SaMPLセミナー案内

SaMPL (Saijo Seminar for Mathematical, Physical, and Life Sciences)

SaMPL(サンプル)セミナーは、数理生物学、生物物理学、生命科学分野の融合的交流を目的とし、それぞれの分野の3人のオーガナイザーが国内外の研究者を招くセミナーとして2017年4月に設立されました。本セミナー名は開催地である広島大学東広島キャンパスのある地名、西条(Saijo)を頭文字にしました。

演者には分野外の研究者にもわかりやすいように発表をお願いしていますので、異分野融合研究にご興味のある方は是非ご参加頂き、本セミナーを盛り上げて頂ければ幸いです。

皆様のご参加をお待ちしております。

オーガナイザー:

李 聖林(数理生物学, Mathematical Science)

冨樫祐一(生物物理学, Physical Science)

落合 博(生命科学, Life Science)

アクセス:https://www.hiroshima-u.ac.jp/access/higashihiroshima


第13回


講演者: 本田直樹 氏(京都大学・生命科学研究科)

日時:令和3年1月13日(水)

14:50~15:50

場所:ZOOM (Online)

講演要旨

 免疫系は、体内に存在するあらゆる異物(タンパク質など)を抗原として認識し、適切な免疫応答を誘導する。例えば、病原体などの有害な抗原には強く応答することでそれを除去し、食物などの無害な抗原には応答せず不必要な炎症を防ぐ。このように、免疫系による抗原の有害/無害の識別は、その後の免疫応答を決める最も重要な要素である。免疫細胞は多様な抗原に対してそれぞれ特異的なT細胞受容体(TCR)を持つことから、従来、抗原に応じた免疫応答は1 細胞レベルで規定されていると考えられてきた。しかしながら、免疫細胞には予め、どの抗原が有害/無害であるかプログラムされている訳ではない。それにも関わらず、免疫系は正しく抗原の有害/無害を識別しており、そのメカニズムは全くの謎である。さらに、アレルギーのように、花粉などの無害な抗原に突然強く応答したり、その治療(少量・継続的な抗原投与によるアレルゲン免疫療法)により応答が緩和したりする。このように、同じ抗原に対する有害/無害の識別が動的に変化することから、免疫系は抗原の有害/無害を識別し、抗原の経験に応じてその記憶を更新していると考えられる。そこで本研究では、免疫系を適応学習システムとして捉え、抗原の観測と予測との誤差によってメモリーT細胞を新たに生成するという予測符号化の概念を導入することで、抗原の濃度依存的な識別や抗原ダイナミクス依存的な識別、TCR依存的な識別を統一的に説明できることを示す。

第12回


講演者: 田崎創平 氏(理化学研究所・生命機能科学研究センター)日時:令和元年 6月25日(火)16:00〜17:00 場所:広島大学東広島キャンパス 理学部B棟707号室演題:ニワトリ胚中胚葉細胞集団の動的な移動秩序形成要旨:ニワトリ胚の中胚葉組織は、胚の内側に陥入した間充織細胞がエピブラストと内胚葉の間の空間を広がっていくことで形成される。しかし、足場の限られた3次元空間内の細胞移動様式を含め、中胚葉形成機構の詳細は不明な点が多い。我々は、透明化や高解像度の3次元ライブイメージングにより、中胚葉組織内において細胞同士がN-cadherin等の接着分子により3次元的に相互作用することによって特徴的な秩序形態を呈し、前側および外側への集団運動を実現していることを見出した。特に、細胞集団の移動形態は特徴的な網目状構造を示し、各々の網目は動的に構成細胞の入れ替えが起きながら、協調的な細胞集団運動が行われていることが分かった。我々は、トラッキングを含む細胞集団画像解析データを元に、パーシステントホモロジーなどの位相的データ解析と、時空間ウィンドウ可変な統計的解析を組み合わせた、マルチスケールなデータ解析手法を構成した。これにより、細胞集団の形態とダイナミクスの定量的特徴づけを行った。さらに、N-cadherinの機能を阻害する変異体を構成し、変異体を発現した細胞集団と正常細胞集団の比較を行った。その結果、変異体発現細胞集団では移動秩序が乱れ、集団平均速度の低下などが見られた。また、高解像度ライブイメージングによりN-cadherinによる細胞間相互作用を調べたところ、ある種の細胞遊走接触阻害が確認された。この観察に基づいて数理モデルを構築し、シミュレーションを行って実験と同様のデータ解析を行ったところ、細胞集団の位相的構造や移動秩序、平均速度の変化が再現された。以上により、本研究は中胚葉形成ダイナミクスの一部を説明することに成功した。今後の展開として、自動データ解析と自己進化型数理モデルを連動させた、現代的な自動解析系の可能性を述べたい。

第11回

講演者: 高木舜晟 氏(九州大学大学院システム生命科学府)日時:令和元年 6月25日(火)14:40〜15:40 場所:広島大学東広島キャンパス 理学部B棟707号室演題:がんとウイルスをつなぐ多階層数理 モデルの構築要旨:がんは、遺伝子発現や細胞間相互作用など、多階層の動態が絡み合って発生・ 進行する病である。特にウイルス性のがんは、そこにウイルス感染動態が加わり相互に関連しているため、ウイルス学・腫瘍学・(血液)内科学等が入り混じった複雑な領域である。一方で、近年の先端計測技術の発展により、ウイル ス配列や遺伝子発現に関する網羅的解析が進んでおり、また感染実験による再現も可能であるため、がんのメカニズムを解明する上で大きな足がかりとなると言える。そこで私は、2つの腫瘍ウイルス(HTLV-1, EBV)を対象に、実験データの統計的解析に加え、細胞内と細胞外の動態を同時に記述できる多階層数理モデルを構築し解析を行ってきた。本講演では、これらの結果をご紹介するとともに、本モデルにより期待される新たなアプローチについて議論したい。

第10回

講演者: 平岩徹也 氏(東京大学大学院 理学系研究科)日時:平成31年 1月 11日(金) 16:00~

場所:広島大学東広島キャンパス 理学部A棟010号室

演題:真核細胞の遊走についての理論モデリングと数値シミュレーション

多細胞形態形成や免疫応答などの生物的機能には細胞が適切に移動することが不可欠である。ある種の真核細胞はゲル中や平面基盤上で自発的に持続性をもって遊走することが知られている。また、ある種の真核細胞は、接着や排除体積といった力学的相互作用や、傍分泌因子または接触時の分子交換を介した化学的コミュニケーションによって、互いに影響を及ぼしあいながら遊走する。これらの結果として適切な移動が可能になっていることが知られている。発表者らは理論モデル計算に基づいて、このような真核細胞の遊走の統計的性質について研究している。

当日はまず、内部極性をもった真核細胞の走化性遊走の理論モデルを導入し、その理論解析の結果を紹介する。内部極性に由来する遊走方向持続性が走化性精度を向上させることが理論的に見出される[1]。細胞性粘菌などが即時的な勾配検知では物理的に不可能なほど高い精度で走化性運動することが知られているが、その高い走化性精度が内部極性由来の遊走方向持続性により説明可能であることが本理論により示される。

そのモデルを集団での走化性遊走に拡張した最近の結果も説明する。ここでは、力学的な排除体積効果と、Contact Inhibition of Locomotion(CIL)と呼ばれる細胞たちが互いに重なり合わないように自らの内部極性方向を変調させる相互作用を導入する。この両方を同時に与えると、直接的に細胞間の向きをそろえる相互作用を与えずとも、有効的に集団遊走が生じ、またそれに応じて走化性精度が向上するという数値計算結果を説明したい。また走化性を離れて、外部刺激のない場合に本モデルやその亜種が示す集団挙動についても、いくつか紹介したい。

第9回

講演者: 難波 啓一 氏(大阪大学大学院生命機能研究科、理化学研究所放射光科学研究センター・生命機能科学研究センター)

日時:平成30年 8月 1日(水) 14:35~

場所:広島大学東広島キャンパス 理学部B棟603号室

演題:生体超分子モーターの高効率なエネルギー変換機構

生体超分子は構成原子の精密な立体配置により様々な機能を発現して生命機能を支えるナノマシンで、なかでも分子モーターは現存の工学技術をはるかにしのぐ高精度や桁違いに小さなエネルギーで効率よく動作する。細胞膜を横切る水素イオン流をエネルギー源とする細菌べん毛モーターや、ATP加水分解のエネルギーにより筋収縮を駆動するアクトミオシンモーターでは、クライオ電子顕微鏡やX線結晶解析による立体構造や光学顕微ナノ計測法による高速動態観察により、ブラウン運動のエネルギーを活用した高効率なエネルギー変換の仕組みが見えつつある。

第8回

講演者:鈴木美穂 氏(名古屋大学 大学院医学系研究科)

日時:平成30年 1月25日(木)16:30~

場所:広島大学東広島キャンパス 理学部B棟101号室

演題:DNAメチル化による遺伝子転写伸長領域のヌクレオソームの安定性制御

生物が無脊椎動物から脊椎動物へと進化したとき、DNAメチル化のターゲットは大きく変わった。脊椎動物ではゲノムDNAはグローバルにメチル化されているが、その原始型である無脊椎動物では主にハウスキーピング遺伝子の遺伝子転写伸長領域「gene body」のみがメチル化された、特徴的な修飾パターンを示す。

私は、このgene bodyメチル化による転写伸長制御機構の解明を目指している。無脊椎動物であるカタユウレイボヤを用いた解析により、gene bodyメチル化は転写伸長領域のヌクレオソームのポジショニングと安定性に関連していることを見出した。本セミナーではさらに、DNAメチル化がヌクレオソームを介して精巧な転写制御を行っている可能性について紹介したい。

第7回

講演者: Mathias Francois 氏(The Institute for Molecular Bioscience, The University of Queensland・Group Leader)日時:平成29年12月11日(月)14:30〜場所:広島大学東広島キャンパス 理学部B棟101号室演題:An integrated approach to drug SOX transcription factors: from development to cancerClassic genetic approaches have established that SOXF (-7, -17 and -18) transcription factors play a central role to instruct the genetic program that promotes arterio-venous specification and lymphangiogenesis during vertebrate development. Genetic ablation of these transcription factors in adult also prevent aberrant angio- and lymphangiogenesis that occur during solid cancer metastasis, establishing a proof of concept that SOXF are potential molecular target. In this presentation, I will show that SOX-F transcriptional activity can be disrupted pharmaceutically with small molecule inhibitors to halt blood vascular development in vivo. This finding is based on a pipeline of screening tools that range from homogenous in vitro assays to angiogenic zebrafish model system and mouse pre-clinical based assays. Our discovery provides a basis for innovative pharmacological manipulation of SOX-F proteins function and challenges the prevailing dogma that transcription factors are not suitable drug targets.

第6回

講演者: 小山宏史氏(自然科学研究機構 基礎生物学研究所 助教)

日時:平成29年11月30日(木)16:30~

場所:広島大学東広島キャンパス 理学部A棟017号室

演題:生物の形態の多様性、および、細胞集団のパターン形成の機械的な基盤

多細胞生物の組織や臓器は、多様な形態を持っている。あるいは、組織・臓器を構成する細胞集団は、様々なパターンをもった配置を示す。形態や細胞集団のパターンの多様性を決定する重要な要因として、機械的な力が挙げられる。本セミナーでは、以下の二つのトピックをとりあげたい。

1. 細胞集団と場との機械的な相互作用によって、どのようなパターンの配置が生じるかを、理論的に解析した。その結果、細胞集団の変形が場の変形と見かけ上カップルしないなど、非直観的で、かつ、多様なパターンが生じうることが分かった。細胞集団の受動的な運動の重要性を示唆している。

2. 形態の多様性を生み出す原理を、個々の細胞の機械的な力に求められないかと考えた。そこで、生体内での細胞の動きから、細胞の機械的な性質を推定する統計数理学的な方法を構築した。様々な組織から得られた推定結果を元に、細胞の機械的な性質を単純な数理モデルとして表した。本モデルによってどのような形態を説明しうる

か、その可能性について論じたい。

第5回

講演者: 深谷 雄志 氏(Lewis-Sigler Institute for Integrative Genomics, Princeton University・博士研究員(HFSP Long-term fellow))日時:平成29年9月22日(金)16:30〜場所:広島大学東広島キャンパス 理学部A棟017号室演題:ショウジョウバエ初期胚におけるエンハンサーダイナミクス転写制御において中心的な役割を担うのがエンハンサーと呼ばれる非コードDNA配列である。エンハンサーは自身が制御する標的遺伝子のプロモーター領域と相互作用することで、転写活性の時空間的特異性を制御している。近年のChIP-Seqなどの解析によって、ゲノム中のエンハンサーが網羅的に同定されてきた。さらにHi-Cなどの解析によって、エンハンサー・プロモーター相互作用を制御する高次染色体構造の存在が明らかとなってきた。しかしその一方で、エンハンサーが“どのように標的遺伝子の転写活性を制御しているのか”という根本的な問いは未だに未解明である。 本研究では、ショウジョウバエ初期胚を用いた転写ライブイメージング解析を駆使することによって、個体発生におけるエンハンサーの働きを1細胞レベルで可視化することに成功した。エンハンサーは転写バーストと呼ばれる転写活性の不連続性を緻密にコントロールすることによって、遺伝子発現量を時空間的に制御していることを見出した(Fukaya et al., Cell 2016)。さらに最近、ライブイメージングと遺伝学を組み合わせることにより、allele間におけるエンハンサー・プロモーター相互作用を可視化する新たな実験系に成功した。allele間相互作用は古典的にはTransvectionと呼ばれ、ショウジョウバエを用いた遺伝学的解析からその存在が半世紀以上も前に予言されていた (Lewis, Am Nat 1954)。本研究によって、その素過程をはじめて解明することに成功した(未発表データ)。

第4回

講演者: Yinon Bar-On(イスラエル・ワイツマン科学研究所)

日時:平成29年9月15日(金)16:30~

場所:広島大学東広島キャンパス 理学部A棟017号室

-

Speaker: Yinon Bar-On (Weizmann Institute of Science)

Date & Time: 15 September 2017 (Fri.), 16:30-

Place: Hiroshima University, School of Science, Room A017

Title:

A quantitative view of the biosphere:

From the most abundant taxa to the most abundant proteins

A census for biomass on Earth is key for understanding the structure and

dynamics of the biosphere. Similarly, a census of the mass of proteins that

drive global elemental cycles can help us understand the constraints that

they experience in the wild. Yet, a global quantitative view of how the

biomass of different taxa compare with each other, and which proteins are

most abundant in nature is still lacking.

We harness recent advances in global sampling techniques to assemble the

overall biomass composition of the biosphere. We establish a census of the

biomass of all the kingdoms of life. Using this census of biomass, we

estimate the global abundance of ubiquitous proteins throughout the

biosphere. From these analyses, we highlight several key take-home insights.

第3回

講演者: 森松賢順氏(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科 システム生理学・助教)日時:平成29年7月28日(金)16:30〜場所:広島大学東広島キャンパス 理学部A棟017号室演題:細胞の機械刺激応答の解明に向けた定量技術の開発生命活動に伴って体内には、ずり応力、圧力、伸展圧縮等の様々な機械刺激が生じる。組織や器官を構成する細胞は、これらの機械刺激を受容し、細胞自身や組織の機能維持に利用している。さらに、機械刺激は細胞の周期、増殖、分化や運動などの根幹機能の発現や調節に必須であることが分かっており、そのメカニズムの解明を目指すメカノバイオロジーという新しい学問領域が近年急速に発展してきた。本領域の根幹は機械刺激がどのように細胞に受容され、適切な応答を導くかを理解することである。そのためには、細胞に負荷される機械シグナル(メカノシグナル)を定量的に測定・制御する技術が不可欠である。しかし、これは従来の生物学的手法に比べて、極めて難しい技術であり、その後れが本領域の研究推進の大きな障壁として立ちはだかってきた。

本セミナーでは、メカノシグナルの可視化を目指した分子張力センサーの開発、可視化定量によって解明された機械刺激感受メカニズム、圧力や伸展刺激下での細胞機能発現について議論したい。

第2回

講演者:松田充弘(理化学究所生命システム研究センター・研究員)

日時:2017年6月9日(金)16時30分〜

場所:広島大学 理学部A棟017 講演タイトル:細胞間に非対称性を生み出す仕組みの再構成〜生物学における“つくる”アプローチ〜要旨:

本講演では、生物学における“つくる”アプローチを紹介する。これまでに、“調 べる”アプローチによって、生命現象における重要な遺伝子や要素が数多く同定 されてきた。またそれらがどのように作用して生命現象を実現しているかにつ いても理解が進んできた。では、その理解で十分にその生命現象は説明できる のであろうか。生命現象を再構成できるほどに十分なのであろうか。それを確 かめるため、生物部品を組み合わせて生命現象を実際に“つくる”アプローチがされ始めた。

多細胞生物は、様々な種類の細胞によって構成される。つまり、細胞分裂だ けでなく、細胞間に違いを生み出す(分化する)仕組みを持つ。私たちのグル ープは、培養細胞に遺伝子回路(Delta-Notch シグナルの側方抑制回路)を組 み立て、細胞間の違いを生み出す仕組みつくることに成功した。これにより、 この遺伝子回路がそれだけで細胞間の非対称性を生み出すのに十分であること が実証された。さらに、つくる過程や遺伝子回路が導入された細胞を調べるこ とで、この細胞集団は分化した細胞の比率や配置を適切に維持できること、細 胞の分化比率を調節する要因などが発見された。

個人的な感想になるが、実際につくってみて、予想以上に培養細胞が効率よ く非対称化することや、多細胞生物らしく振舞うことに驚くとともに、 Delta-Notch シグナルのすごさを痛感した。本セミナーではその感覚が共有で きれば幸いである。また、つくるというアプローチの価値や可能性について議論したい。

第1回

講演者:谷口 雄一(QBiC 生命システム研究センター・ユニットリーダー) 日時:2017年4月28日16時30分〜

場所:広島大学 理学部 A棟 017

講演タイトル:サブヌクレオソーム分解能でゲノムの3次元構造を決定する

要旨:

細胞の遺伝子発現の状態性は、様々なエピゲノム因子によって制御されている。代表的な因子として、ヒストン修飾やDNAメチル化などが広く知られているが、最近、ゲノムの持つ構造性が大きく注目を集めるようになった。その一つのきっかけとなったのが、2009年の全染色体立体配座捕捉法(Hi-C法)の誕生であり、これにより、ループやドメインを始めとする染色体内の各遺伝子領域の構造性や、その生理学的機能との関連性の理解が一気に進むようになった。現在我々が取り組んでいるのが、世界最高レベルでの分解能で染色体の構造解析を行う手法の開発である。我々はHi-C法の原理を拡張することによって、ゲノムの構造単位であるヌクレオソームの位置座標に加えて、各ヌクレオソームの配向性をゲノムワイドに解析する技術の開発に成功し、さらには分子動力学計算シミュレーションを用いて、ゲノム内のヌクレオソーム配列の3D最適構造を導出する手法の開発に成功した。この技術を用いて出芽酵母のゲノムを解析したところ、染色体内の一個一個のヌクレオソームが、一般的な30 nmファイバー説とは異なり、不規則に配列している様子が見えてきた。さらには、各遺伝子座のプロモーター領域や遺伝子コード領域の構造性が、エピゲノム修飾の種類に応じて特徴的に変化していることも分かってきた。一方で、分解能の向上によって、ループやドメインよりも小さなスケールでの、染色体のモチーフ構造も新たに見えてきている。今回の発表では、本技術(Hi-CO法)の概要とそれにより明らかとなった知見、生物学的・医学的有用性について議論する。