下記は、SGEPSS小型天体環境分科会の設立時に運営委員会に提出した趣意書です。
分科会の設立の背景、目的、活動内容を記したものです。
設立の背景
近年の月周回衛星SELENE(かぐや)よる月環境観測、MESSENGERやBepiColombo計画による水星環境観測、Cassiniによる土星の衛星観測に見られるように、月、水星、他の惑星の月や小惑星など、地球よりも小さいスケールの小型天体についてその環境解析研究が注目されている。小型天体はそれ自身もしくは付帯する磁場構造がイオン慣性長程度もしくはそれ以下であることが特徴であり、その研究の重要性はSELENEデータ解析の初期結果からも明らかである。このような状況を受けて、本学会ではレギュラーセッションとして「小天体環境」を設立し、小型天体‐宇宙プラズマ相互作用の研究を積極的に進めてきた。
その議論のなかで明らかになってきたことは、固体惑星表面と周囲のプラズマ・帯電ダストとの相互作用の重要性である。具体的には、月や水星の外圏(exosphere)の形成過程、固体惑星の表面物質の変質(宇宙風化)や、表層からの光電子放出と帯電ダストの挙動、氷衛星周辺の環境など、多くの現象が挙げられる。これら現象は「希薄大気天体における領域間結合」として総括され、その解明には宇宙プラズマ物理学と固体惑星科学との融合的研究が重要な役割を果たすものと考えられる。
また、「小天体環境」セッションでは、人工衛星なども小型天体の範疇として扱い、それらと周辺の宇宙プラズマとの相互作用およびそれに起因する衛星近傍のプラズマおよび電磁界擾乱の定量的な理解を深めつつある。衛星環境は、科学衛星を用いた、電磁場やプラズマ粒子の「その場観測」の精度に大きく影響する可能性があり、測器開発やデータ較正において重要な基礎データとなりうる。また、太陽活動に起因する宇宙環境の急激な変動による人工衛星への影響、障害に関しても、小型天体環境の枠組みにおいて研究を進めていく必要がある。
さらに、宇宙利用への応用も期待される。太陽風相互作用や人工プラズマ噴射を用いた宇宙推進システムなど、宇宙利用のためのシステム開発やその評価において、本学会がこれまでに蓄積してきた宇宙プラズマ現象やその解析手法に関する知見を応用する試みが始まっており、これをより積極的に進めることが、本学会の航空宇宙分野や宇宙科学分野への貢献にもつながると思われる。
SGEPSS秋学会で開かれる小型天体セッションが一定の成功を収めつつある中で、継続的に議論して研究をさらに発展させてゆくための枠組みが必要であるとの意見が多く出ていた。以上のような背景のもと、SGEPSSにおける小型天体の研究者を発起人として、小型天体環境分科会の設立を提案する。
目的
本会の目的は、SGEPSSの分科会として、会員相互の連絡を図り、SGEPSSおよびその周辺分野における小型天体とその周辺の現象についての学術と応用技術の進歩に寄与することである。なお、ここでの「小型天体」の定義は、惑星科学用語としての小天体に限らず、月や水星などの比較的小さな天体に加え、宇宙機などの人工天体も含むものとする。小型天体の主な研究手法としては、衛星データ解析、シミュレーション、モデリング、実験室での実験、地上観測等が想定され、これら相互の情報交換をおこなうことで研究がいっそう活発化することが期待される。
活動内容
主な活動内容は以下のものを予定している。すなわち、
(1)講演会、研究会等の学術的会合を開くこと。
(2)予稿集、論文集、その他必要な資料の刊行および情報公開を行うこと。
(3)その他本会の目的を達成するために必要と認められること。
(2013年3月)