単に作れるので、実はわざわざプローブを購入する必要もないのですが、、。

2端子抵抗を測る際には、測定レンジに注意することをおすすめします。測定レンジごとに回路に流れる電流値が異なるからです。特に、あまり高い電流を流したくない試料や、電流値に依存して吐き出される抵抗値の異なるダイオードではこの点が重要になります。(例: Fluke社の80シリーズVでは、60 kレンジで測定すると回路電流値が10 μAで、レイクショア社のシリコンダイオード温度センサーの動作電流値と同じになり、動作チェックができます。)

ベーキング(超高真空)(2019/4/6追記)

案外慣れていない人にベーキング作業をやってもらうと、長時間焼いた割には真空度良くなってないなぁとか思うことがあります。最近他人のベーキング作業を眺めていて、こりゃアカンと思ったことを完全に主観で書いていみようと思います。こんな感じにやれば2日間のベークで、排気速度が適当なポンプがついていれば~10E-11 Torrくらいに入るなーとかぼんやり考えたことです(そのくらいの真空度って原理的にイオンゲージで測れてるのか心配になりませんか?)。

  • リボンヒーターはできるだけ密に巻く
  • アルミホイルでのラッピングは厚めにしっかりやる
  • ベーク開始から数時間経ってから接触温度計でくまなく表面の温度を測り、周りよりも温度が上がっていない部分を見つけたら更にアルミホイルで厚めにラッピングして熱をこもらせる
  • 温度が安定するまでちょこちょこ様子を見つつ、スライダックで温度調整(150-180℃くらい?Inハンダで配線していたりベーク対応でないマグネットを使っている部分がある場合など、熱に弱い部分がある場合は低めでじっくりベーキング)
  • とにかくアルミホイルのラッピングは厚めにしっかりやって熱ムラを作らない
  • 手を抜いてラッピングが薄い部分を作るとその部分に吸着ガスが残って超高真空に入らない
  • とにかくしっかりラッピング
  • ベークアウト後、チャンバーが温かい内に各フィラメントの脱ガスをする(WフィラメントにはN2や水が溜まりやすい)
  • チャンバーは急冷させない(歪んでリークする恐れあり)

基本的にはチャンバー全体をしっかり温めることができれば2日くらいのベーキングで十分超高真空に入ります。案外慣れていない人はそこを手を抜きがちだなぁと思います。ちゃんとやっても真空度が良くならない場合には、ポンプの排気速度が適切でない場合があります(真空到達度はフランジ等からのリーク量とポンプの排気量の兼ね合いなので)。その辺はQマスフィルターで見れば判断できる気がします。チャンバーはSUS304で簡単に作れそうに見えますが、サビを作らないように部品を加工したり内側から溶接しなきゃならない(外から溶接すると内側にできる穴とかに水やガスが溜まりやすい)など案外面倒なので、専門業者に作ってもらいましょう。あと、たまーに見るミスで、ギアとかの硫化モリブデンで潤滑している部分をベークしてしまうと、潤滑剤が凝固してネジ山が潰れるとかあります。南無三。あとリボンヒーターからの漏電とか電源タップのコードを溶かしちゃって大惨事とか起きうる事故は色々ありますね。

そういえば、ベーキング作業中に肌がチクチクするようになったなぁという人は、リボンヒーターを覆っている白いアレに混ざってる細かいガラスが刺さってで肌荒れ起こしているだけなので、長袖+手袋で作業することをオススメします(案外知らない人が多くて驚くことNo.1です)。

2019年4月6日追記: NIMSの永村さんさら「手がチクチクする原因、クリールーム用のツルツルリボンヒーターでも手がかゆくなるので、実はくしゃくしゃにしたアルミホイルの触りすぎ(一応金属だし?)も良くないんじゃないかとw」とのこと。盲点でした。

EBリソグラフィー

EBリソグラフィーの時に気をつけていたことを記載します。本当は全部の作業を同じ温調管理されたクリーンルーム内で行うのが一番いいのでしょうが、なかなかそういう環境を素人が手に入れるのは難しいので、、

  • レジストの塗布:基板はしっかり洗浄してからクリーンブース内で乾かしてから使う。レジストの溶液の量はもちろん、濃度等にも気を使う(あまり古いのを使うと粘り気が強かったりで上手くコートできないことが多々ある)。他人が信用出来ない場合は、原液を小瓶に移して適度に薄めて自分専用溶液を作成、それを用いて塗布・感光・顕微鏡観察・厚さ測定でスピンコーター等の条件出しを行う。また、作業をする(簡易)クリーンブース・ドラフトチャンバー内の温度・湿度は揃えたほうが実験の再現性は上がる。見落としがちなのがホットプレートで、狭いクリーンブースでホットプレートの電源を入れるとジワジワとブース内の温度が上がっていくので、ホットプレートの電源を入れてから数時間置いてブース内の温度が安定するまで待ってから作業をすること。
  • EB描画:私は業者さん・技官さんが整備してくれていた、しっかりしたクリーンルーム内の装置しか使用したことがないので何とも言えません。。ドーズタイム等の条件出しさえしっかりできていればそんなに大きなミスはしない、、はず。細かい描画等を行いたい場合は、レジストを2層にするなど工夫が必要。半導体の量産技術のすごさを思い知るタイミングだと思います。
  • 金属膜の堆積:基本的にはスパッタよりは蒸着の方が細かいパターンを作るのに適していると思います。EB描画の際電子線は表面から基板に向けてどんどん広がっていく(散乱する)ため、スパッタで膜を堆積すると堆積中の金属の散乱が大きいために、描画された穴の広がりに沿って堆積され、山っぽい形のパターンになりやすい(思ったよりも構造が山なりに広がってしまう)傾向にあります。蒸着の場合は真空度が良ければ基本的には真っ直ぐにしか金属が飛ばないので、EB描画したパターンをAFM観察したのと同じ大きさの、平坦な構造が作れていたように思います。

こんな感じで、あとはマイクロマグネティックシミュレーション(OOMMFなんかは誰でも簡単に使えます)とEBリソグラフィと磁化測定・AFM・MFM観察を組み合わせて君だけのオリジナルの良い感じのスピン配列を持った試料を作製しよう!!!

XRD(メモ程度)

測定編

  • サンプルを置いて軸合わせをして(重要)しっかり測定すれば簡単に測定データを得ることはできる
  • ゴニオの軸出しがしっかりできていれば、基本的にはサンプルを設置した際の煽り角の調整・高さ調整だけでOK
  • 煽り角は、サンプル表面にレーザーを当てながらサンプルを面内に回転させて、レーザーの反射光の軌跡をメモすることで見積もることができる(距離にもよるけどかなりの精度が出せます)。
  • サンプルの高さ調整は半割れ法(X線を0°入射して0°でディテクターで見ながらサンプル高さを動かす。ダイレクトビームの強度と比較してカウントが半分になる場所が適切なサンプル高さ)
  • 既知の結晶がいる場合(薄膜で基板があるなど)、既知の結晶からの反射を数点調べてゴニオの調整が可能
  • (世の中の複数軸ゴニオのXRDならSPECというソフトウェアで制御されていることが多いので)SPECに既知の結晶からの反射の角度を打ち込めばあとは特に調整なく測定が可能
  • 測定データはPyMcaでパッと見ることができるし、測定中の簡単な解析や比較などはこれで十分(?)
  • 測定分解能は主に、X線の単色性、X線の並行性、入射X線の幅、ディテクター前のスリット幅で決定される
  • ディテクター直前にアナライザー結晶(Ge(111)単結晶とか)を入れ、サンプルからの反射を更にアナライザー結晶のブラッグ反射で分解することで分解能を上げることも可能

解析編

  • ラフに格子定数を求める場合を除き、基本的にはモデルフィッティング(最小二乗法)
  • モデル依存性がかなり強いため、慎重に解析を行う必要がある
  • モデルを立てるにあたり、他の測定との比較検討が必要不可欠
  • XRDパターンのフーリエ変換が実空間の格子の情報になると見せかけて、位相の情報は失われているため、基本的にはモデルフリー解析は難しい
  • 位相回復法等、オーバーサンプリングなどを用いたモデルフリー解析の手法も開発されているが、バルク単結晶でも比較的大きい単一ドメインものでないと完璧には決めることはなかなか難しい、らしい
  • 粉末XRDのリートベルト解析ならフリーのソフトウェアが複数ある。表面XRDのフリーソフトウェア(ESRFかなにかで配布されていた?)も存在する、、が、やや使いづらい印象があった。

X線反射率法(2019/05/23更新)

エピタキシャル薄膜について(表面)XRDを測定する時にとりあえず測ることも多いX線反射率(XRR)ですが、いろいろな情報が手軽に得られるので(ラボソースCu Kαでも~3 nmくらい膜厚があれば測れる)、薄膜をやる人間なら知っておいて損はない手法だと思います。一方で、手軽に測れてしまい、とりあえずでフィッティングもできてしまうので、おかしな結論を得てしまうことも多いといった欠点もあります(たまに変なこと書いてしまっている論文とか見かけますよね)。

以下に、私が測定の際に気をつけていたことを、ダラダラとですが書いてみます。

  • サンプルのアライメントは上述のXRDと基本的には同じ
  • サンプルからX線がはみ出ないようにX線を必要に応じてスリットで切ること(ちゃんと計算すること。極低角の臨界角付近で光がサンプルからはみ出ると、臨界角-フリンジの間の部分に余計な信号がカウントされてしまい、その部分からの情報; 小角散乱の情報が抽出できなくなる。)
  • オススメのアライメントは、基板の00L反射を探して、そこからθ-2θの比でゴニオを動かして0°付近の臨界角を探すこと。
  • 入射光強度I0をしっかりと見ておく。反射率はカウント/I0。
  • 臨界角のちょっと手前からθ-2θスキャンで測定。
  • 解析の際、基板の密度およびラフネスが分かっている場合にはとりあえずそれを固定パラメーターにしてフィッティング。
  • 膜厚はフリンジ間隔をフーリエ変換して取りあえずラフに求めて、固定パラメーターにする。
  • まずは臨界角の位置から膜の密度を見積もって固定パラメーターにしてしまう。
  • あとは膜厚やラフネス等をフリーパラメーターにして最小二乗法でフィッティング。
  • χ^2がフィッティングでちゃんと落ちるかを注意深く確認すること。物理的におかしな値を吐いている場合にはχ^2が落ちていてもおかしなモデルを立てていることになるので注意。
  • 基本的にモデルフィッティングなので、モデル依存がかなり大きい。他の手法等と組み合わせてモデルを決めるべきである。
  • 臨界角からフリンジの間はX線の多重散乱の効果が効くので、そこをちゃんとフィッティングしてこそXRRの価値があるように思います(小角散乱の1D版)。
  • ラフネスは単なる補正項でしかない(膜厚のボケをパラメーターとして入れている場合が多い)ため、そこに物理的な意味を求めすぎるとしんどい。

かなり確立された手法なので、しっかり測ってしっかり解析できれば得られる情報が多いです。相談などございましたらお気軽にご連絡ください。

また、応物の「埋もれた界面のX線・中性子解析研究会」でもたまに講習会をやっているので、それに参加するのもオススメです。

計測器の出力

ロックインアンプ等の計測器は光学測定や輸送測定等でよく使うと思います。そもそも極低温超高真空では温度計も電気抵抗を読んで計測しているわけで、そういった計測器の選定はなかなか重要だと思います。

学生時代は、ひょんなことからクライオスタットを手に入れたりして、趣味で見よう見まねでラボに落ちていたロックインアンプ・ファンクションジェネレーター・プリアンプ等で輸送測定の系を作ったりしたものです。その際私が見落としていたのが、計測器のアナログデジタル変換器でした。物によってはそもそもデジタル計測器でAD変換がもとから入っていたりします。そのAD変換器は割りかし高周波測定用のものが多く、輸送測定等、低周波(50-60Hzよりは低い)の交流計測の際にはあまり精度が出てくれないものが多いです。測定にこだわるなら、基本的にはアナログの計測器を入手し、自分の計測に合ったAD変換を噛ませて値を出力するのが良い感じっぽいです。某グループに短期滞在した際に立ち上げた輸送測定の系も今思えば色々改善点があるので機会があれば全部直しに行きたいものです。。

MPMSの(変な)使い方(2019年9月1日追記)

実験が好きな皆様からすると、スイッチポンで謎にデータを吐き出してくれるMPMSはなかなかに気持ちが悪いかもしれません。しかしながら、温度制御はそれなりに自動で頑張ってくれますし(あんまり低温まで一気に冷やしたりを繰り返すと中のトランスファーチューブ的な部分が詰まることあり)、チャンバーはHeで満たされているので熱接触を頑張って気にする必要もなく、磁場も5とか7 Tまで簡単にかかるし、ホール素子を突っ込んでサンプルスペースが完全にゼロ磁場になっているかも簡単に確認できる装置なんてなかなか無いので、個人的にはなかなか好きだったりします。

かなり便利なので、磁化測定だけじゃなくて、超マグとして使っている方も多いのでは、とか思います(DCポートについては公式に輸送測定用のプローブと光照射用のファイバー付きプローブが用意されていますよね)。私が学生時代に所属していたラボでは、RSOで高感度に磁化測定を行いつつ光照射やバイアス電圧の印加を行いたかったこともあり、RSOロッド類を改造して使っていたりしました。まずRSOロッドの頭に穴を開けて細めのファイバーやCu線を通してロッドにピッチリ這わせながらサンプル位置近傍まで配線したものをつくります。その後、RSOポートの蓋と同じ経のアクリル筒とアクリルボックスをつなげて、ボックス内に余裕を持って配線をするようにして、配線の出口はBNCにつなげてスタイキャスト等で穴を塞ぎリークしないようにすると、RSO測定にも耐えるオリジナル電気測定ロッド+キャップ兼配線ボックスが完成します。アクリルボックス内もHeで満たさなきゃなので、ボックスの体積はできるだけ小さく作ったほうが良いです。これで光照射とかバイアス電圧かけながらの高感度磁化測定がやり放題です(こんな論文とかこんな論文を出しました)。ちなみに、ゲート電圧かける時にちょっとでも電流流れちゃうと当たり前ですが磁束ができるんで磁化測定に謎シグナルが出てきます。あとは、チャンバー体積が増えるのでパージ回数は増やしたほうが良い感じです(チャンバー内に空気が入ると酸素の常磁性シグナルが出たりとか氷がついたりとかロクな目にあわない)。

古いタイプのMPMSだと、RSOとかDCのポートと本体をつないでいる同軸ケーブルからノイズが乗りやすかったりするので、アルミホイルを巻いてシールドすると測定精度が上がります。あと、He再凝縮装置と本体を同じ電源につなげてると、再凝縮中には測定ノイズが乗る謎仕様だったりします。案外通信エラーでバルブがちゃんと動かなかったりすることも多いので、そこそこ頻繁に再起動させる必要もあります(本体の主電源以外を落としてから主電源を落として、逆順にスイッチを入れ直す)。他にもなんか色々あった気もしますが続きは気が向いた時に書きます。。

2019年9月1日追記: 学生さんから超マグの磁場についてよく聞かれます。MPMSの超マグはずっと超伝導状態ですので、基本的には完全にゼロ磁場を作ることは難しいです。デマグ等の機能を使って低磁場を作ることもできますが、残留磁場はたしかにあります。完全にゼロ磁場を作りたい場合には、ultra-low-fieldオプションの電磁石+ホール素子を使って測定前に0磁場を作る必要があります(その後は基本的に超マグでは磁場はかけない)。また、当たり前ですが、MPMSの磁場-出力磁化の校正も必要です。よくやる方法として、常磁性磁化率が大きく且つ安定なバルクPdを使って磁化率測定を行い、その出力値から校正を行う方法があります(もちろんMPMS本体の表示値も校正値に変更可ですが、共用装置の場合などには管理者に許可をとってから行うこと)。バルクPdはカンタムデザイン社が販売していますし、高純度のバルクPdを購入し、自分でアーク溶解等で必要なサイズの球体を作るのも良いと思います(私は後者を利用していました)。磁化率は3%くらい誤差が出ていることが多々ありますし、その程度の装置だと割り切って使うほうが良い気がします。

基板を洗浄したら逆に汚れた話

信光社さんのSrTiO3(上述)を出張先で使ったときのことです。なんだかよく分からないけど条件揃えても蒸着が上手くいかない!という大事件がおきてしばらく悩んだことがあります。原因は、アセトン・エタノールでの基板洗浄でした。出張先では使い捨てのカップに一斗缶で購入したアセトン・エタノールを入れて基板を洗浄していて、結果的にそれが基板表面を非常に汚していたことが判明しました。上述のように、信光社さんのSrTiO3は買ったのをそのまま使っても問題ないくらい綺麗(若干ゴミが乗っていたりはします)なのですが、下手な洗い方をすると逆に表面を汚してしまい使い物にならなくなってしまうようです。

私は汚れ等をしっかり落とした基板を使いたいときには、洗浄用の容器に中性洗剤で洗って最後に純水で綺麗に流して清潔な恒温槽に入れて乾かしたビーカーを用いて、アセトン・エタノールは和光さんから瓶で純度の高いものを購入して使うようにしています。(和光さんのエタノールは酒税を払わなきゃならない都合割高ですが、なんだかんだ安心して使えます。)

超高真空+低温(メモ書き2019/06/23追記)

超高真空はよく使っていたし、4Heのクライオスタットの立ち上げもやったこともありましたが、超高真空で低温の装置を自分で組み立てとか調整とかしたことはなんだかんだなかったなぁ、と。最近超高真空で低温(4He温度程度)をばらしていじる機会に恵まれたので、思ったこととかその辺をメモしておきます。

(トランスファーチューブでコールドヘッドのCuにHeを吹き付けて、それをポンプで引いて減圧して低温に下げる→コールドヘッド先端に試料ホルダーをネジ止めして冷やすタイプのクライオスタット)

・インジウムはんだが大活躍する(ベーク温度が上げられなくなるので困ることもありますが、温度センサーとの接触抵抗が低かったり、ハンダ作業は楽なので、なんだかんだ使い勝手が良いです)。温調かけれるハンダゴテがあるとインジウムの融点ギリギリくらいにコテを熱して使えて捗る。そんなもの持っていなくても、安い1000円くらいのハンダゴテをベーク用のスライダックにつなげれば手動で温調がかけられる。

・やはりエポテックは使いやすい。ベークにも耐えてくれるし、300℃くらいでボロボロになる→はんだごてで撫でると崩れるので割と簡単に剥がせる。

・サーマルアンカーを作るのがなかなか面倒(ワニスを使いたくない)→Cu線はできれば使いたくない。できれば細いキュプロニッケルとかマンガニン線(磁性が気になるならリン青銅)で配線して熱流入をなくしたい。10-100Ωくらいあると安心?また、10K以下に冷える部分なら超伝導線材を使えば熱の流入はほぼなくなるはず。被覆の種類は上述の配線の部分参考。

・レイクショアのテフロン被覆Cu線(長く配線しても配線抵抗で2-3Ωくらい、しかしながらテフロン被覆は丈夫でしかも剥がしやすい)を使うとサーマルアンカーを頑張って作らなきゃで、その場合は、コールドヘッドのところに線をグルグル巻きにして(2周じゃ足りない感じがあった)インジウムを溶かして固めて、その上からアルミホイルを巻いて保護して、裸銅線とかで縛り上げて固めると、頑張れば冷える。He効率は悪い気がするので、弊社(たぶん国内だとかなりHeに恵まれている)くらいじゃないとなかなか使う気になれない、と思った。(InもTc以下だと熱伝導悪くなるので実はAuとかAgとかを使うべき?)

・温度センサーにシリコンダイオードとかセルノックスを使うのは、普通の低温と変わらない。磁場とかかけるとなるとまた大変そう(極低温で強磁場とかだとルテニウムオキサイド?)

・輸送とかの細かい試料に配線したりに慣れていれば、あとは脱ガスしづらい接着(上述のインジウムハンダとかエポテック)+抵抗の大きい線材を使って組み上げて、なんだかんだ冷やせる。

・更に低温ってなると大変なんだろうなぁとか思いながら作業することになる(装置いじりは楽しい)。

光電子分光におけるkz方向の分解能(観測ボケ)

最近、ARPESのkz方向の波数分解能について聞かれることが多々あるので、私見をまとめておきます。

光電子分光ですが、基本的には表面敏感な測定手法です。固体に光を当てた際に出てくる光電子が、表面を超えて外に飛び出せる距離(平均自由行程)が、入射光エネルギーにも依存しますが、数nm程度だからです。面直運動量kzの観測分解能は平均自由行程の逆数に比例するので、よって表面敏感なARPESではkz分解能が低いことになります。(光電子の平均自由行程と入射光エネルギーの関係は、「ユニバーサルカーブ 光電子」で検索すると出てくると思います。)

一般的な放射光ARPESは、励起光が約20-100eV程度の範囲(光電子業界ではVUVと呼んでいる)ですので、kz分解能は低いと考えてもらって良いと思います。つまり、ある程度は複数のkzが重なって見えていることになります。とはいっても、ある程度重なっているだけですので、ある程度はkz分解もできています。そのため、入射光の波長依存性がバンド分散に見えます。

一方、レーザーARPES(励起光が6-11eV)や放射光"軟X線"ARPES(~500eVとか)では基本的にはバルク敏感な測定ですので、kz分解能が高いです。狙い撃ちで特定のkzを測定可能だと思います。

レーザーや軟X線(光電子業界では数百eVのことを指す)なら、十分に3次元の電子状態、および電子系の次元性が議論可能なのだと思います。(kz分解能は物質を測ってみないと分かりませんし、ARPESの人も口ごもるような内容なんですかね、、結局入射光の波長を変えてしまうと散乱断面積も変わりますし、光電子スペクトルの見え方は電子系の終状態に大きく依存するので、そのあたりの切り分けはなかなか難しそうです。)

BCSギャップの温度依存性の計算

巷で話題のぶひんブログを参考に(というかほぼ丸パクリして)、BCSでギャップの温度依存性を数値計算するPythonコードを書いてみました。

こちらからどうぞ。便利な時代になりましたね。。

極低温でくっつける(UHV除く)(2019年11月6日追記)

極低温(希釈冷凍機温度までを想定)で実験をする際にも、試料は何かしらの方法で固定しなければなりません。特に、試料を冷やしたりするには、広い面積で熱伝導を確保しなければならないので、ある程度は工夫が必要です。

試料のホルダーですが、1 K以下でも超伝導に転移せずにいて熱伝導も良いものを使いたいので、私はよくAgの薄い板を使用しています。酸化皮膜が嫌なので、表面をかるくヤスリで削って使用します。その上にワニス(GE7031: 気がついたら劇物指定されていて購入が難しくなっていましたが、皆さんどうされていますか?)で絶縁しつつ試料を固定します。ワニスで絶縁が不安な場合は、カプトンテープで絶縁します。カプトンテープですが、He温度くらいでも粘着力が落ちて剥がれることが多い印象があります。ワニスで固定できるならそれが一番良いように思います(カプトンテープをさらにワニスで固めるというのも有り)。試料が軽く浮かないように押さえたいだけなら、ニチバンの紙テープが優秀です。驚くべきことに、希釈冷凍機温度でも十分に粘着力を保ってくれます。絶縁しなくていいなら、Agペースト(私はデュポンのが好きです)も良いかと思います。4-6端子で輸送測定を行うなら、I-端子のみAgペースト等で広い面積でAg板のホルダーに落として(電気的にもアースにしてしまう)、熱伝導を稼ぐという手もあります。

いろいろ書きましたが、ニチバンの紙テープが案外カプトンテープよりもくっつけるには良い感じです。

2019年9月1日追記: 理研の花栗先生から、GE7031はロックゲートさんやアクシスさんがまだ販売しているとの噂を聞きました。また、本稿に書いていませんでしたが、先生のオススメはアピエゾンNグリスだそうです。私もよく使います。(Nグリスですが、200Kあたりで固化した際に、輸送測定等だとノイズが乗ることがありませんか?)。

2019年11月6日追記: 試料固定に使う道具で、熱膨張とかの関係か歪みが加わってdetwinされることって多々ありますよね。色々なものを試してみるのが重要な気がしています。

テキストで出力された二次元データの取り込み例(IgorPro用)

MBS社A-1(ARPESアナライザー, ディフレクターつき)のデータはテキストで出力されます。画像の定量解析にはやはりIgorProが便利なので、とりあえず必要な情報を全部IgorProに取り込んでくれるようなマクロを書いてみました。こちらからどうぞ。基本的には、2D waveを作ってそこに光電子放出角とエネルギーを突っ込み、残りのヘッダー情報はNoteにぶち込んだだけの雑なマクロです。

バグがあったり、追加機能が欲しかったりしたらコッソリ教えてください。気が向いたときに書き直します。気が向かなかったら書き直しません。質問等にも気が向いたときにしか答えません。。

2019年11月22日追記: 先日のビームタイムで使ってみましたが、問題なく動きました。

Igor Proでのデータの取り込み解析(SP8 BL39XU)(2019年11月22日更新)

2Dデータがいじれるのなら、1Dならもっと簡単なのでは?とか思いますよね。ということで、SPring-8 BL39XUのXMCDデータを一括取り込み、ファイル名の頭が同じなら積算、磁場正負で差し引きを行いバックグラウンド消去までするマクロをつくりました。こちらからどうぞ。ビームラインで配布されているデータ取り込みマクロをもとに、機能を加えています。(2019年10月26日作成)。

2019年11月22日 ver1.1: XMCDを用いた磁気ヒステリシス(ESM)データの取り込み・解析機能をマクロに追加しました。BL39XUに設置されている解析用パソコンにIgorProを入れさせて貰って、またプロシージャも置いて来ましたので、(消されず残っているようでしたら)勝手に使ってくださって問題ございません。ただし、バグ等があっても文句は言わないでくださいね、、。

ガスケットを洗うかどうか(くだらない雑談)

超高真空機器でガスケットを使う際に、エタノールを使ってキムワイプで汚れを落としてから使うようにしています。そうしていたところ、学生さんから「某社の人がエタノールで拭いたガスケットと拭かなかったガスケットで汚れレベルを検証してみて、拭かないほうがキレイだったと言っていたのだが」とか言われました。良い工場で作ったガスケットで、キレイにパッケージングされている物なら、洗浄無しで問題なく使えると思いますし、上述のように汚いエタノールで拭くよりもそのまま使った方がキレイで良いと思います。一方、業者さんによっては、ガスケットの加工装置の周りをそこまでキレイに保てないことも多々あります(工場を持っている業者さんに聞くと、裏話とかその辺のことをコッソリ教えてくれます)。そういった場合には、一応洗浄することを推奨する、と言われることもあります。

が、ぶっちゃけホコリとか目に見えるレベルでゴミがついていたり、真空側のところが油まみれとかで無い限りは全然問題なく使えますよね、、金属の加工とかそういうのに興味がある場合は、加工している業者さんに詳しく話を聞くと、案外細かいことまで教えて貰えたりします(もちろんお金を払って作業に来てもらった時の真空引きの空き時間とかに聞くべきですよ!)。

米が食べたい

出張先で実験などをしていると、ついつい買い物に行きそびれてインスタント食品に頼ることになってしまいますよね。私にとってはそれはなかなかストレスでした。というか米が食べたくなります。

炊飯器がなくても米を炊きたいときには、蓋のついた鍋があればOKです。米1合に対し水200ml(軟水を使うこと)を入れて強火で沸騰→13-15分間弱火で放置で炊けます。ずっと蓋はつけっぱなしでOKです。粉末の昆布茶を入れて炊くと美味しかったりします。これで生米さえ持っていけば海外実験でも米ライフが楽しめますね。。

DFT計算と実験

実験をやっていてなかなか面白い(訳のわからない)結果が出ると、アーチファクトなのか本質なのかよく分からず、不安になることも多いですよね。そんな時に、私はDFT計算を用いて計算上も物性がちゃんと出るのかを注意深く確認することを行っています。簡単なバルクの計算や、k点数・スラブサイズが大きくないスラブ計算でしたらラップトップでも十分計算できますし、比較的重い計算(例えば、スラブ+磁性+SOCで構造最適化までやったり)などスパコンが必要な場合にも、国内研究者でしたら全国共同利用施設のスパコンもタダで借りることが出来るので、思ったより気軽に計算を行うことができます。【参考】私のラップトップは、MacBook Pro (Retina, 13-inch, Early 2015), 2.9 GHz Intel Core i5, 16 GB 1867 MHz DDR3で、バルクの計算で軽いものはよくローカルで回しています。

私がメインで使っているDFTのコードはNIMSのPhase/0で、加えてたまにOpenMX等も使ったりしています。お金がないのでVASPは使っていません。。計算の際に(共同研究先の先生から指導を受けつつ)注意している点について、主に薄膜磁性の計算を例に取って以下に列挙します:

  • 用いる元素の(擬)ポテンシャルについて、バルクの計算から結晶構造や格子定数等を振ってみて最も安定なものを第一原理的な計算から検討し、結果が妥当な値を出しているか実験値との比較から確認する。私はよくLDAPW91やGGAPBEの擬ポテンシャルを使っていますが、それぞれについてしっかりバルク計算を行い、安定構造を見るようにしています。
  • 同時に、バルクでk点メッシュやカットオフエネルギーを振ってみて、収束する値(系の全エネルギーの収束値)を見ておく。ここの収束値のブレ具合がだいたいDFTの計算精度で、~0.1 meV程度かと思います。
  • 用いる擬ポテンシャルの性質が大体わかったら、とりあえず薄膜スラブを組んでみる。スラブ計算の際は、z方向に真空層を挿入する。薄膜スラブの表面と周期境界条件で表面の上にやってきた薄膜の裏側で電子間の相互作用が起きないように、十分大きく真空層を取るようにする(あまり真空層を広く取っても無駄なので、k点数少なめで予備的に計算して真空層の大きさを決定する)。
  • 作成したスラブに関して、磁性の計算を行ってみる。磁性の収束値・全エネルギーの収束値を注意深く見ながら、k点を十分大きく取るように計算する。磁性をしっかり見ようとすると、k=50*50*1とか100*100*1相当のk点メッシュは平気で必要だったりしてきます。そこまで大きくなると、クラスターマシンかスパコン必須のような気がします。
  • ここで、薄膜スラブでは最安定構造もバルクとは異なります。計算の目的や何が見たいのかにもよりますが、「基板の上にのった膜」を仮定するなら基板の格子定数を仮定してスラブのin-plane格子定数を固定しても良いかもしれませんし、そもそもスラブ自体に基板まで入れてしまうのも手です。いろいろな可能性があるかと思うので、単純なバルク格子定数を用いた計算・基板に格子定数を合わせた計算・完全に構造最適化を入れた計算結果等を十分に比較し検討すると、何かしら分かってくるかもしれません。
  • 薄膜スラブ特有の注意点に、表面エネルギーの存在があります。表面エネルギーの大きさ自体は、(表面エネルギー)=(スラブの全エネルギー)-(バルク計算より算出したバルク中の1原子のエネルギー)*(スラブ中の原子数)で計算することができます。フリースタンディングで表裏を区別しないなら値は半分です。この表面エネルギーの大きさが、見たい物性のエネルギースケールと比較してどうなのか、といった点については十分に検討するべきです。
  • 磁性の計算を行うと、どうしてもSOCを入れて磁気異方性を見てみたかったりするかと思います。一方で、磁気異方性エネルギーの大きさは~0.1meVオーダーで、DFTの計算精度とコンパラだったりしますし、しかもSOCの一般的なDFTへの導入の仕方は確立されていないのか色々ありますので、その辺りはしっかりと磁気異方性のDFT計算の専門家に聞いてみないと、どこまで言ってしまって大丈夫なのか等の判断は難しいと思っています。手っ取り早いのは、ARPES等の高いエネルギー分解能を持つ分光実験との比較から議論することかもしれませんが、あまりそういう研究って目にしませんよね…?

(特に学生時代は)私はあくまで実験メインの人間でしたので、DFTの結果を磁化測定・結晶構造解析・分光実験の結果と比較し、なにか新しく物理が見えないか調べるようにしていました。最近はARPESをやっているので、あまり難しくなさそうな系なら自分でDFTを回して、その結果を参考に見るべきARPESカットを決めてみたりしています。一方、ARPESですが、意外と測れる物質は限られていますので(クロスセクションの問題等)、DFT計算が非常に威力を発揮する系も存在します。実際、私はARPESではバンドが見えない物質ではDFTだけで頑張り、スラブを色々いじってみて、磁気的起源を電子論の観点から調べる理論的研究を行ったりもしています。

DFTを自分でやってみて、「計算機を使って実験をしている」ようなものなのかな、とか思ったりしています。最近では、DFTはパッケージ化されていて誰でも比較的簡単に計算できて出力を得ることもできてしまいますが、実験同様に素人仕事では見落としやアーチファクトにとらわれたり等、色々問題もあります。できれば、専門家の指導のもと、手法を身につけるべきなのかな、と思ったりしています。実験と計算と両方できると、自分の見たい物理を調べるための幅が広がって楽しいですが、その分技術の会得にもそれなりに時間はかかるのかと思います(たとえば、ソースコードをしっかり読んだり欲しい機能を実装したり等、研究ツールとしてしっかり使用するとなると、それなりに骨が折れるかと思います)。

2020年3月28日追記:実際に、以前手計算とDFT計算だけで論文を書いたところ、レフェリーからの指摘でDFTのコード自体を修正して再計算を行う必要が出たことがあります。それなりに全体像を掴んでいないと怖いな、というのが感想です。実験でもできるだけブラックボックスは減らして測定しますし、そういうことかと、、。

装置の制御用パソコン

市販の装置を買うと、装置の制御用のパソコンもセットでついてくる(か新しく買うか)しますよね。特に装置メーカーさんの作ったソフトウェアで実験を行っている場合は、そのパソコンが不具合を起こすだけで数週間装置が止まってしまったりなどざらにあるかと思います。

そんなことにならないためにオススメなのが、装置立ち上げ時に同じ型のパソコンを2台買って、立ち上げ完了時に内一台にHDDかSSDのクローンを突っ込んで使わずに置いておくことです。そうすることで、いざパソコンが壊れても慌てることなく現状復帰が出来てしまいます。10万円程度で保険がかけられると考えると安いものなので、オススメします。測定の近代化はストップしますが。

(そもそも業者さんの作ったソフトウェアでなく自分で制御プログラムを書いて動かす方がブラックボックスがなくて良いですし、測定の近代化もどんどん勧めていけるので、時間がある場合はそちらを勧めますが)