当研究室を志望される方へ


はじめに

2015年から私が所属する東北大学情報科学研究科の「都市社会システム分析」講座は、国内外から幅広く、都市・地域経済学を学びたい学生を受け入れています。所属する学生の出身分野も、経済、工学系を中心に多岐にわたります。都市や地域の問題に対する強い探究心を持つ学生を、我々は待ち望んでいます。


この講座の特徴

都市・地域経済学を学びたい人にとって、この講座には大きなメリットがあります。その理由は、関連する講座も含めた学生・教員の数が非常に多いことです。我々は現在、後述する木曜ゼミを3研究室合同で行っており、合計で5名の教員が出席して学生と議論を交わします。これは経済学の分野ではあまり例のない、非常に大きなゼミです。ゼミでは常に最新の研究成果が報告され、とても刺激的です。

また「空間経済学」という大きなテーマはありますが、全体としての研究領域は多岐にわたっていて(不動産や交通から社会ネットワークや国際貿易まで!)、新しく、独創的なアイデアを奨励する雰囲気もあります。

学生の研究の水準は高く、これまでに多くの博士・修士論文が海外の学術誌に掲載されてきました。もちろんそのためには、都市・地域経済学だけでなく、その基礎となるミクロ経済学、ゲーム理論、計量経済学(統計学)について、高い水準の知識を身につけなければなりませんが、それらは大学院入学後のコースワーク(授業)で学ぶことが可能です。


ゼミの様子

①木曜ゼミ

毎週木曜日の午前(10:30-12:00),午後(13:30-15:00)にわたって行われます。最も重要なゼミで、地域計量システム分析講座(藤原研)、社会システム計画学講座(河野研)と合同で実施しています。研究テーマの異なる人たちが集まるので、想定外の質問が出るのが面白いです。

②火曜ゼミ

都市社会システム分析の教員(曽、伊藤)・学生が中心です。木曜ゼミに比べると少人数で、参加者の専門分野がかなり近いので、突っ込んだ内容の濃密な議論ができます。木曜ゼミのたたき台として、草稿を発表する学生が多いようです。参加者の約半数が外国人なので、英語と日本語が適当に入り混じって議論が飛び交います。

③ワークショップ(研究会)

講座では定期的に国内外の研究者を招聘して、最新の研究成果を報告していただいています(詳細はこちら)。2時間近く議論しますので、終わると頭がものすごく疲れますが、その分勉強になります。同様の研究会は他学部、他大学でも開催されていますので、自分の研究成果がまとまったら報告に行くといいでしょう。


この講座での大学院生活の流れ

①入学試験~入学まで

入試科目は経済学系科目が中心です。出身が経済学系でない人には抵抗があるかもしれませんが、基礎的な数学能力(高校の数III、C程度)があれば、入試レベルの経済学を学ぶことはさほど難しくありません。筆記試験は選択式ですが、ミクロ経済学だけは専攻テーマにかかわらず必ず選ぶようにしてください。

また学科試験と同様に、面接も重要です。面接では、自分自身での大学の研究成果(経済学でなくとも構いません)と、入学後の研究計画について20分程度でスライドを用いて発表していただき、質疑応答を行います。研究計画を立てる際は、最低一本以上の関連する学術論文を読み、それをどのように発展させるかを話してください。面接時の研究計画をそのまま進められることはまずありませんので、計画自体の完成度はそれほど重視しません。自分の持っている問題意識について論理的に説明し、適切に議論できるかという部分を重点的にチェックしています。

入学が決まったら(おめでとうございます)、4月からの研究生活に備えて、準備をしましょう。大学院レベルのミクロ経済学や計量経済学等のテキストを読み始めるとともに、関連する論文をできるだけ多く読みましょう。また、論文の読み書きや留学生との議論などで英語を使う機会が多いので、このチャンスに勉強しましょう。

②修士1年目

1年目はコースワークが生活の中心になります。コースワークは前期にミクロ、ゲーム、計量経済学、後期に都市経済学、空間経済学、空間統計関連科目、数理経済学が設けられていて、研究室所属学生は必ず受講します。またマクロ経済学・応用実証経済学などを学びたい場合は、経済学研究科等の講義を受講することもできます。

ゼミでは、半期に1~2回程度のペースで報告の順番が回ってきます.最初の半年から1年の間は、学術誌に掲載された他の研究者の論文(ほとんど英語)を読んで発表します。ただし、数式等の内容を正確に理解するのはもちろんですが、その論文と自分のテーマとの関係、論文に対する建設的な拡張の提案など、修士論文執筆に向けた研究者目線での報告が求められます。

夏休みは講義・ゼミはありませんが、その分一年で最も研究に集中できるチャンスです。また年が明けた頃から、修士論文に向けた本格的な研究(モデル構築、解析、データ収集など)が始まります。

③修士2年目

とにかく修士論文を完成させてください。それだけです(笑)はじめて論文を執筆する人にとっては大変なことも多いですが、「毎年の自分の成果を1本以上の論文にまとめる」というのは、研究者にとって最低限のノルマに過ぎません。行き詰まったら、何が大事なのか、何が面白いのか、そしてなぜ自分が興味を持ったのかということを、丁寧に考えてみましょう。修士論文は基本的に英語で書きます(草稿段階で日本語を使うのはかまいません)。夏ごろまでに成果の見通しを立てて、秋・冬の学会で報告するくらいの気持ちで頑張りましょう。実際に、学会発表にゴーサインを出すこともあります。

④博士後期課程

研究者を目指す人だけではなく、コンサルタントの中でも特に専門的な仕事をしたい人には、博士号が必須の時代です。博士後期では3年間で計2~3本の論文を、なるべく統一的なテーマで執筆し、国内外の学会で報告したり、国際ジャーナルに投稿したりします。授業はほとんどなく、ゼミ以外は毎日ひたすら研究です。なお、テーマにもよりますが、我々の分野の若手研究者がほぼ確実に大学等のポストを得る目安として、Impact Factor 1.0 以上の国際ジャーナルに論文2本を掲載する必要があるという印象です。(1本だとボーダーライン。以上はここ10年程度の限られた観察結果に基づく、超個人的見解です)。また後期過程在学中には様々な研究助成(月20万円の給与が出るものもあります)に応募するチャンスがあります。研究助成や就職には、「実力」と「成果(=論文が雑誌に採択されたかどうか)」が最も重要です。短期的な成果は運に左右される場合もありますが、長期的には必ず期待値(=実力)に収束します。


Q&A

Q. 入学するにはどうしたらいいですか?

A. 年二回行われる入試を受けてください。過去問はこちらです。必ず最新の募集要項を確認してください。また、なるべく応募する前にメールなどで私とコンタクトを取ってください。その際に、プロフィールや、現在大学で専攻しているテーマ(経済学でなくてもかまいません)、どんなテーマに興味があるのかということ(具体的な研究計画は必要ありません)などを、書いてください。それからできれば、私の論文を読んだ感想も送ってください。このコンタクトを通じて、入試までに読むべき本や論文などをアドバイスすることができると思います。タイミングが合えば、ぜひ実際に研究室を訪問し、ゼミの様子等を見学していただきたと思います。(*2021年度後期は研究室ゼミをオンラインで実施する予定ですので、そちらを見学し、また私とオンラインで面談することもできます。興味がある方は一度メールで問い合わせてみてください)

また、はじめに研究生として入学し、半年間研究室に在籍しながら入試に備えることもできます。これまで経済学を学んでこなかった方などは検討してみてください。(*なお、推薦入試も受け付けていますが、こちらは既に大学院1年次終了レベルの学力と知識を持っていて、入学後すぐに本格的な研究を始められるレベルの学生を想定したものなので、合格基準はかなり高くなります。)


Q. どんなテーマが学べるのでしょうか?

A. 大きく言えば「空間経済学」で、これは全ての経済学に距離・広さという概念を導入したものです。空間経済学は大きく分けると3種類あり、

①都市内の地価・立地選択・施設配置計画などを学ぶ「都市経済学」、

②地域ブロック・国などに焦点を当てて、交易・人口移動や産業集積を研究する「地域経済学・国際経済学」、

③交通インフラの整備や交通産業の適切な運営について扱う「交通経済学」です。

また交通と集積の関係といったように、横断的なテーマも数多くあります。基本的に、希望すれば関連するほとんどのテーマを研究することが可能です。参考までに、過去の卒業生の学位論文リストはこちらです。


Q. 伊藤さん自身のテーマを教えてください

A. いま一番興味を持って取り組んでいるのは「企業間取引ネットワークと立地集積」です。企業の個票データや産業連関表などの集計データと理論的なモデルを組み合わせてシミュレーションや統計分析を行うことで、様々な政策や災害などによるショックが、経済全体に波及していくプロセスに関心があります。また分析結果を、特定大企業への減税措置といった企業誘致・産業成長戦略に応用する方法にも興味を持っています。

他には「都市や地域の成長とそれに伴う都市構造の変化(都市の成長サイクルなど)」、「災害等に起因する交通システムの不確実性と、そのリスクを軽減する最適なインフラ投資方法の提案」「地価決定要因の実証分析と、推定結果に基づく政策提言」などにも興味があります。

私自身の研究は、経済理論に基づく解析的(つまり紙とペンだけで解く)アプローチが中心ですが、データを使った実証やモデルのシミュレーションもやります。PythonやGISソフトなどの新しい技術は私自身が目下勉強中ということもあり、プログラミングが得意な大学院生と組んで分析できたらと思っています。ただし、学生が私と同じテーマを選択する必要は必ずしもありません。


Q. 大学院を志望する学部4年生ですが、具体的な研究テーマが決まっていません

A. 私の場合、志望時点での研究計画の完成度そのものはそれほど重視しません。自分の大きな興味(国際貿易、地域成長, etc. )に沿って専門的な学術論文をいくつか読み、(できれば過去15年以内くらいで、英文のimpact factor付き学術雑誌に掲載されたもの)その研究が現在どこまで到達しているか、そしてどのような問題点があるかを自分なりに指摘してください。最初は分野全体を横断的に勉強するより、特に興味を持った1,2本を徹底的に読んでください。


Q. コースワークのレベルを教えてください

A. コースワークは、国内の経済学系主要大学院と同等の水準を目指していますので、Hal Varianの「Intermediate Microeconomics」程度の内容は一通り理解していることを前提として講義を進めています。経済学部出身以外の人にも多少配慮した内容になっていますが、受講者全員が入学試験をパスしていることは前提なので、あくまでも多少です。ちなみに私が担当しているミクロ経済学の教科書は、西村和雄「ミクロ経済学」(東洋経済)です。定理の証明も含めて徹底的に勉強しています。


Q. 要求される英語(日本語)能力はどのくらいですか?

A. 研究室の公用語は日本語、または英語です。英語であればTOEIC700点、日本語であればN1以上が、

研究室内のコミュニケーションに必要な最低ラインになると思います。このいずれかを、入学までに必ず習得してください。ただし、英語での論文の読み書きや、日本語を話せない留学生とのコミュニケーションを考えると、日本語を主に使う学生であっても、入学までにTOEIC600点程度は取る必要があります。また、大学院入試における英語検定試験の点数の比重も、それなりに高いです。在籍している留学生のスコアの平均は800点くらいで、半数の学生が英語でゼミ発表を行います。


Q. 博士後期課程に進学したい(研究者になりたい)のですが、研究に向いているかどうか分かりません。

A. 実際に自分で研究して論文を書き、我々大学教員と研究を通じて毎日接していれば、自分が研究者になれるのか(または本当になりたいのか)は、1年ほどで分かるでしょう。あなたが決断したのなら我々は協力を惜しみませんが、1年以上たっても悩んでいるならば、後期課程進学はやめたほうがいいと思います。一つだけ言えるのは、コースワーク等での総合的な成績は重要ですが、それだけが研究者としての重要な資質ではないということです。我々に求められているのは、あらゆる科目において、60分の試験で要領よく100点を取ることではなく、特定のテーマで1年間かけて101点をとる、つまりたった一つの新たな知見にたどり着くことなのです。とにかく迷ったら、まずは大学院修士課程に入ってみることをお勧めします。

なお、私が博士後期課程進学を受け入れる条件は大体以下のようなものです。

(1)コースワークの成績。関連講座の教員が担当する経済学関連の科目を一通り受講しており、成績が良好であること(概ねB以上)。

(2)将来的に海外ジャーナルに投稿できそうな修士論文を単著、少なくとも第一著者として完成できる見込みがある(要するに、自分で立てた研究計画を持ってこれて、分析の大半をこなせるということ。もちろん指導教員としてアドバイスはします)。

(3)ゼミや勉強会などで積極的に発言できる人。(この辺は個人のキャラクターもありますので総合的に判断しますが、幅広い興味をもっていること、論理的に分かりやすくコメントできるということを特に重視しています。)