残念なことにK.ローレンツが四半世紀以上も前に警鐘をならした「文明化した人間の八つの大罪」は償われるどころか、ますます深刻化しつつある。中でも自然破壊に伴う生物多様性は著しく衰退している。こうした現状に鑑み、ヒトを含む生物の相互依存性をゲノムレベルで究明し、それに基づく新しい価値観を構築することを研究の主目的としている。基本的な原理は、生物が相互依存的に進化してきた事実が各生物のゲノムにも反映している点にある。その具体的な内容を、実験とデータ解析の両面で例示することを試みている。今後は相互依存性の原理と例を「不完全ゲノム」仮説として取りまとめ、支えあう生物多様性を遺伝学の立場から究明する。また、人類の遺伝的未来に関する考察も行っている。集団レベルの進化機構である自然選択と遺伝的浮動が停止しつつあるのが今日の人類集団の特徴であり、そのため人類の遺伝的未来は地上のどの生物にも見られない特異なものとなることが予想される。
文 献
1. 高畑 尚之(1999) 支え合う生物多様性を遺伝的にきわめる。 p166-175. アエラムック「生物学がわかる」(朝日新聞社)
2. Takahata N. (2001) Molecular Evolution: Neutral Theory. Encyclopedia of Life Sciences.