Research

原生生物オルガネラゲノム

プロティスト(単細胞の真核生物)がもつ色素体や(すべての真核生物が過去又は現在有する)ミトコンドリアは、もともと細菌が細胞内共生という現象を通じて進化してきたものと考えられています。そのため、これらの細胞内小器官(オルガネラ)は核ゲノムとは独立にそれ独自のゲノムを有しています。しかし、オルガネラの祖先とされる細菌のゲノムと比較すると「ゲノムサイズ」・「遺伝子数」が極端に減少しており、細胞内共生の影響を受けた独特のゲノム進化を遂げたと考えられます。この「細胞内共生を通じたゲノム進化」ではどのような道筋をたどり、最終的にどこに行きつくのか、に興味を持ち、プロティストのミトコンドリアゲノムや色素体ゲノムを解読・解析しています。

細胞機能の多様性

ほぼすべての真核生物は酸素呼吸のためにミトコンドリアを有し、ある種はミトコンドリアに加えて光合成のために葉緑体を有しています。では、酸素が無い環境で生存している真核生物のミトコンドリアはどう進化し、機能しているのでしょう。光合成をしていたにもかかわらず、進化の途中で光合成をしなくなった種は、葉緑体をどうするのでしょう。そのようなオルガネラでは、元々有していた機能が縮退したり、新たな機能を獲得するなど、予想もされなかった進化を遂げています。現在、嫌気環境で生きる真核生物や光合成を辞めた「藻類」のトランスクリプトーム解析やゲノム解読を進めており、その細胞機能の多様性や進化過程の解明に迫ろうとしています。

生き物の「色」を理解する

光合成には光を受容する「色」が必要です。そのため植物などはクロロフィルやカロテノイドといった色素を細胞内で合成しています。しかし、色素の多くは未だその生合成経路がわかっていません。光合成を捨てた植物・藻類を材料に、その生合成に関わる遺伝子の探索を進めています。また、光合成能を喪失した藻類や植物の多くは色素を全く合成しないのですが、中には光合成をしないにも拘わらず「色素」を細胞内で合成しているものがいます。光合成以外の「色素」の機能や生理・生態における役割を解明し、そのような物質の有効利用を目指して研究を進めています。

真核生物における大系統

生物におけるあらゆる進化の解析は、生物間の系統関係を明らかにしなければ成し得ません。生物の系統関係を探るうえで分子系統解析が主流ですが、我々は未だ生物の正確な系統関係を明らかにすることができていません。その理由として①分子データの正しい進化を反映した進化モデルが確立されていない、②正しい進化をトレースするための多くのパラメーターを用いた解析を行う現実的なプログラムが存在しない、③正しい進化をトレースするための多くのパラメーターを用いた現存する解析法に現在主に使用されている計算機が耐えられない、④現存する生物の多様性を把握しきれていない、⑤既知種の分子データが不足している、ことがあげられます。私は上述した原因の④と⑤を克服するため、様々な環境から真核微生物を単離・培養し、次世代シーケンシング技術を用いて分子データを蓄積しています。