本サイトは、「日本におけるスズメの減少」について知っていただくために設けたサイトです。以下によく質問される事柄についてまとめました。
古いバージョンがこちらにあります。
かつては、スズメの個体数の変動を示すようなデータがありませんでした。
そこで私は、いろんなデータをかき集めて2009年に「日本におけるスズメの個体数減少の実態」という論文を書きました。そこでは「1990年ごろの個体数の20%から50%程度に減少したと推定された.1960年代と比べると減少の度合いはさらに大きく,現在の個体数は当時の1/10程度になった可能性がある.」と推定しています。
その後、「スズメの謎」「スズメつかず・はなれず・二千年」でもそれらについて触れました。
一方、近年では鳥の継続的調査が行われ、より信頼性のある数値が得られるようになっています。
私が解析した最も新しい論文として2023年に出した「鳥類繁殖分布調査の第2回(1997-2002)と第3回(2016-2020)の間にみられるスズメの減少」があります。
これは、全国繁殖分布調査のデータを用いたものです。
この調査は、環境省やNPO、NGOなどが中心となって、日本に2,300のコースを設定し、そこに出現する鳥類の種と個体数を調べたものです。第2回が1997-2002年に行われ、第3回が2016-2020年 に行われました。年に幅があるのは、これだけのコースを調査するのに、複数年かかるからです。
この調査では、当然ながらスズメも記録されていますから、この2つの間を比較すれば、スズメの増減がわかるわけです。
その結果、第2 回の調査が行なわれた年を2000 年,第3 回の調査が行なわれた年を2018 年とすると,18 年間で個体数は62.1%になったと推測されました。つまり4割ちかくになったということです。ここから単純に計算すると、毎年,前年の2.61% の個体数が減少し,おおよそ26 年間で半減すると予測できました。
また、どういった環境で減ったかも解析をしました。すると農地面積が大きいところで減少していることがわかりました。
私は、関わっていませんが「モニタリングサイト1000里地調査2005-2022年度とりまとめ報告書」においてもスズメの減少が示されています。
いろいろな方面から、スズメの減少が示されているということです。
ただし、この2つとも、解析上の問題を持っています。
先に、後者のモニタリングサイト1000のほうは、里地里山でスズメが減少しているという結果であって、日本におけるスズメの個体群が減少しているかどうかはわかりません。おそらくですが、里地里山の減少を日本全体に当てはめると、スズメの減少を過大評価することになるだろうと思います。というのも、前述したように、農地が多いようなところではスズメの減少は大きいからです。モニタリングサイト1000の里地里山調査では、いわばスズメの減少が大きなところが調査地になっていますから、どうしても、過大評価ぎみになるはずです。上記の報告書にもこのように書いてあります:「ただし、今回の結果はモニタリングサイト 1000 の調査 サイトに限った結果であることから、今回の結果のみで、全国を対象とする環境省レッドリストにおけるこれらの種のカテゴリーは決 定できません。 」と。
対して、1つめの全国繁殖分布調査は、調査ルートにいろんな環境が含まれています。また、解析するときに、スズメの生息環境と、生息環境の面積を考慮して推測をしました。なので、より日本全国のスズメの個体数の推移を表しているだろうと思います。とはいえ、それでも、スズメの最も重要な生息地である都市の中心部のデータは少なく、そこに、やはり解析上の問題が残っています。
はっきりとしたことはわかりません。一般に、なぜ減ったのかという原因を特定するのは難しい作業です。それに比べれば「スズメが減ったかどうか」は調べればわかるものですから容易な問題といえます。
ですから、以下に述べる減少要因はあくまで推測に基づくものです。
減少する要因としてスズメの生活史から次のようなことが考えられます。「1.巣を作る場所がない」、「2.子育てがうまくいかない」、「3.巣立った子供が秋まで生存できない」、「4.巣立った子供が冬を越せない」
個人的には1と2が大きいと考えています。
まず1の巣を作る場所についてですが、最近は気密性の高い住居が多く なってスズメが巣をつくる場所が減っています。実際、次のような研究をしています。
日本におけるスズメ個体数の減少要因の解明:近年建てられた住宅地におけるスズメの巣の密度の低さ
スズメPasser montanusの巣数と建物の新旧度の関係
2の子育てがうまくいかないことについては、近年、街中からスズメが餌をとるような環境、具体的に は舗装されていない小道・公園および空き地が減少したことが影響していると考えられます。実際、農村などの餌が多いところ と比べて、町中では1つがいの親あたりの若鳥の数が少ないようです(詳細については、こちらの論文を ご覧ください)。
1と2は、互いに高め合ってしまうかもしれません。というのも、スズメは餌を取りに行く範囲が狭い鳥です。せい ぜい巣から半径100mほどです。そのためスズメがうまく繁殖するためには、巣を作れるような隙間と餌を効率よくとれる環境(緑地など)がセットになって いる必要があるのですが、その組み合わせが日本の都市から減っているのではないかと思います。
スズメは全国的には減少傾向にあると思われます。しかし全国どこでも一様に減っているかどうかはわかりません。あまり減っていないところもあ るかもしれませんし、増えているところもあるかもしれません。実際、前述の全国繫殖分布調査でも、増えている地域はありました。
なお、スズメの増減を考えるときに、季節に注意を払う必要があります。
なぜなら、スズメを見かける頻度は、季節によって大きく異なるからです。
スズメは、繁殖期である、4月から7月にかけては、街にうすく広くいるので、よく目にします。
しかし、スズメは、8月ごろからだんだんと群れをつくるようになり、しかも一部は郊外に移動します。
その結果、秋冬になると町中でスズメを見る頻度が減るのです。
ですから、スズメの増減については、印象だけでなく、季節を考慮した上で、増えたか減ったかを客観的に見る必要があります。
もう1つ注意が必要で、スズメの減少を安易に「身近な自然の減少」と結びつけるのはちょっと違うかもしれません。
たとえばですけれど、山が造成されて宅地になったとします。このとき、スズメの数が増えるか減るかというと、増えます。なぜなら、スズメは山の中にいる鳥ではなくて、あくまで都市部から郊外にかけて生息している鳥だからです。山があってもスズメは生息できませんが、それが都市化されると生息地になるのです。
ですから、単純に自然の減少という見方をするのは、すこし間違っています。
上述した推定減少率が正しいとして、そしてその減少率が今後も続くと仮定しても100年後でも絶滅はしません。
なぜなら、日本には、おおよそ数千万羽のスズメがいると推定されているからです。
しかしこのスピードで減少していくと、スズメは街中の鳥ではなく「農村にほそぼそと暮らしている鳥」にな る可能性があります。
絶滅危惧種に指定される可能性はありますが、それは、環境省レッドリストの判定基準のひとつに、過去 10 年間もしくは3世代のどちらか長い期間で、30%以上個体数が減少すると、絶滅危惧II類に指定されるからです。前年から3.6%ずつ減ると(仮に前年に1000個体だったものが、1年後に964になる)、10年間で30%以上の個体数が減ることになります。
ただし、この項目を厳密に当てはめると、日本にいるほかの多くの鳥もレッドリストに入ることになります。
どう答えるべきか、私としては迷います。
まずスズメの個体数が減少したことが本当にそんなに問題なのかを考える必要があります。スズメよりももっと急速に減少している種はいて、100年を待たずに絶滅してしまいそうな種が、日本に数十種はいます。緊急性が高いそれらの種を、先にどうにかすべきではないかと思うのです。
一方で、もし身の回りからスズメがいなくなったら、精神的あるは文化的な意味での損失が大きいように思えます。スズメは、日本のさまざまな文化の中に登場しています。たとえば、俳句に詠まれたり、家紋で意匠として使われたり、日本画の中でわき役を演じていたりします。いくつもの昔話にも登場しますし、「すずめの涙」「すずめ色」というような言葉もあります。また、テレビやラジオの中でスズメの「チュンチュン」という声は、市井や町中などの場所また朝が来たことを示す効 果音として用いられています。つまりスズメの姿や声は我々の日常の光景であり音であるのです。そういったスズメをスズメとして認識できるのは、スズメが身近にいて、我々がスズメを知っているからこそです。しかし、もしスズメが身の回りから消えてしまえば、こういったことがわからなくなってしまいます。それは大きな損失だと思うのです。
という風に迷っていまして、今のところは、多くの人にスズメを知ってもらって、スズメが身近にいる景色が良いものだと感じてもらいたいと考えています。