New Zealand

■ New Zealand北島 (September-October 2012)

  • 約2500種の種子植物・シダ植物を育むNew Zealandでは,固有種率が80%に達します(日本では約30%).かつてゴンドワナ大陸に所 属していたNew Zealandは,白亜紀に他の陸塊から切り離されてから,オーストラリアや太平洋の島々から海によって隔てられてきま した.この地理的な隔離効果によって陸地間での植物の移住率は大きく低下し,固有種率の高いユニークなフロラが形成されてきたと 考えられます.
  • 北島の比較的降水量の多い地域には針葉樹と広葉樹が混交する森林が分布します.今回訪れたWaipoua Forest Reserve には,マオリ語 でKauriと呼ばれるAgathis australis (Araucariaceae) の巨木が林立する針広混交林が保全されています.北島の中心都市オークランド から車で3時間半程度で保護区に到着すると,それまでの放牧地やマツの植林地とは風景が一変し,鬱蒼とした森林が現れます.

車道沿いには木生シダが茂り,Kauriが林冠から突出するという独特の景観.白い樹皮の大木がKauri.

Forest Reserveには多くのKauriの巨木が点在するが,その中でも幾つかの名木に歩道から簡単にアクセスすることができる.

木製の歩道は,Kauriなどの樹木の根を傷めないように整備されている.

林分の中で圧倒的な現存量を誇るKauri.

Tane Mahuta 「森の神」.

樹齢は2000年を超え,最も背の高いKauriとして知られている(樹高51m).下枝は枯れ落ち,樹幹の上部で多くの枝が思い思いの方 向へと伸びている.枝分かれした部分には着生植物が豊富で,Collospermum hastatum (Liliaceae) や シダ植物のLycopodium varium(Lycopodiaceae) などが観察できる.

Te Matua Ngahere 「森の父」,最も太い幹を持つKauri (直径5.2m; 左).太陽に照らされた太い樹幹は白く輝き,まるで白壁のように そそり立っている.圧巻.Four Sisters,4本の樹幹からなる個体.まっすぐに伸びた幹は何かの建造物を支える柱のよう (右).

Yakas.7番目に太いKauriで,幹に触れることが許されている唯一の巨木.

林床に落ちていたKauriの枝には特徴的な雄花の蕾がついていた.ボルネオ島キナバル山で見たAgathis borneensis が思い出される.右 はPrumnopitys ferruginea (Podocarpaceae).イチイに似た葉と液果をつける針葉樹で,今回初めて出会ったゴンドワナ分布型の属.

Dacrydium cupressium (Podocarpaceae);Kauriの突出木の下で林冠を形成する(上左).歩道沿いで稚樹が多く見られた.低地湿地 ではD. cupressiumが優占する林分があるそうだ.熱帯ヒース林のような光景なのだろうか.Aristotelia serrata (Elaeocarpaceae);NZ では珍しい半常緑性の樹木(上右). Coplosma tenuicaulis (Rubiaceae) (下左).Coriaria arborea (Coriariaceae);ドクウツギ科の 低木で撹乱地や道沿いで多く見られる(下右).

(上段)Cyathodes fasciculata (Epacridaceae);道沿いなどの撹乱地に多いEpacridaceaeの低木種.Metrosideros perforata(Myrtaceae);つる性のMetrosideros属植物.D. cupressium などに登って白い花を咲かせていた.(下段)Earia mucronata(Orchidaceae);とても良い香りを放つ着生ラン.Pterostylis banksii (Orchidaceae);林床で咲いていた地生ラン.

  • Waipoua Forest ReserveにはこのようにKauriの巨木を交える素晴らしい湿性林が保全されており,私達の目を楽しませてくれるだけで なく,この地域のフロラの成立にも思いを馳せさせてくれます.しかし,こうした保全地域以外では森林らしい植生はほとんど残され ておらず,広大なマツの植林地や牛や羊の点在する放牧地に改変されていることは残念なことです.また,Kauriに関しては20世紀初 頭にその材や樹脂,琥珀などの採取を目的にして,大規模な伐採が行われてきた歴史があります.ヨーロッパ人の入植からわずか200 年余りの間に,北島を覆っていた針広混交林はそのほとんどが消滅してしまいました.残された貴重な森林の保全と,周辺地域での森 林再生が望まれます.
  • NZはまた,環太平洋造山帯に位置するために火山活動の活発な地域です.北島の中央部のロトルアにはWai O Tapu地熱公園という場 所があり,そこでは噴気口から吹き出す熱水や間欠泉などを観察することができました.

  • ここで見られた植物を少し紹介します.

Pittosporum tenuifolia (Pittosporaceae) は渋い色の花が満開.Cyathodes fasciculata (Epacridaceae) のブッシュが続く小 道.Hedycarya arborea (Monimiaceae) の稚樹.

Pittosporum eugenioides (Pittosporaceae);こちらのトベラは柑橘系の香りが強い花を咲かせ,ミツバチやマルハナバチがたくさん訪 花していた.Nothofagus menzieisii (Nothofagaceae) の芽吹き.セイタカシギの1種Himantopus himantopus が小さい群れで採餌して いた.ピンク色の脚がかわいらしい.

  • 北島の中心都市オークランドの沖合には,約600年前の火山噴火によって形成されたRangitoto島が浮かんでいます.Rangitoto島まで はオークランドの港から高速船が出ていて,30分ほどで渡ることができます.

  • 成層火山のため島はなだらかな傾斜で,簡単に噴火口や山頂を巡ることができます.山腹はフトモモ科のMetrosideros excelsa(Myrtaceae) が優占していて,さながらハワイ諸島のM. polymorpha の林分を歩いているような感覚でした.登山道沿いには他のフト モモ科樹木も観察できます.

M. excelsa (左) はNZでクリスマスの時期に真紅の花を咲かせることから,クリスマスツリーとしてよく知られる木なのだそう.訪れた ときはまだ蕾は固かった.Leptospermum scoparium (Myrtaceae)の花も咲いている.右はKunzea ericoides (Myrtaceae).葉だけだ とL. scoparium に似ているが,花は房状につき,より小型.

登山道を登って行く途中でカルデラが現れ,そこから2分ほどで山頂に到着.オークランドが遠くに望める美しい場所.

Geniostoma rupestre var. ligustrifolium (Loganiaceae) の花.Pseudopanax arboreus (Araliaceae) の果実(中).NZでは小葉の様子か ら"Five-finger"と呼ばれている.なるほど.帰りの船ではカモメが見送ってくれました(右).